オリンピックカウントダウン!宇宙の可能性への挑戦、誰ひとり取り残さない地球が向かう未来
世界初の無観客五輪の開始を目前に、米アマゾン創業者ジェフ・ベゾス氏が設立した宇宙企業ブルーオリジン社の宇宙船「ニューシェパード」が、日本時間7月20日、宇宙旅行へ出発し無事に帰還しました。長引くパンデミックや天災、人災などの挑戦に立ち向かおうと、人類は地球の可能性を広げようと宇宙を研究しています。米テスラ創業者イーロン・マスク氏率いる宇宙企業スペースX社の宇宙船「クルードラゴン」は、昨年11月17日(日本時間)、宇宙を早20年以上飛び続ける国際宇宙ステーション(ISS)へのドッキングに成功。その中にはJAXAの野口聡一氏ほかNASAの3名の宇宙飛行士が搭乗し、167日間の宇宙滞在を終えて日本時間2021年5月2日、ISSから自律的に離脱して帰還しました。誰ひとり取り残さない地球の持続性達成の舞台は、実は宇宙そのものなのです。
多様な4人、2つのギネス記録、オールJAXAの勝利
今回の最初のクルードラゴンは、世の中の様々な課題と戦うために、強靭さ、打たれ強さ、しなやかさを意味する「レジリエンス」と名付けられました。今回搭乗したのは男性、女性、白人、黒人、アジア人からなる多様なメンバー。
動画提供:JAXA YouTube【野口宇宙飛行士 帰還生中継番組】 野口さん。「地球におかえりなさい!」TV 2021年5月2日 #挑戦をやめない
なかでも55歳で3回目の宇宙長期滞在に乗り出し、4回目の船外活動を成し遂げたJAXAの野口聡一氏は、
①15年のブランクを空けて2度目の宇宙船外活動を実現
②スペースシャトルによる滑走着陸、ソユーズによる地上へのパラシュート降下、そして今回クルードラゴンの海上への着水という3つの異なる手段で地球に帰還した
という2つの世界初の功績が認められ、ギネス記録を獲得しています。
2か月のリハビリを終えてにこやかに7月9日のJAXA記者会見に臨んだ野口氏は、「これはオールJAXAへの賞賛。有人宇宙船をもっていない日本の調整、外交能力の証であり、文部科学省、監督官庁を含めた勝利」と喜びを述べました。
動画提供:THE PAGE 宇宙飛行士・野口聡一さんが帰国会見 5月にISSから帰還(2021年7月9日) #thepage_jp #記者会見 #JAXA
宇宙に向かう国を超えた協力、民間の参入
歴史を振り返ると、1957年に当時のソビエト連邦が、人類史上初の人工衛星スプートニク1号の打ち上げに成功しました。競う米国は翌1958年、アメリカ航空宇宙局(NASA)を設立。アポロ計画という世界初の月への有人宇宙飛行計画が1961年から1972年にかけて実施され、1969年のアポロ11号にして初めて人類の月面着陸に成功しました。株式会社明治のロングセラー商品、かわいいアポロチョコの形はこのアポロ宇宙船から生まれた、というのはちょっとした豆知識です。
以後、ロシアはソユーズ(Soyuz)、アメリカはスペースシャトル(2011年に終了)を開発し、両国が国際宇宙ステーション(ISS)の建築運用において協力するようになりました。ISSは、1998年に建設が始まり、2011年に完成。米国、ロシア、日本、カナダ、ヨーロッパ欧州(ESA)の15ヶ国が協力して開発運営しています。冒頭のとおり、民間人の宇宙旅行が可能になり、人類の宇宙探索の可能性が広がっています。
インターネットは商用から20年あまりで、人だけでなくモノまでもが朝から晩まで端末につながるようになりました。宇宙旅行ももしかしたら、あと20年もすれば海外旅行感覚で、たまの贅沢にと手が出るようになる日がくるのかもしれません。
国家と世界が一丸となる宇宙への思い
この壮大な挑戦を支えるNASAの知られざるコミュニケーション改革について、筆者がIABC World Conference Program Advisory Committee、IABC APACメンバーシップマーケティング局長、IABC日本理事を務める、IABC(国際ビジネスコミュニケーター協会) の待望のイベント、「IABC World Conference 2021」(配信パス割引あり)の基調講演にて、NASAジョンソン宇宙センター(JSC)のシニアコミュニケーションスペシャリスト、イシドロ・レイナ(Isidro Reyna氏)が登壇しました。人類の夢と希望を支えるNASAの力を団結する、インターナル(内部)コミュニケーションの重要性を訴えました。以下、レイナ氏の発表をもとに基本的な情報を追記してお伝えします。
