プロジェクト ミューズ:バイリンガルプロジェクトは辛いよ ~その5~
開発請負ベンダーから設計仕様書(英文)が提出されてきた。
これを日本側SIの翻訳チームが和訳してSEに伝える。
翻訳開始して数分。すぐに翻訳が面倒になった。
スペルミスの続出だ。ワード文書なので赤の波線がそこここに散らばっている。
原文がすんなり頭に入らないと、翻訳はスムーズには進まない。
「スペルチェックくらいかけて提出して欲しいわ、成果物扱いの正式文書なんだから。」
と一人ぶつくさ文句を言いながら、翻訳を進める。
相変わらず、赤い波線のオンパレード。
そのうち、緑の波線も登場するようになった。
そして、前置詞、形容詞、副詞の誤りも出てくるようになった。
もちろん、三人称単数なので動詞にsがついていないとか、初歩的なミスもあるのだけれど、その辺は翻訳者でも明らかなミスとして認識でき、修正も可能なので見逃してあげる。
けれども技術文書において前置詞が「on」と「of」ではその文はまったく違う意味になってしまう。単純に「あっ、それタイプミスだからそっちで適当に直しておいて」と言われても直しようがないミスである。
形容詞を副詞で書かれたり、その逆だったりすると、修飾語と被修飾語の関係が混乱して、これまた原文を真意を訳出することができない。内容がわかっていれば想像することはできるけれども、特定の専門分野の技術文書を内容を理解した上で翻訳できる機会はそう多くない。
正式な提出文書としてはあまりにお粗末だったので、「差し戻し」を試みた。
『スペルミスや文法ミスが多く、正確な翻訳に支障をきたしています。しかも校閲した上での提出となっていますが、とても校閲されたとは思えません。ちゃんとした英語で書き直してから提出して頂けませんか?』
すると、請負業者からびっくりするような回答が返ってきた。
『筆者は英語を母国語としないエンジニアです。その辺のミスは翻訳者の方で判断して翻訳してください。もしそれができないのであれば、日本のSEは英語で読むしかないですね。』
このような回答をもらって私は怒り心頭に達してしまいました。
担当者(著者)が誰であれ、英語を公用語とする会社の社員しかもコンサルタントとして派遣されてきている人材である限り、英語が母国語ではないので正しくない英語を使っても仕方がないというのは言い訳にならないと思います。
スペルチェッカーすらかけてこないといのは顧客をばかにしていると思われても仕方がありません。そのような細部に注意を払わない姿勢は、文書だけではなくそのエンジニアが書いたプログラムコードも同じような品質なのではないかと疑われてしまいます。
その上、自分たちの不手際は棚に上げておきながら、「英語のまま読みなさい」という発言は言語道断であります。
とまあ、日本語圏の読者の方々に愚痴をこぼしても仕方のないことなのですが。
こういう場合、どう対処したらよいのか。
実はこれが次のエピソードにつながっていくのです。
それにしてもまあ腹の立つベンダーの態度でした。