個人事業主が廃業を決断するとき
先日、税務署に行って、個人事業の廃業手続きをしてきました。
「廃業」というと、赤字で事業が立ち行かなくなったケースを想像し、企業の「倒産」と同じイメージを持っている方も多いかも知れません。
でも、資金繰りに窮して債務超過に陥った訳ではなく、資産超過状態であっても、経営者が自主的に判断して事業を停止すれば、「廃業」になります。
例えば、個人で行っていた事業を株式会社などの法人格に格上げする場合も、個人事業廃止になりますので、必ずしもネガティブなことばかりではありません。
今回、私が個人事業を「廃業」した理由は、4月から常勤の大学教員になるからです。副業が許されていないので、廃業せざるを得ないのです。では、3月ではなく、なぜ、このタイミングで「廃業届」を出したのか。それは、廃業日を、昨年末(12月31日)にしたかったからです。「廃業届」は廃業後、1ヵ月以内に提出しなくてはならないのです。廃業日を昨年末にしたのは、下手に今年に持ち越して、来年の申告を複雑にしたくなかったのです(個人事業主の申告は、1月1日から12月31日の1年間が基準)。今年に入ってからも、売上があったり、経費が発生していれば問題ですが、実質、今現在は、非常勤講師(給与所得)の仕事のみで事業所得はありません。
高齢や病気、家庭の事情、売上減少、廃業する理由は、いろいろあると思います。
思うように稼げない、何とか食べてはいけているが仕事に追われて休みが取れない、心が休まらない、収入が安定せず将来が不安...。
以前のエントリー(「起業を考えている会社員に伝えたい3つのこと」)の中で、「事業の撤退の基準を明確にしておきましょう」と書きましたが、廃業も、基準を決めておいて、そのラインを下回ったかどうかで、判断すると良いと思います。
儲からない、体力も限界、精神的にもキツイという状況で、ズルズル続けて、金銭的にも、心身面も取り返しのつかない状態になってしまっては最悪です。
「石にかじりついても」という人もいますが、噛み続けて歯が欠けてしまう前に決断すべきです。「石臼を箸に刺す」ということわざもありますよね。
私の場合は、コロナ禍で研修事業が打撃を受けても、非常勤講師の仕事があったので、そこまで、追い込まれた訳ではなかったのですが、この先を考えると、個人事業を続けるよりも、大学教員により魅力を感じるようになっていました。そんな中、今までの経験を十二分に評価してもらい、必要とされている、と自分の役割を見つけられたことが、決断の大きな理由になりました。
私のケースは特殊かも知れません。雇う側としては、元個人事業主のことを「トップとしてやってきた人が会社組織の中でうまくやれるのか」「我が強くて扱いずらくないか」と評価することも多いと思います。また40代、50代であれば、就活は、ただでさえ困難です。運よく就職先が見つかっても、自分より若い人間の下で、以前勤めていた頃の給料よりビックリするくらい安い額で働くことになるかも知れません。
でも、個人事業を廃業し、再就職してから活躍している人もいます。元個人事業主という経験があるからこそ果たせる役割を再就職先で発見して、評価をどんどん上げています。
冒頭にも書きましたが、廃業はネガティブなことではありません。経営者が自主的に判断して事業を停止すれば、「廃業」です。
廃業は、新たな道へのスタートでもあります。