「技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか」はどういう本?
社員から、「面白い本、ありますよ」と言われて貸してもらいました。
妹尾賢一郎著「技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか」です。
日本の自動車産業は、15年で壊滅状態になります
そんなショッキングな言葉でこの本は始まります。
かつて世界を席巻した日本の半導体が、今は壊滅状態であり、それと同じことが自動車産業にも起こる、というのです。
あっ、でも、これ、予言の書とか、そういうものでは無いですよ。
いまや半導体は、大企業がお荷物と苦しむ自体に陥っています。
そんな中、インテルだけが高収益を確保しています。
そこには、ビジネスモデルの変化、イノベーションによるインテルの巧みな「事業戦略」があった、と、この本には書かれているのです。
インテルは、MPUと他の部品をつなぐPCIバスの技術を押さえ、それまでは、インテグラル製品(部品間の相互調整を綿密に行うことによって創り上げる、摺り合わせ型製品)だったパソコンを、基幹部品であるMPUの急所技術を開発して、それを起点にモジュラー型製品(部品をつなぐだけで済む組み立て型製品)に変えてしまったのです。しかも、それだけではありません。 そのMPUを取り付けたマザーボードという「中間財」を創り、それによってパソコンの組み立てを一気に簡略化したのです。そして、その制作ノウハウを台湾メーカに渡して、廉価なマザーボードを制作してもらい世界中に普及する作戦を進めたのです。
部品メーカが完成品を従属させるという画期的な戦略で、パソコンが普及すればするほど、拡大した市場から得られる収益はインテルに還流するようになり、逆に、日本のパソコンメーカやエレクトロニクス製品メーカは壊滅状態に追いやられた、というわけです。
日本のメーカは、摺り合わせ型のインテグラル製品には強いのですが、組み立てパソコンのようなモジュラー型製品になると、コストの安いBRICsをはじめとする新興諸国に負けてしまいます。
インテグラル型製品の代表格である自動車も、電気自動車になるとモジュラー型製品になってしまうので、海外のメーカに同様のことをやられかねない危険性がある、というのです。
でも、この本は、日本企業が危ないと、不安を煽るだけのものでもありません。
発明だけでなく、発明と普及の組み合わせを考え、戦略的シナリオを描き、巧みにオープン戦略を用いて、イノベーションのイニシアチブをとることが重要だということを、インテルだけでなく、アップルやアドビシステムズ、コカ・コーラなどの例を用いて説明されています。
また、この本が、単に“日本企業はダメ”と自虐的になっている訳でもない証拠に、日清食品やシマノなど日本企業の成功例も紹介されています。
成功例だけでなく、失敗例も書かれています。
こうした成功例、失敗例を読むと、技術だけで勝つ時代は終わり、
- 競争優位な技術を(見つけるのではなく)創り出し、
- どこを独自技術としてブラックボックス化したりライセンス化し、どこを標準化などオープンにするかの戦略を立て、
- これらを基に市場拡大と収益確保を同時達成するイノベーションモデルを構築するために、せめぎ合いをする
そんな時代なのだと、改めて実感させられます。
そう、この本はビジネス書です。
事業戦略や独自技術やオープン化について、考え直してみたい、そんな気にさせられます。
でも、ビジネスの指南書ではありません。
この本を読んでも、答えは見つからないかも知れません。
たぶん、答えは自分たちで考えると思います。そういうことを考えるときのワクワクする感覚に気付かせてくれる本だからです。