「デジタルネイティブが世界を変える」を読んで
Harvardスクエアにある本屋で平積みの原書「Grown Up Digital:How the NetGeneration is Changing Your World」を目にして以来、読んでみたいと思っていた一冊。この度、栗原さんが翻訳版を出されたとのことで、先日の日本帰国に合わせてアマゾンで注文しておき、本日やっと読み終えました。とても面白かったので感想を書いてみたいと思います。
まず、タプスコット氏による「ネット世代」に該当する私として、大変勇気をもらいました。
「シロクマ日報」の小林さんがレビューを書かれているように、若干、若者を持ち上げすぎな感はもちろんありますが、閉塞感が漂う現在の社会において、「君たちに期待している。君たちならできる。君たちは今後の希望だ。」と言われることに素直に感動し、そして日頃、若者バッシングの論調を目にする度に喪失気味だった自信を取り戻すことができたように思います。
「若者は駄目だ。若者はどうなっているんだ。今後が心配だ。」とぼやく上の世代、そして私のように、がんばっているし、何かやり遂げたい思いはあるけど、自分の将来に漠然とした不安を感じるネット世代の若者にぜひとも読んで欲しい一冊です。
内容については多くのレビューがすでにあるので割愛するとして、私の経験と意見を少し紹介してみたいと思います。
①学校における教育の変革
タプスコット氏は、ただ講義を聞かせるという一方通行のスタイルは今のネット世代になじまない、コラボレーションさせ、学生主体でカスタマイズされた教育スタイルへ変革させる必要があると説いています。これについては、ビジネススクールだからという点はあるにしろ、現在学生の私として変革の片鱗を感じるところがあります。
コラボレーション
とにかくチームワーク課題が多い。過密スケジュールの中においては、SkypeやGoogle docを多用して、お互い別の場所にいながら効率的に課題をこなすこともしばしば。1人でやる課題に比べて時間とエネルギーが必要なため、ぐったりとすることもありますが、学習効果という意味でいえば、お互いに議論し合い、相手を説得しなくてはならないため効果は確かに高い気がします。また、ある授業では授業中だけでは十分やりきれない議論を授業外の時間にも学生が継続して行えるよう、オンラインのディスカッションフォーラムが設置されていました。教授はそこの議論の間に入ってくることはありませんので、純粋に学生同士で議論しあうというものです。私の学校は、ボストンのほかにも上海やドバイにキャンパスがあるのですが、別のキャンパスにいる学生とのコラボレーションが現在ないのが大変残念なところです。
カスタマイズ
ただ単に基礎知識を蓄えることは個人で十分できることですし、人によって理解度や進行度は違うため、オンラインの学習ソフトが活用されています。私がこれまでにやったものとしては、以前ブログで紹介したApliaによるファイナンスⅠ(チャプター毎の練習問題)、Harvard Business PublishingによるIT基礎講座と統計学を受講しました。特に統計学は、MBA学生が主人公のストーリー形式でその都度ヒントなどを参考にビジネスの問題を解決していくというもので、(退屈に思えた)統計学がゲーム感覚で楽しくおもしろく学べました。これは授業時間をもっと有意義なディスカッションなどに使えることに加え、苦手な人は時間をかけてじっくりと、理解が早い人は基礎を飛ばして必要なところだけを学習するなどといった個人にあった勉強の仕方ができるので大変有効だと思いました。
ネットの利点と弊害
残念ながらラップトップの使用を禁止している授業がいくつかありました。確かに、授業中にFacebookを見たり、ネットゲームをプレイしたり、友達とSkypeでチャットしたり、と授業への集中を阻害する誘惑がPCにはたくさんあることは事実なのでしょうがないとも思えます。ただ、教授やクラスメートが行った発言に対して裏をとったり、口頭で紹介された会社、人物、本などに対して瞬時に検索できないのが時々もどかしくもあります。E-businessの授業など、クラスサイズがものすごく小さいものだと、全員がディスカッションしながらサイトを閲覧したり最新情報をチェックしたりして、みんなで情報を共有しあったり、教授に学生が教えたり、などとうまくインタラクティブな授業スタイルが機能しているようにも思います。
