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福島第1原発事故は、事態を冷静に見守ることが大事

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連日、TVでは、福島第1原子力発電所のニュースが報道されています。

わたしは、学生時代に耐震を学び、卒業後入社したメーカー系SIerでは、在籍していた10年間科学技術計算をやっていました。
原子力発電所の事故発生時のシミュレーションにも何度か関わりましたが、今回のように非常用電源が使えないとか、建屋が吹き飛んで放射性物質を含んだ蒸気がフィルターを通さずに放出されるといったことは経験したことがありません。
3号機周辺で人体に影響を与えるような高いレベルの放射線量が観測されたり、首都圏でも放射性物質が検出されるなど、大変、深刻な事態が発生しています。
このままでは、チェルノブイリのようになる、と不安の声も聞きます。

しかし、福島第1原発は1~3号機は地震直後に自動停止していて、4号機は定期点検中。運転中に核分裂が制御できなくなったチェルノブイリの事故とは大きく異なります。下記の記事にもありますが、20km以上離れた地域の住民が致死量に達する放射線を受けたり、首都圏に影響があったりすることは心配する必要はありません。

■記者の目:福島第1原発の放射性物質漏出=斗ケ沢秀俊【毎日jp】

問題は、冷やせないことであり、そのために、東電や協力会社の社員、自衛隊、警察関係者らの放水作業や、安定的に冷却水を供給すための電源回復の作業が行われているのです。
この記事にあるように、今は事態を冷静に見守ることが大事だと思います。

首都圏でも、1時間あたりの放射線量が東京で通常の20倍以上、埼玉で40倍近くの値を観測したという報道がありますが、この程度では人体に影響はありません。20倍、40倍と聞くと、不安になる人もいると思いますが、普段、0.0マイクロ単位の値が数十倍になったところで、大した数字ではないのです。

例えば、飛行機に乗れば、放射線を普段より多めに受けます。高度の高いところではを地上にいる時よりも多く宇宙から降り注ぐ放射線(宇宙線)を受けます。東京~ニューヨーク間の往復では190マイクロシーベルト(0.19ミリシーベルト)多く被ばくすると東電のホームページ等に書かれています。フライト時間を往復27時間とすると、1時間あたりに受ける放射線量は、東京の通常値の200倍です。

「宇宙線やレントゲンのX線は、原子力発電所が出す放射線と違って人体に影響が少ないから、そんなものと比較しても意味が無い」という人がいますが、「シーベルト」という単位は、「人体に放射線によりどの位のエネルギーが与えられたか」という単位です。
放射線には、アルファ線、ガンマ線、中性子線など様々な種類があり、放射線が生物に及ぼす効果は、放射線の種類やエネルギーによって異なります。吸収線量に線質係数などの係数をかけて換算したものが「シーベルト」です。

「年間被ばく線量限度が千マイクロシーベルト(1ミリシーベルト)だから、今は大丈夫でも、年間で考えたら危険なのでは?」という声も聞きますが、年間被ばく線量限度は、これを超えたら健康を害する、というものではありません。医学的な数値ではなく、あくまでも放射線防護や放射線管理のための目安です。放射線に関わる仕事の人(放射線作業従事者)の職業被ばくの年間線量限度は5年間で10万マイクロシーベルト(100ミリシーベルト)、任意の1年では5万マイクロシーベルト(50ミリシーベルト)、公衆の被ばくが千マイクロシーベルト(1ミリシーベルト)です。

低線量の放射線量被ばくと健康被害の関係は実はよく分かっていません。被ばくしないに越したことはありませんが、通常、レントゲンなどの医療被ばくを受けなくても、年間2400マイクロシーベルト(2.4ミリシーベルト)の自然放射線を受けています。自然放射線は地域によっても異なりますが、数値が高いからガン発生率が高い、ということではありません。

放射線は一度に大量に浴びると人体に影響があります。数十万マイクロシーベルト(数百ミリシーベルト)で影響が出ることが分かっています。しかし20万マイクロシーベルト(200ミリシーベルト)以下では、影響は確認されていません。広島・長崎の原爆被ばく者12万人を戦後50年以上調査しても10万マイクロシーベルト(100ミリシーベルト)以下の低線量域では明確なデータは得られていないのです。

「微量でも放射性物質を体内に取り込んで被ばくし続けるのが問題」という人もいますが、通常の食物にもカリウム40など放射性物質は含まれています。自然放射線のうち、年間で290マイクロシーベルト(0.29ミリシーベルト)、人は食物による放射線を体内から受けています。実は、このような「内部被ばく」と健康の関係もあまり分かっていません。(内部被ばくによる甲状腺ガンの発症については、唯一、因果関係が認められています。このことについては最後にまとめました)

分かっていない、というと、不安になりますが、健康を害する要因、リスクは、放射線だけではありません。だから因果関係がはっきり分からないのです。食生活やウィルスなど、微量の放射線よりも、健康を脅かすリスクが高いものはたくさんあります。

「放射線のリスクよりも、事故による ストレスやパニックの方が悪影響を与える」という記事もあります。

■原発事故:一番のリスクはパニック状態に陥ること--専門家コメント【CNETJapan】

繰り返しになりますが、今は事態を冷静に見守ることが大事だと思います。


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「内部被ばく」
唯一、因果関係が言われているのが、放射性物質「ヨウ素131」による甲状腺ガンです。チェルノブイリ原発事故のときに子どもの発症率が高まりました。

ヨウ素は約180℃以上では気体なので、蒸気にまじって、放出されやすい物質です。
天然に存在するヨウ素は放射性の無いヨウ素127です。
ヨウ素は人体には必須の微量元素で、喉の甲状腺にあり成長ホルモンとして働いています。
放射性のヨウ素131を人体に取り込むと、ヨウ素127と同様に甲状腺に集められてしまいます。

それを防ぐために、放射性ヨウ素を体の中に取り込んでしまった場合に、医師が安定ヨウ素剤を処方することがあります。それは、ヨウ素131が甲状腺に集められる前に、ヨウ素127を集めてしまおうというものです。
ヨードを含んだヨードチンキやうがい薬を飲めば大丈夫、などというデマがネットで広まりましたが、もちろん、そんなものでは、効果はありません。毒になるだけです。
また、ヨウ素剤は、甲状腺への放射線被ばくを低減するのにのみ有効で、他の臓器への内部被ばくや、ヨウ素131以外の放射性物質による被ばくには効果はありません。

マスクや濡れタオルで鼻や口を覆うのが励行されているのは、「内部被ばく」を避けるためです。
花粉症対策と同じですが、外出時はマスク、帰宅後は、体や髪に付着した放射性物質を洗い流し、鼻や口から入るのを防ぐことが、「内部被ばく」を避けるのには有効なのです。

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