「苦情を受け付けません」という紙は「モンスターカスタマー」対策になるか
山口正洋氏のエントリ「スカイマーク・・・・頭は大丈夫か?」が発端だと思いますが、スカイマークに搭乗した時にシートポケットに入っているというサービスコンセプトが話題になり、日経ビジネスも「スカイマーク騒動が浮き彫りにした“感情”のお値段」という長い記事を公開しています。要するに「安かろう、(サービスが)悪かろう」を表明することで、苦情を門前払いしようという“試み”です。「安いのだから運賃の高い航空会社と同じサービスを期待しないでほしい」ということを問題視するつもりはないのですが、これを「モンスターカスタマー」対策として捉えている人がいるのは少し驚きです。
具体的に「モンスターカスタマー」という言葉の定義されているわけではないのですが、「理不尽な言いがかりをつけてくる客」という意味であれば、そのような人々がこういう紙を配ることで言いがかりをつけなくなるとは、とても考えられません。理不尽な言いがかりといっても、その人にとっては筋が通っているつもりのものですから「こんな紙を配って苦情を受け付けないとは、どういうことか。ちゃんと話を聞け」と言われることすら想像できます。
そのような客からの苦情を受け付けないようにするためには、航空券を買う際に「苦情を受け付けない」という書面を表示して同意を得るべきです。むしろ、そうしてもなお「そんなものは読まなかった」「見づらかった」といってクレームをつけてくるのが「モンスターカスタマー」というものです。でも、そういうモンスターカスタマーは滅多にいません。
そもそもサービスコンセプトに挙げられている例は、モンスターカスタマーを示しているものでしょうか。「丁寧な言葉遣い」「身だしなみを整える」「私語を慎む」ということを望んだら「モンスターカスタマー」認定するというのは、条件が厳しすぎると感じます。世のカスタマーサービスが泣かされているであろうモンスターカスタマーは、そんなものではありません。
■節約できるものは何か
このコンセプトによって抑えられるのは「普通のカスタマー」に対するサービスコストです。丁寧な言葉遣いや身だしなみに対する教育コストをかけていないということです。めったにいないモンスターカスタマーに対するコストを節約したところで、たいしたコスト削減にはなりません。普通のカスタマーに対するコストを下げるからコスト削減になるのです。
また、顧客対応に責任をもって対応できる人もいないということでしょう。幼児の泣き声で苦情を言われたらどう対処するとよいか(「何もできません」と答えるのも、ひとつの対処です)といったことなど、さまざまな対応が経験として積み重ねられ、受け継がれていくという仕組みはなさそうです。
medtoolz氏が「スカイマークの試みはうまくいってほしい」というエントリで「ああいうメッセージはたぶん、乗務員の士気を高めてくれる」と書かれていますが、この紙を渡すことで士気が高まるとは思えません。「言葉遣いを気にしなくてもいい」「苦情を聞かなくていい」ということで、どんな“士気”が高まるというのでしょう。うまく対応できないときに代わってくれる先輩がいたり、しっかりした教育を受けられる方が、ずっと士気を高められるでしょう。
■顧客の選択
飛行機に乗る目的は「客を(安全に)目的地まで運んでくれる」ことですから、すぐれたサービスが必要なわけではありません。私自身、サービスがよい(らしい)ということが航空会社を選択する理由にはなりませんし、スカイマークを選びたくないのはサービスレベルが低そうだからではありません。ただ、元サポート担当者としては、このような試みが成功してほしいとは思いません。「スカイマーク “文書”回収へ」(NHK)となるのも当然ではないかと思います。