レイナ氏は、2015年にNASAのJSCに参画してから6年にわたり社内コミュニケーション改革を進め、大局をつかみながら大胆かつ慎重に具体的施策を打っています。JSCは、NASAが運営する宇宙センター10拠点の1つ。人類の最も偉大な功績を作り上げてきた象徴的なセンターとして、2018年、「Giant Leaps Start Here(大きな飛躍がここから始まる)」というタグラインを作り、組織内の士気をさらに高めるメッセージ発信を始めました。
Giant Leaps Start Here! | NASAという1分半ほどのYouTube動画に「アメリカ最大の成功を作ってきた60年以上の実績をもとに、国際協力を経て、月を超えたさらなる宇宙の探索が始まる。歴史はこれから作るものだ」というメッセージを込め、デスクトップやモバイル端末用の背景グラフィックやポスターとともに社内周知して、大規模に外部発信してきました。
ギリシャ神話アルテミスが示す多様性がもたらす智慧
ISSは、地上から約250マイル(400km)上空に建設された、サッカー競技場ほどの巨大な有人実験施設です。約6か月ごとに3名の宇宙飛行士が滞在し、交代して引継ぎながら6名体制で運用しています。なお、現在の滞在クルーの船長はJAXAの星出彰彦氏。
ISSに長期滞在している宇宙飛行士は、宇宙環境での科学実験やISSの保守作業などを行います。その他、SDGs達成に向けて、地球観測データ取得、樹木被覆の範囲や森林の減少ないし増加の追跡、降水量、積雪水量、土壌水分、地下水など水の利用可能性を評価するのに役立つデータ収集などを行っています。そして月の次、火星の探索も進めているのです。
近年注目すべきNASAのプログラムの1つがアルテミス(Artemis)です。ギリシャ神話に登場する狩猟の女神にちなんで名づけられた同プログラムは、2017年に着手され、2024年までに民間・国際協力を得て、「まず女性、次に男性の月面着陸」を実現することが目標。日本でも文部科学省が「最初の女性と次の男性の月面着陸や月周回有人拠点「Gateway」を活用した月面の持続可能な探査開始」に関する共同宣言を発しています。2020年に公開された74ページにわたるNASAのレポートは、人類が月を超えて火星に向かうための目的、ゴール、計画、規律を明文化しています。https://www.nasa.gov/sites/default/files/atoms/files/artemis_plan-20200921.pdf
この背景には、2017年米国航空宇宙局法に関する運営移行認可法(National Aeronautics and Space Administration Transition Authorization Act of 2017)の可決にて、「学生および幅広い一般市民にSTEM(科学(サイエンス)・技術(テクノロジー)・工学(エンジニアリング)・数学(マスマティクス))関連の教育および就業を促進し、継続的にエンゲージメントを高めていくこと」が盛り込まれたという経緯があります。これに伴い、NASAの啓発コミュニケーション活動の需要が高まったのです。
これを受け、2018年のJSC全社集会、オールハンズではディレクターのマーク・ゲイヤー(Mark Geyer)氏が「Dare. Unite. Explore.(思い切って、つながり、探索しよう)」というメッセージを発表。未開拓に挑み、大胆なミッション実行のためにパートナーと手を取り合い、人類に役立つ宇宙探索に踏み出そう、とトップから全員に呼びかけました。その模様は、後述する社内のroundup(ラウンドアップ)チャネルでくまなく伝え、YouTubeで拡散しました。
NASAの団結を可能にするインターナルの力
これに伴い、レイナ氏は6つのキャンペーンを走らせます。
1つ目は、Explore(探索)をアンブレラメッセージとして社内に散在していた宇宙飛行士のストーリーをつなげて分かりやすいストーリーを発信すること。100件を超えるニュース記事獲得、社会的トレンドを作り、ソーシャルメディアで拡散しました。