一つ、弊害として感じるのは、ネットで得た情報の盗作や情報に引っ張られすぎて自分で最初から考えなくなるところです。あるストラテジーの授業でGoogleのケースを扱った時、「現在そのビジネスモデルが確立されて成功を収めてるからといって、その当時に下した判断が正しかったと仮定して論を展開するのは誤りだ」と教授が言っていましたが、それはまさにそのとおりだと思いました。また「Turnitin」というソフトでネットの盗作を見破るソフトがあるので盗作自体はなくなっているとは思いますが(見つかると退学になるし)、あまり調べてしまうと他の人の意見などにどうしても引っ張られてしまうこともあると思いました。ただ、本当に自分の頭でしっかり考え抜いているかどうかは激しいディスカッションを通して暴かれていくものではあります。
②政治への参加
タプスコット氏が指摘するように、今の若い人は政治やコミュニティに無関心だというのは誤った認識だと私も思います。私は2年ほど前に従兄が静岡県議に初立候補し、その選挙活動をうぐいす嬢として週末の間に少しだけ手伝ったことがあるんですが、その時は(場所がらも多少あるとはいえ)年配の方ばかりにお会いし、同年代の支援者に会うことはほとんどありませんでした。しかし、私が本当に大事な情報を得るのはいつもブログであり、Mixiの日記であり、YouTubeへの投稿やコメントなどからです。ネットでは、政治家の失言を見ることができ、矛盾した発言に対する指摘やメディアが取り上げない法案に関する情報などが飛び交っていて、政治に対する関心の高さを感じることができます。また情報を得るだけでなく、私自身もコメントを残したり、他の人の発言に対して反論したり同調したり、とインタラクティブに関わっています。やっぱりブログでオープンに話をしていて政策や信条が明確な政治家には好感を持ちますし、機会があればもっと話をしてみたいと思います。今の政治がもっと透明性のあるものになって、ネットを通じたコラボレーションを可能にするインフラが整えば、もっともっと若者の政治参加は増えると思います。現時点での問題は、欲しい情報が見つけにくい、支援する場合の選択肢が限られていて敷居が高い、どうせ何も変わらないという諦め、に一部あると思います。ただ、関心はある。必要なのは法的制度的インフラと政治家の意識改革でしょう。
③信頼と助け合い
本書を読んで、これこそは確かに日米共通してネット世代が持つ良い側面だろうと思いました。MixiのコミュニティやgooなどのQ&Aコミュニティなどを私も活用することはあるのですが、本当に親切なアドバイスなどを多数受け取ることができますし、私も自分の知っている範囲のことであれば回答するようにしています。また、誰かがアップロードしてくれたおかげでYouTubeで貴重な映像を見ることができ、Wikipediaでおおまかな概要が把握できます。昔のアメリカの家庭の印象としては、銃を家に所有し、誰かが入ってきて自分の財産権を犯そうものなら撃ってやる的な感じがありましたが、今の若者は「Couch Surfing」というサイトを通じて自宅のソファーを旅行者に対して無料提供しています。実際あるクラスメートはこれを利用してホテル代がすごく高いNYCで無料のカウチにありつけたとのこと。しかも貸してくれた人はとてもいい人でフレンドリーだったとのこと。私たちはこの助け合いの精神と個人で占有せずに何でもシェアするという性格を誇りに思って、もっともっとよい方向に活用していくべきだと思いました。
④最後に
まだ書きたいことはいっぱいあるのですが長くなったので結論。
(上の世代の方々へ)もっと信頼して欲しい
私自身も下の世代を信頼するように心がけていますし、上の世代にはもっと世の中に対する良識や価値観、仕事へのコミットに関してもっと信頼して欲しいなと思います。
(同世代やネット世代の仲間へ)自信を取り戻そう
ネットいじめや引きこもりなどのネット世代に対するマイナスイメージから脱却して、私たちの持つ良い面をもっと前面に出していく必要がありますね。小さなことでも行動を起こし、ネットでのコラボレーションを通じて助け合っていきたいです。
英語教育、グローバル教育に力を
私ももともと英語ができたわけでなく、主に社会人になってから身につけたのですが、英語ができることによって、ネットで得られる情報、出会える人たち、情報発信の場が大きく広がりました。特に高等教育に関することや世界情勢に関することは英語ができることで世界が一気に広がります。また、外国に住む外国人とネットで議論することによって、日本について気付くこともあるし、本当の意味での愛国心に繋がっていくのではないかと思います。というわけで、今後の若者にはもっと英語力をつけてネット上というグローバルのステージで活躍して欲しいと思います。