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鳥のように高いところからの俯瞰はできませんが、ITのことをちょっと違った視線から

ルールは無用

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 最近、電子書籍のセミナーなどで話す際に取り入れている話題が、「ルールは無用」ってな話だ。

 電子書籍が売れないという話は、ここでも何度かしている。大手出版社が出したものでも、数10冊しか売れない。100冊くらいはざらで、1000冊を越えればそれなりのヒット作だなんて話しもよく聞く。もちろん、2万冊、3万冊と売れている電子書籍もあるけれど、まだまだ少数だ。

 そんな情況なので、さまざまな工夫をしながら電子書籍のビジネスに関わっている。単品売りではなく、マーケティングツールとして活用し市場には無料で配るであるとか、新たな電子書籍ならではの広告のありかたを模索するとか。電子書籍ビジネスの実現方法も工夫が必要だと思っている。電子書籍は出版してもあっと言う間に埋もれてしまう。その理由の1つは、全国のリアル書店にある、平台にあたるような露出場所がほとんどないからだ。なので、ネットの世界で継続的な露出をしていかなければならない。そのために、出版する前から、Facebookなどで専用ページなどを作ったり、電子書籍側にも簡単にTwitterでつぶやけるリンクを付けたりと、口コミで広がる工夫をしたりもする。

 そういう工夫をあれこれ考えてはいるのだけれど、どうしても既存の紙の書籍の発想から脱しきれない自分がいてもどかしい。たとえば、ページめくりを紙の書籍のようにリアルに再現する機能がある。めくっているページの裏の文字が写っている様子まで、苦労してリアルに再現してみたりした。しかし、ふと思ったのだけれど、これって電子書籍としては本当にめくり易い機能なのだろうかと。電子書籍なんだから、いっそ画面に触れなくても、読者が思ったタイミングでページめくられたら、それはそのほうが便利じゃないかと思ったり。

 もう1つ、売り方もそうだ。電子書籍は価格が高いとなかなか売れない。内容や分量の如何に関わらず、500円、1000円のところに高い壁がある。1000円超える書籍というのは、値段だけでなかなか買うという行為に至らない。350円くらいの価格が良さそうだというのが、なんとなく分かってきた。そのために1冊1000円の本を3冊に分冊して売るなんて工夫を電子書籍ではすることになる。

 とはいえ、これも本というものを1冊という単位で考えているから出てくる発想だ。逆に、あるテーマの本30冊分で5000円とか、この書棚から好きに10冊選んで3000円とか、そういう売り方してもいいだろう。あるいは、コンテンツをダウンロードできないサーバー配信型であれば、このネット上にある書棚の本を1ヶ月間読み放題で1500円、なんて売り方もできる。いっそ、端末にハリーポッター全巻入れて、端末ごといくらで売るみたいなことも可能だ。

 そう考えていくと、「ああ、電子書籍のビジネスに、いまはルールや常識がまだないんだよな」ということに気付く。どうしても紙の本をイメージして、それを電子の世界に展開するとどうなるかって発想から入ってしまうけれど、最初から電子の世界で考えて、新たなこのコンテンツを展開するのにどうしたらいいのかを考える。そのためにどんな機能や仕組みが必要になるのかって発想をしないとなのだ。とくに我々のようなインディーズの電子書籍レーベールをやっているものにとっては、既存の書籍流通の常識なんて関係ないはず。なのに、なんとなくそういう、「ある意味過去の世界ルール」に引きずられているところがある。著作権料や出版の契約もどうしても既存の紙の書籍のものを踏襲してしまうけど、理解してくれる著者とならまったく新しい契約のあり方を考えればいい。

 そう考えたときに、楽天のようなこれまでの出版の常識とは縁遠い企業がこの世界に入ってくるのは歓迎されることなんだろうなぁと思い始めている。もっと出版の常識なんて関係ないって企業が参入しないと、電子書籍の世界の本当の盛り上がりはないだろうなぁとも。というわけで、我々も、もっと常識を越えたようなアイデアで、電子書籍の世界に新風を送り込みたいなぁと思った次第。この世界、まだまだしばらくは、ルール無用な情況が続くはずだから。

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