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母親のことで心残りなことがある

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 私の母は、昨年の1月に亡くなった。その母のことで、1つ心残りなことがある。

 母は、樺太生まれ。終戦後日本に戻ってきた。そのときの年齢は10歳。終戦の年の8月15日以降に、船で日本に引き上げてきたらしい。しかしながら、乗っていた船は終戦後にも関わらず、何者かの攻撃に遭って沈没してしまう。この事件で多くの人が命を落としたのだが、奇跡的に祖母と子供だった母という親子2人で助かったのだとのこと。祖母が泳げなかったのが幸いし、祖母は母とともにともかく壊れた船の残骸にしがみついていることだけを考えたらしい。冷たい海で長時間漂流したらしいが、なまじ体力があり泳げるような人は、やがて力尽き目の前で海に飲み込まれていくような状況だったとか。

 このすさまじい経験の話は、子供の頃から何度か耳にする機会があったのだけれど、母も、祖母もあまり詳細については語ってくれなかったように思う。私のほうも、何故か根掘り葉掘り聞くことはしなかった。祖母が亡くなり、母が亡くなった今、この話の細部を確かめるすべはもうない。

 先日、ブロガーの佐々木さん今泉さんらと新しいビジネスの話をする打ち合わせをしていた。その際にキーワードとなったのが「オーラルヒストリー」というもの。簡単に言えば、政治家など時代を動かしてきたような人にインタビューをし、その貴重な経験を記録するというものだ。公式な文書の記録などでは残されていない、真の姿を1年間ほどかけてじっくりと引き出すようだ。学問体系として使われる言葉でもあり、歴史や民俗学などでも同様な手法はは昔からとられている。

 母はもちろん時代を動かしたわけでも有名人でもないが、貴重な経験をしたことは確かだ。いま自分が、まがいなりにもライターといったインタビューをして文章を書く仕事をしているのに、この母の貴重な経験をどうしてきちんとした形で残さなかったのだろうかと後悔しているのだ。きっかけさえあれば、なんら難しいことではなかったはずなのにと。

 そんなこんなで、自分のような心残りを持たないようにするためにも、何かサポートをするビジネスというのもありだなと考えている。アウトプットの形は、いまならブログでもいいし、書籍でもいい。動画もありかもしれないし、もちろん電子書籍もありだろう。今残さなければ消えて行くような面白く、貴重な経験を、わかりやすい形にして人々に伝える、そんなことをちょっと考えている。

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