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鳥のように高いところからの俯瞰はできませんが、ITのことをちょっと違った視線から

改めて「顧客経験価値」というものを理解するのに有効なワークショップに参加してきた

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 「カスタマー・エクスペリエンス」このカタカナ語もまた、ここ最近のIT業界というか、インターネットなりを活用するマーケティングの世界では、かなりの流行言葉だろう。

顧客との接点でどんな価値を提供しているのか

 このカスタマー・エクスペリエンス、日本語では「顧客経験価値」と訳すようだ。商品やサービスを購入するだけでなく、商品なりを購入する前、購入しさらにそれを使ってからどうしたかという、商品と顧客の関わりをライフサイクルで捉え、その中で何らか感動するような経験を顧客に提供できるようにしようと考えるもの。

 これまでも、顧客というものに注目する企業活動はさまざまなものがあった。それがCRM(Customer Relationship Management)というシステムや、顧客データベースの一元化、統合などというITの仕組みの導入にもつながっている。最近流行のビッグデータも、顧客が次に何を購入するのかといったことを予測したい、そういうニーズに応えようとするものも多い。

 しかしながら、従来の考え方は、企業側が顧客をどう捉えるかという視点がほとんどだ。なので、あくまでも企業側が必要だと考える情報を収集し、それを顧客データベースなりに蓄積する。集まった情報を分析し、何らか知見を得ようとしてきた。

 これに対して、カスタマー・エクスペリエンスは、ちょっとアプローチが異なる。顧客の体験に注目しライフサイクルで顧客との接点を捉える。その中で、顧客に感動するような経験を与えることで、新たな商品の購入や口コミによる情報の伝播などで、企業のビジネスに効果を生み出そうとするもの。このカスタマー・エクスペリエンスには、必ずしもITがなければならない分けではない。もちろん、ITがあったほうがうまく顧客との接点を捉えられるし、ITがないとよりよいサービスを提供するのが難しいシーンもあるだろう。なので、結果的には顧客データベースや、顧客とのコンタクト情報を管理するシステムを導入することにはなる。

 とはいえ、あくまでも顧客の経験をライフサイクルで捉えることが重要。なのでむしろコンタクトをとる人であるとかの対応が、カスタマー・エクスペリエンスでは重きが置かれる。コールセンターのオペレーターであったり、店舗などで直接対応する店員だったり。場合によっては、SNSで製品やサービスのことをつぶやく担当者も、顧客との接点を担う人かもしれない。そういった人たちが、どんな対応をするのか。さらに拡大解釈すると、たとえばサポートの情報をWebサイトに掲載して、それを顧客が参考にするということもある。このときに、そのサポートサイトの情報を記載する人、そのサポートサイトの検索の仕組みを作った人なんていうのも、間接的には顧客との接点を担う人と解釈できる。

Oracleなのに製品説明や宣伝がまるでないワークショップ

 前置きが長くなったが、先日Oracleが開催した「Customer Journey Mapping Workshop」に参加してきた。これ、まさにカスタマー・エクスペリエンスの顧客との接点、それをライフサイクルで捉えるにはどうしたらいいかを、実践的に経験するワークショップだ。製品ベンダーのOracleが主催するワークショップだが、同社の製品がどういう機能を持っているであるとか、これを使うとこんなことができるという話が一切ないという珍しいワークショップだった。

IMG 1468 ワークショップで利用するのも、ホワイトボードと付箋紙のみ。PCもインターネットも使わない。ある顧客の体験について、それに関わった人、モノを洗い出し、顧客が接点ごとにどんな感情を抱いたのかを考える。もっとも重要な経験は何であり、そこに問題、課題があるのであれば、それらをどうすることでビジネスの課題が改善できるかを考える。

 今回はワークショップであり、限られた時間だったので、あらかじめ顧客のペルソナ(仮想の顧客像)が設定されており、その顧客がどんな経験をしたかというストーリーも決められていた。顧客が経験した企業とのやり取りの中で、関わった人、モノをまずは洗い出す。これは、直接関わったもの、さらには裏側で関わっているモノという2段階で洗い出す。この作業、とにかく思いついたものを付箋紙に書き出して、該当するやり取りの部分にどんどんペタペタと貼っていく。あまり考えすぎない、複数の人間で同じ意見が出ていても気にしないのがポイント。

IMG 1473 次が、顧客がどういう感情を持ったのか、それを洗い出す。これもまた、思いつくものを付箋紙に書いてどんどん貼り付ける。詳細は割愛するが、このあとは投票を行いどれが一番インパクトのあるものかを洗い出し、最終的には問題点を改善するためにどうすればいいかを考えるといった流れでワークショップは進む。

 今回このワークショップに参加してみて、商品なりサービスなりを提供するとなると、販売するというだけでなく、さまざまな顧客の接点が生まれるのだなというのを改めて感じた。いいものを提供するのはもちろんだけど、これら接点でどういう対応をするかで顧客の感情は大きく異なる。それが、継続的なビジネスには大きな影響を与えるであろうとことが容易に想像できる。

 当然ながら、こういう洗い出しをすると、「ああ、ここの接点のサービスレベルを向上させようとすれば、オペレーターはこういう情報が手許にないと無理だよね」ということがすぐに分かる。そうであれば、そのための情報管理システムをどう構築すればいいかに考え至るということに。さらには、組織の壁というかサイロ化が、顧客体験のライフサイクルをいびつなものにする原因だなということも認識できることに。

 今回は、架空のビジネスを題材にしたワークショップだが、これが自社のビジネスだった場合には、数時間で結果が出るというわけにはいかないだろう。顧客のペルソナを決めるのも一苦労だろうし、そのペルソナの顧客体験を洗い出すだけでも相当時間がかかりそうだ。このあたりは、Oracleの講師に訊いてもその通りだとのこと。さらにはこういう手法で問題点を洗い出し改善の施策を考えても、それこそ組織の壁を越えてそれを実践できるのかという大きな問題もありそうだ。

 とはいえ、何らか顧客との関係を改善し自社ビジネスに革新をもたらしたいと考えるのならば、このワークショップに参加して、それを自社にも適用してみるのは多いに意義あることだと思う。

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