「趣味」や「好きなこと」と「仕事」との違い
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先日、ヤクルトの宮本慎也選手が今季限りでの現役引退を表明しました。
その引退記者会見の中で、
好きで始めた野球が、プロになった瞬間に仕事に変わった
というお話がありました。
最近は楽しむという選手もいるが、一度も楽しんだことはない
との言葉も。
また、9月4日の放送で最終回となったフジテレビ「ピカルの定理」に出演していた渡辺直美さんが、自身のブログで、次のように書かれています。
私はコント番組に入りたくて芸人になりました!その夢が奇跡的に叶って嬉しかったです。
と夢を実現した喜びがあった反面、
でもピカルはとても辛かったです。一度も満足した事がありません。毎日反省ばっかりで、収録で楽しかった思い出がありません。
どうすればみんなが楽しく見てくれるかを考え過ぎて自分は楽しく出来てなかったのが、最大の反省です。
と、苦しかった心のうちを明かしています。
わたしは、大学で「キャリアデザイン」を教えています。
学生に、「やりたい仕事」を聞くと、趣味の延長線上のものや自分の好きなことを挙げたりします。
キャリアデザインの講義は「自分を知ろう」というところから入るので、そうなりがちなところもあるのですが、「仕事はツライもの。でも、自分の好きなことなら楽しくできる」と考えてしまうのは誤りです。「好きなことを仕事にする」のと「仕事を楽しむ」のは全く別の話だからです。
趣味は、お金を払ってでも楽しいことですが、仕事は、商品を買ってもらったり、給与をもらったり、お金を支払ってもらわなくてはいけません。
自分の好きなことをしていたのでは、誰もお金を支払ってくれません。
どんなに自分が良いと思っていても、お客さんや所属会社が求めているものと違っていては、お金になりません。
また、仕事である以上、期限や予算があります。ここまでやりたい、と思っても、締切や予算の範囲に収まらなければ諦めるか他の方法を考えなくてはいけません。
そして重くのしかかる責任。仕事であれば、好不調に関わらず、常に、結果を求められます。
仕事の目的は、他者の満足であり、その目的を共有し、達成することで、初めて自分の満足を得ることが出来るのだと思います。
一方、趣味は、自分が楽しむこと、自己満足が目的です。自分が満足するレベルに到達するために、コーチに厳しくされたり、辛い練習に耐えたりすることはありますが、判断も評価も、あくまでも、自分の価値観です。
それを仕事にするには、その価値観を、他者に合わせることが必要になります。妥協が必要なこともありし、我慢しなければならないときもあります。そういった価値観の修正は、自分が好きなこと、拘りが強いことほど、難しく、辛い作業だと思います。
実は、わたしは学生時代、マンガを描いていました。
いくつか漫画の賞も頂いて、仕事として考え初めた頃、突然、描けなくなってしまいました。
編集者の意見や、周囲(友人たち)の感想、そして見えない読者の反応、そういったものが気になって仕方が無くなり、何を描いたらよいのか解らなくなってしまったのです。
それまでは描きたいことがたくさんあって、アイデアが次から次に浮かんできて、筆が追い付かない、という感じだったのですが、全く、何も浮かばなくなり、それでも、白い原稿用紙に向かっていれば、そのうち、アイデアが出るかな、と描き始めるのですが、すぐに止まってしまうのです。
「何か描かなければ」という想いが強くなればなるほど、描き進められなくなり、ついには、何も描けなくなってしまいました。
好きだったマンガを全く楽しめなくなっていました。
結局、わたしは、マンガを描くことをやめてしまいました。
「だから、学生のみなさんに、『趣味を仕事にするな』と言いたい!」
のではありません。
誰もが実現できることではないので、
「趣味を仕事にできたら、それは幸せなこと」
だと思いますし、
「好きなことだから、頑張れる」
という面もあります。
でも、決して、それだけではないことを、楽しさが苦しさに変わっても続けていく覚悟が必要だということを、知った上で考えて欲しいのです。
宮本選手は会見で、こんなことも言ってます。
仕事として真剣に向き合って19年間やってこれたところが誇れるところ
宮本選手や渡辺直美さんの言葉からは、好きなことを仕事にする人に必要な、「強い気持ち」が感じ取れると思います。
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