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朝言ったことを夕方に見直す勇気を持つ。「朝令暮改の発想」

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セブン-イレブン・ジャパンを創設し、現在、セブン&アイ・ホールディングスの会長兼CEOとして巨大流通グループを率いる鈴木敏文会長の著書「朝令暮改の発想―仕事の壁を突破する95の直言朝令暮改の発想―仕事の壁を突破する95の直言」を読みました。

「朝令暮改」は、本来、良い意味で使われる言葉ではありません。
それが、この本では、朝令暮改の発想が必要、と書いてあるのです。
右肩上がりで成長を続けていた時代では、記憶力が求められ、過去の成功経験、お手本をなぞり、一度立てた計画を維持すれば、結果もだいたいその通りにできていました。
過去の経験をなぞる時代では、

朝令暮改といえば、以前はネガティブな意味でとらえられていました。一定の方向に向けて成長を続けているときは、前言を翻すと判断力や決断力のなさを非難されたものです。

となっていました。
しかし、今はどうでしょう。
環境が激変し、一年先、半年先の世の中がどうなっているか、誰にも読めません。
そんな時代では、朝令暮改は、悪いことではなく、むしろ、必要な能力になっている、と本書にはあります。
一度いったことでも環境が変化し、通用しなくなれば、すぐに訂正して方針を示さなければ、変化に取り残されてしまいます。朝令暮改を躊躇なくできることが優れたリーダーの条件の一つになっている。言葉の意味合いそのものがまったく逆転するほど、変化の激しい時代に突入しています。

変化を感じ取って、すばやく方針を変えるなんて、
鈴木会長が天才的なヒラメキを持っている人だから言えることなんでしょ、
という人もいるかも知れませんが、そうばかりではありません。
チャンスをつかめるかどうかは、才能ではなく、ものの見方や、仕事の取り組み方にかかっています。世の中でいわれていることを鵜呑みにするのではなく、「なぜ、そうなのか」と常に問題意識をもってクエスチョンを発し続け、自分で掘り下げて考える習慣を身につけることです。そうすると、日々起きるさまざまな出来事に対し、自分なりの理解力がついてきます。

この本には、不景気を言い訳にせず、問題意識をもって、新しいことへ挑戦していく取り組み方のヒント、「直言」が95個書いてあります。
そして、その「直言」は、「常識」とされていることをあらためて問い直してみるための視点でもあります。
例えば、わたしたちは、競合他社にどう勝つか、自社と他社と比較することをよく行いますが、
直言12 大切なのは「相対的な競争」ではなく「絶対的な価値」を追求すること では、
自分たちは他社を上回っていると思っても、顧客の満足を得られなければ、それは、ただの自己満足にすぎません。

と、ばっさり。
また、「お客様のことを考えて」とよく言いますが、それも、
直言19 「顧客のために」ではなく「顧客の立場」で考える で、
わたしたちが「顧客のために」と考えるときは、たいていの場合、自分の過去の成功経験をもとに、「顧客はこんなものを求めているはずだ」「顧客とはこういうものだ」と売り手からの思いこみや決めつけがあります。

と、常識を見直すことを促します。

これらの直言は、「○○せよ」とか「こうすれば、うまく行く」ということではありません。
ワンランク上の素材を使い、1個160円~180円という高価格帯ながら、ヒット商品となった「こだわりおむすび」や、経験豊富なプロではなく、入ってまもないパートタイマーや学生アルバイトの従業員に商品の発注を任せる「発注分担」など、成功事例がいくつも紹介されていますが、事例は、常識を見直す勇気を与えるものであって、「それを真似ればいい」ということでは無いのです。
過去の成功体験は、変化の激しい時代にはそのまま通用するとはかぎりません。
直言64 本を読みながら傍線を引くなら「反対意見」に引く では、過去の成功体験を基にしているようなノウハウ本やハウツウ本を読むことに対して、こんなことも書いてあります。

そうした過去の成功体験を同感に思い、鵜呑みにしているかぎり、自分も過去の経験から抜け出せなくなる可能性があります。
一方、自分と異なる意見や反対意見と出会ったとき、どこが異なるのか、なぜそうなるのか、根拠は何か、ひるがえって自分はなぜこう考えるのか・・・突きつめて考えていくことで、自分の考えを補正補強したり、発展させることができます。

今の自分を問い直す、変えようという気がなければ、どんな本を読んでも成長できない、という訳です。
こんな風に、今の自分を変えようと、これまでとは違う自分に挑戦していくことは、苦労もリスクも多くなるかも知れません。
でも、常識どおりのやり方にとらわれていたり、根本的な原因に目を向けず「○○のせいだ」と考えてしまったり、安易に妥協してしまっていては、せっかくのチャンスも見過ごしてしまいます。
挑戦して努力するからこそ、幸運を引き寄せることができるのです。
最後の95番目の直言、直言95 「挑み続ける生き方」こそが人間にとっていちばん大切な財産 には、こんな風に書いてあります。

困難にも多く出会うため、ときには損な生き方ではないかと落ち込むこともあるでしょう。ただ、挑戦する意志があるかぎり、それでも納得できる。大切なのは、自分に妥協する生き方ではなく、自分で納得できる生き方ではないでしょうか。

すでに挑戦し続けている人には、心強い味方となり、これから挑戦しようという人には、勇気を与えてくれる本だと思います。

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