2つ目は国際宇宙ステーションにロケットを運ぶ輸送車の画像提供や、宇宙飛行士帰還パレードやJSCキーパーソンの取材、報道露出といったメディアリレーションの強化。
3つ目はヒューストンの地元で直接人と触れ合える展示会の開催です。ここで、24時間の管理システムや最新設備、模擬体験施設など趣向を凝らした展示により、大規模なコミュニケーションが社内から社外へと波及していきます。
4つ目は、上述のとおりSTEM強化への貢献、一般市民へのエンゲージメント強化、政府交渉(パブリックアフェアーズ)、監督官庁や国際機関との協力といったPR・PA分野の施策です。
5つ目がJSCトップの声を伝えるいわゆる人物PR。これは組織内の信頼や結束を生み、社外からの信用獲得につながります。
6つ目がコミュニティとのつながり強化で、#GiantLeapsStartHEREのハッシュタグでつながる人々の熱量を上げていくのです。
50年前にさかのぼるリブランディングキャンペーン
こうした内から外への大規模なポジティブメッセージの発信が可能となったきっかけは、50年前からあるroundupという社内報の見直しに始まる「インターナルリブランディング」でした。JSCでは、さまざまな拠点で職務にあたる、幅広い年齢層の職員および退職者それぞれをNASAのアンバサダーと位置づけ、変化を起こすリーダーシップが拡大するようにきめ細かな施策で支援しています。これにより、情報の透明性とコミュニティの一体感が確保され、多様性の包摂、組織のコンプライアンス強化につながり、組織力をさらに高めるからです。
そこでインターナルリブランディングの着手に際し、まずJSC内の職員意識調査、連邦政府職員の意識調査、フォーカスグループによるディスカッション、米国PR協会や業界動向をベンチマークとし、roundupをどう活かせるかを検証しました。その結果、退職した職員を含む巨大なNASA JSCファミリーコミュニティーに浸透しているroundupを活かし、一方で社内に散在していたコミュニケションチャネル(媒体)をroundupブランドで統一。同時に、それぞれの媒体を色分けすることで、統一感ありながらも、どれが誰のためのどういった情報かが分かるように社内メディア体系を刷新したのです。年配の方にははがきを郵送してお知らせし、オンラインユーザーは即時で自分に役立つ情報にアクセスできるよう情報流通を整備し直したのでした。
また、当直する職員のみならず町の人に理解と親しみをもってもらうために、「DARE」の屋外バナーやポスター貼り、「DARE UNITE EXPLORE」の路上印刷、キャンパス内の施設全体のDARE UNITE EXPLOREペインティング、DAREグッズの販売など、手法にとらわれないコミュニケーション拡大しました。また、roundupトラフィックから、職員がディレクターとの対話を望んでいるというニーズを見出し、質問コーナーを設置。データに基づいて上下の風通しを良くするコミュニケーションを促進しています。
コロナを超える勇気の呼びかけ
コロナ下の今では、roundupを活用して、社内情報共有はもちろん、トップからのメッセージやQ&A、各地でがんばる社員の姿、宇宙の不思議解説などを多面的に伝えてJSC内部からコミュニケーションを活性化しています。経営陣と社員があつまるタウンホール集会は毎週開催しオンラインで届けます。また、お気に入りのマスク着用写真コンテストや、ペットの写真募集、キャンパス内に現れる鹿の癒し動画など、コンテンツの持つ力で社員を応援しているのです。一方で、職員がroundupのコンテンツ消費で時間を取られて効率が下がらないよう、短いTwitterフィードを利用した情報提供などの工夫も怠りません。
そして重要な次世代育成のために、インターン採用も積極的に発信。人類と地球、宇宙の持続のために、歴史と多様性を受け入れ、次世代を夢にいざない育てる、JSCの意欲的なコミュニケーション活動は続きます。変化を昇華させ、重責を力に変える。まさに我々のようなPR、広報、宣伝、人事、マーケティング、あらゆるコミュニケーションに関わるプロフェッショナルの背中を押してくれているようです。