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どうやって人間の本来の能力を活用し、それを世界に役立てるのか

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 Dreamforce2日目の午後のキーノートに、ゲストスピーカーとしてジャーナリストであり作家であるMalcolm Gladwell氏が登場した。

 彼のもっとも有名な著作は、ティッピングポイントに関するもの。これについては、手軽に読める文庫の翻訳版も出版されている。

 口コミによるヒット商品が生まれる仕組みを、ウィルス感染をもとに分析しているもので、個人的にもかなり興味深いものだった。

 で、今回はこのティッピングポイントの話ではなく、著作としては次に出版される本の中身の話。個人の能力をいかにして引き出し、それを世界に役立てるかという話だ。

 個人が本来持っている能力を、いまの社会というか世界は阻害している。たとえば、貧しい地域において奨学金で中学、高校に行けるようにしても、ある地域では中学には行ってもその先の高校へは行かなかった。これは、高校がその地域のギャングのたまり場の向こう側にあったからだという。特異な例ではあるが、貧困ということがまず第一の、個人の能力を制限する理由だという。貧しいと、たとえその人に能力があったとしても、十分な教育を受ける機会を奪い取ってしまうのだ。

 もう1つの能力の発揮を阻害する要因が、理不尽な社会のルールだという。チェコのホッケーのジュニアチームでは、なぜか1〜3月うまれの選手が多いという。何故か、チームの年齢の区切りが1月1日を境に設定されているので、選手を選ぶ際に能力で選ぶのではなく結果的に子供の年齢差で選出しているというのだ。小さな子供の数ヶ月の年齢差は、そのまま運動能力に表れる。そのため、早く生まれた子供が選出されているというのだ。

 ホッケーがだめならサッカーがあるじゃないか。ところがチェコではサッカーのチームも、1月1日が年齢の区切りとなっているので、こちらもまた1〜3月生まれの子供が数多く選出されてる割合が高いのだとか。これは、結果を見れば理不尽な話だが、1月1日を学年の区切りにするというルールを作る際にはなんら疑問もなく決められているはず。社会のルールが、時には個人の能力を引き出すことを阻害している一例だという。このようなことが、世の中にはたくさんあるのだ。

 3つめの阻害要因は、考え方にあるという。米国はアジアの国々より子供たちの数学の成績が悪いという。これは米国人に能力がないのではなく、考え方の違いからくるものだという。米国では数学は才能だと考えられているが、アジアの多くの国では身につけるべきスキルだと考えているというのだ。

 世界中で実施されているTIMSSという学力テストがあるが、この試験の前にはかなりの質問数のアンケートが行われるそうだ。で、このアンケートにどこまで答えたかと、数学のテストの試験の点数がみごとに一致するという。つまり、数学の試験を受けなくても、どれくらい忍耐強くこのアンケートに答えられるかがわかれば、数学の能力が分かってしまうのだ。努力して諦めなければできるようになるという考え方をもっているかどうかの違いが、数学の能力を引き出すかどうかにつながる。実際、難しい数学の問題を米国の10歳の子供に与えると1分であきらめるが、日本の子供は制限時間いっぱいの15分間考えるという結果もあるとか。日本では、数学は努力すればできると考えているという(最近の日本の子供たちが本当にそう思っているかどうかはわからないが)。

 とにかく、やりつづけることは重要なようだ。それはたんに目的なくつづけるのではなく、結果が何か得られると言うことを信じて続けることだ。ビートルズは米国に来る前、ドイツのストリップ劇場で毎日8時間、都合1200セッションをこなしていたとか。それが後の成功に繋がったのではとのこと。彼らは自分たちのその仕事に意味があると考えていたはずだという。

 ビルゲイツ氏は、13歳でプログラミングを経験した。コンピュータルームに閉じこもりプログラミングをしていたが、当時はコンピュータを使うことで大きな費用がかっかった。

 そこで、11年生のときには、朝の2時から6時までならコンピュータルームをタダで使えることが分かり、夜中に毎日数マイルの距離を歩いてそこに通い続けたらしい。彼がマイクロソフトで成功したのは、彼が天才だったからではないとGladwell氏は言う。もちろん頭はいいのだけれど、1つのことに努力(彼がこれを努力とは考えてはいなかったかもしれないが)をし続けることで何かが得られると考えていたはずだという。彼が達成したことこそを、才能だと捉えるべきなのだ。

 チャリティやボランティアなどのフィランソロフィー(Philanthropy)は、相手に何が足りないかを考え、障害を取り除くことで彼らの能力を引き出すための活動だとGladwell氏。物理的、経済的、精神的な障害を取り除いてあげることであり、Salesfoce.comの社会貢献の活動はそれを実践するものだと言う。

「世界に意味のあるギフトをあげてください」という言葉で、Gladwell氏は講演を締めくくった。

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