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誰もが言っていた「ソニーがアップルになれなかった本当の理由」

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栄村大震災から今日で1年です。アンサイクロペディアのこの記事がなければ気付かなかったかもしれません。昨日、今日と冒頭に追加されている情報もあります。あまりにも大きな影響を残した東日本大震災に埋もれてしまうかとも思いましたが、「県北部地震から1年 栄村、本格復興へ一歩 長野」(産経新聞)など報道もされているようです。

“今日”のブログネタはこれかなと思いつつ、なんだかオチャラケて不謹慎な印象があるかと思っていたところに、中島聡さんが「誰も言いたがらない「Sony が Apple になれなかった本当の理由」」という記事を書かれていました。「日本では終身雇用が原則なので融通が利かない」(大意)だそうです。でも、それは「サムソンになれなかった理由」でしょう。

Comics38_lo■サムソンの成長

しばしば報道されていますが、サムソンは日本の企業にいた技術者を高給で引き抜いたり、リストラされた技術者を一定の期間だけ雇用することで、彼らの持つノウハウを吸収し、(終身雇用などせず)一定の契約期間の後に退職してもらうという形をとることで効率よく技術力を蓄積してきました。パクリ問題で訴訟沙汰になったことはありましたが、ほとんどは合法な活動だったはずです。

そのように“美味しいところ”だけ持っていかれたのは、世界的な不況という社会情勢があります。不況でもなければ、そうやすやすと技術者が流出していくこともなかったでしょう。ソニーに限らず日本企業にとっては、あまり露骨な姿勢を取ると社会的な批判対象になりかねないということも想像できます。

そもそも、アメリカのコンピューター会社はアップルだけではありません。DELL や HP、IBM(当時)だってパソコンを売っていました。“雇用の柔軟性”があったからといって、彼らがアップルになれたわけではありません。

■ウォークマンが iPod に勝てなかった理由

そもそもソニーがアップルのような企業になりたいと思っているのかはわからないのですが、音楽プレーヤー競争で(世界的には)ウォークマンは iPod に負けました。その理由は「MP3 に対応しなかったから」です。当時は、誰もが MP3 対応が必要だと言っていました。「新しいウォークマンが出たが、また MP3 対応は見送られた(これでは売れないだろう)」と言われることが3年以上も続き、シェアを奪われ続けてにっちもさっちもいかなくなってから、ようやく MP3 に対応したのです(※)。
※「ソニー、MP3対応音楽プレイヤーを欧州で発表」(CNet)

長らく MP3 に対応できなかった背景として、SME(Sony Music Entertainment)の存在を無視できません。元々 DAT の時代から「デジタル複製は1世代限り」という仕組みがAV機器業界とコンテンツ業界との合意として受け継がれてきました。民生用 CD-ROM ドライブが登場し、保護機構のない CD-ROM から楽曲データをリッピングすることが一般化し、この合意が崩壊しつつあったのですが、「AV機器」会社としてのソニーが「コンテンツ会社」である SME との合意を無視できなかったのでしょう。

■FairPlay は何を守ったのか

iPod 向けの音楽ストア、iTunes Music Store(当時)では FairPlay という DRM が採用されました。これは従来の DRM に比べても制限の緩いものであり、そのおかげで人気を得ましたが、厳しく制限されていたこともあります。他社には、いっさいライセンスされなかったということです。そもそもコンテンツに対して保護が緩いことは、アップルにとっては何のリスクもありません。しかし、FairPlay を他社にライセンスしないことで、他社のデバイスへの移行を抑制できます。

この点で興味深い事実があります。Steve Jobs は 2007年2月に "Thoughts on Music" というメッセージを公開しました。「最初の選択肢は、今まで通り各社の DRM を維持すること。2番目の選択肢は FairPlay をライセンスすること。でも、もっとよい3番目の選択肢は DRM を捨てることだ」というものです。3番目の選択肢を引用します。

The third alternative is to abolish DRMs entirely. Imagine a world where every online store sells DRM-free music encoded in open licensable formats. In such a world, any player can play music purchased from any store, and any store can sell music which is playable on all players. This is clearly the best alternative for consumers, and Apple would embrace it in a heartbeat. If the big four music companies would license Apple their music without the requirement that it be protected with a DRM, we would switch to selling only DRM-free music on our iTunes store. Every iPod ever made will play this DRM-free music.

(参考訳)3番目の選択肢は、DRM を完全に捨て去ることです。あらゆるオンラインストアがオープンにライセンスされた形式でエンコードされた DRM のない音楽を販売する世界を想像してください。そのような世界では、どんなプレイヤーも、どのストアから購入された曲を再生でき、どのストアも、すべてのプレイヤーで再生可能な音楽を売ることができるのです。消費者にとって最良の選択肢であることは明らかで、4大音楽会社がアップルにDRM なしで売ることを許諾してくれれば、アップルは直ちに(in a heartbeat)対応します。これまでに製造された iPod は DRM フリーの音楽を再生できます。

このメッセージは大きな話題になったので、ご記憶の方も多いでしょう。1カ月後には EMI の楽曲が DRM フリーで販売され、これも話題になりました。興味深いのは、その後です。米アマゾンは、「Amazon MP3」という音楽販売サイトを2007年9月に立ち上げるのですが(この時点ではベータ)、ここでは4大レーベルの楽曲も DRM フリーで販売されました。一方、iTunes Store で4大レーベルの楽曲を DRM フリー(iTunes Plus)で販売するようになったのは、2009年になってからです。アップルの心臓は1年ごとにしか鼓動しないのでしょうか。

■アップルの成功

アップルの成功が Steve Jobs に起因するのは間違いありません。しかし、その成功の理由を紐解いていくと「プラットフォームとしてオープンである必要はない」という経験則が得られてしまいます。世が世なら、「Just Window」が一世を風靡していたかもしれません(←それは嘘)。

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