英語的発想に慣れよう! その2
今回の例題は成田行きバスの中で経験した車内案内です。
お降りの際はゴミをお持ち帰りください。車内美化にご協力をお願いいたします。
ステップ1:主語と述語を探す。
主語らしい主語が見当たらないので、述語から探してみましょう。
標準的な日本語文らしく文末に「お願いいたします。」という述語がありました。
これに呼応する主語は?と思って探してみると、文中には該当する主語がないことがわかります。
意味から判断すると、お願いしているのはバス会社。
主語の省略は日本語ではよくあることです。
「バス会社」は「お願いします。」で英文の S+V が決まりました。
ここまでまで来ると、「バス会社」は「お願いします」「協力を」という S+V+O 構文まですぐに思い浮かびますよね。
ステップ2:「協力を」をどう訳す?
「協力を」の訳語としてcoorperation という名詞を考え付いたとしましょう。
「cooperation」 と「車内美化」を結びつける時に、どの前置詞を使いますか?
cooperation of 車内美化?
cooperation for 車内美化?
悩んだ時は辞書を引いて確認しましょう。こういう場合に、どのような時に of を使い、どのような時に for を使うか、丁寧に解説してくれている辞書があると本当に助かるのですが、このような情報は辞書には載っていませんので、参考にするには文法の教科書の方が よいかも知れません。とは言うものの、文法の教科書もここまで詳細な解説は載っていないかも知れませんが。
そこで、用例をいくつか参考にすることで判断してみましょう。
そうすると、of の後に来る単語は協力する人、for の後ろには協力する内容が来るらしいということがわかります。
したがって「協力を」はcoorperation for と訳すことにしておきましょう。
ステップ3:「車内美化」をどう訳す?
次は cooperation for の後に来る車内美化です。
熟語の英訳は要注意ですよ。「車内美化」で和英辞典を引いてもまず掲載されていないでしょうね。
それでは「美化」だけだったらどうでしょう?
beautification、canonization、glamorization などが見つかりました。
どれを選んだらよいでしょうか?
今度は、英和辞典でそれぞれの単語の意味を調べ、用例でニュアンスを確認します。
beautification は、草花を植えて公園を美しくしたり、美貌を求めたりするという意味での美化。
canonization は、話を美化する、偶像化するという意味での美化。
glamorization は、魅惑的なもの(グラマー)にするという意味。
車内美化という文脈で使えるのは、この3つの中ではbeautificationですが、車内を飾り立てて美しくすると言うニュアンスです。だとすると beautify ではうまく行きそうにありません。
ステップ4:要するに何が言いたい?
ここであらためて、車内美化がそもそも何を意味しているかを考えて見ましょう。
この文の前にある「お降りの際はゴミをお持ち帰りください。」がヒントになります。
そう、車内美化というのは、ゴミを残さない、整頓された状態を保つ、という意味での「美化」だったのです。
整頓された状態 ⇒ tidy、~を保つ ⇒ keep、~を ⇒ 車内を
車内美化に協力する ⇒ to cooperate for keeping the bus tidy
The Bus Company asks you to cooperate to keep the bus tidy.
to 不定詞が2つ重なってしまいましたので、前半は動名詞に置き換えてすっきりさせましょう。
The Bus Company asks for your cooperation to keep the bus tidy.
これで英訳の例が一つ出来上がりました。
Step 5:英文の吟味
ステップ1で「お願いします」という述語を見つけた時、ask ではなく Please を思い浮かべた方もいるのではないでしょうか?
pleaseは品詞でいうと何でしょう? そう副詞です。副詞は動詞を修飾します。つまり副詞であるplease の次には、動詞が続かなければならないのです。
「車内美化にご協力をお願いします。」という原文で、「もしお願いします」をpleaseで表すとすると、そのpleaseが修飾している動詞は何か?というと、、、、。 「協力する」です。原文では協力という名詞になっていますが、もしpleaseを使うのであれば、この名詞の「協力」を動詞の「協力する」に変換します。
動詞の「協力」なんてずぼらなことをせずに、動詞ならちゃんと「協力する」と覚えましょう。他動詞と自動詞の区別が意識しやすくなりますよ。
Please cooperate to keep the bus tidy.
これで、英訳の例の2つ目ができました。先ほどの英訳よりも、だいぶすっきりしてきましたよね。
Step 6:さらに英文を吟味。
英訳ができたら、そのつど、その文を英文として見直す(推敲する)というのが英語的発想のポイントです。
Please cooperate to keep the bus tidy. この文を何度か音読してみてください。すると、他の言い方を思いつきませんか?
Please keep the bus tidy. Cooperateを削除しても、まったく同じ意味になりますよね。しかも、こちらの方が単純明快で、発音した時も歯切れが良く、とても英語っぽい感じがします。
Please keep the bus tidy. Thank you for your cooperation.
これが完成品です。
Step 7:英訳した文を和訳して、原文と比較する。
Please keep the bus tidy. Thank you for your cooperation.
バスを整頓された状態に保ってください。ご協力、ありがとうございます。
車内美化にご協力をお願いします。
ね、とても英語っぽい表現だと思っていた訳文を和訳(直訳)してみると、日本語としてはかなり不自然な不自然な日本語であることに気が付きます。でもそれで良いのです。それが日本語と英語の違いであり、「英語的発想」を学ぶ必要がそこにあるのですから。