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デジタルファーストを成功させるAI活用のステップ~ミン・スン Appier チーフAIサイエンティスト 兼 台湾国立清華大学准教授

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早2021年も2カ月目。アジア太平洋は最初にコロナの影響を受けた地域として「ニューノーマル」を先立って体験しています。非日常と日常が逆転した今、この体験から学べることはー。AppierのチーフAIサイエンティスト 兼 台湾国立清華大学准教授のミン・スン氏に、日本を含む世界が学ぶべき教訓や展望について訊きました。

ビジネスの持続は「BC」「DX」から

コロナを伴う変動は、紀元前(BC)、紀元後(AC)ほど違う、という声を聞きます。スン氏は、今日のビジネス最前線を別の頭文字「事業継続性(ビジネスコンティニュイティ、BC)」「デジタルトランスフォーメーション(DX)」に加えた「予算と支出(Budget/Spending)」の3点で分析します。これにより、顧客企業がエンドユーザーをより良い方法で支援し、より良いサービスを提供できると言います。

まず、事業継続性とデジタルトランスフォーメーションを同時に実現する例を見てみましょう。アジア企業は世界に先駆けて、製品やサービスの消費、カスタマーサポートやエンゲージメントのあり方などを革新してきました。店舗の利用が激減する中で、事業継続性の確保のため、デジタル決済や非接触型決済の金融サービスが急速に広がりました。中国の平安銀行は、ポケットバンクアプリを立ち上げ「Do It At Home(自宅で取引)」キャンペーンを開始しました。顧客の財務支援のため、シンガポールのDBS銀行は保険と住宅ローンの支払い救済を提供しました。日本では紙の通帳をめぐり、みずほ銀行の有料化、あおぞら銀行の廃止などもこのトレンドと言えるでしょう。

このパンデミックで、旅行業界は大きな打撃を受けています。そこで外出ができない消費者向けのキャンペーンが注目されています。シンガポール政府観光局は3300万SGドルの予算を投下して、国民に自国の魅力を楽しんでもらうためにキャンペーンを開始。中国南方航空と中国東方航空は、無制限の「飛び放題」キャンペーンを実施しました。各国がこうした取り組みで旅の素晴らしさを届け、国内需要を刺激しつつ、将来の旅行を促進しているのです。日本のGo To トラベルも目的は同じと理解しています。

通信販売やオンライン小売業者は、オンラインショッピングを実店舗と同じくらい魅力的にする必要があります。物理的な体験の良いところを取り入れ、家庭でも利用できるようにするのです。資生堂は、国内有数の小売グループと提携し、ライブストリーミングを通じて商品を紹介・販売しています。米国のBenefitは中国のWeChatと提携し、新しい眉の形が自分に合うかどうかを確認できる「眉毛試着」プログラムを展開しました。

これらの例は、マーケターが消費者のニーズや行動を常に把握しておくことが重要であることを示しています。新型コロナウイルスが長期化する中、マーケターはオンラインとオフラインの両方で、変化し続ける顧客に対応しなければなりません。

コロナ下の予算管理とイベント

2020年は多くの企業がサバイバルモードに突入しました。予算が見直され、最重要なものと都度判断が必要なものが切り分けられ、これまで以上にROIを重視するようになりました。投資が最大限の効果を上げ、販売や取引のサイクルを短縮することに集中するようになりました。

消費者が家にいる時間が増えれば、オンラインの時間も増えます。企業は生き残りのために、既存ビジネスの安定化と、さらなるデジタル化のバランスを模索しています。従来のオフラインでの体験を、オンラインでも実現しなければならない。このニーズが、企業と顧客との関わり方を進化させています。

アジアでは日本以上に仕事、個人、商用を問わずSNSが普及し、ファッションブランドがWeChatやWhatsAppを利用して顧客とお家の中からつながっています。店舗は、サイズに合わせた商品ごとにスタッフの着用写真を送って、顧客視点でどのように見えるかをアピールしています。また不動産業界では、物件のバーチャル視聴体験を提供しています。

台湾のテクノロジーコンテンツ企業は、出版物を配信するだけではなく、教育のライブコンテンツ配信を予定しています。日本の出版社が数多くのオンラインイベントを開催しているのも同様の試みなのでしょう。

デジタルファースト進化のカギはAI活用

ビジネスをデジタルファーストに転換させる第一歩は、AIの活用です。AIや機械学習(ML)モデルが機能し、正確に結果を予測するためには、複数のデータソースを統一し、データをビジネスに使えるフォーマットにすることが最初のステップです。AIは、アプリやウェブサイト、CRMなどのさまざまなソースからのデータを統一し、顧客の全体像を把握するのに役立ちます。

次のステップは、カスタマージャーニーをシームレスにすることです。これは、ユーザーにとって最も関連性の高いコンテンツを、適切なデバイスで、適切なタイミングで提供することを意味します。マーケターはAIを利用してエンゲージ施策の詳細を設定することができます。消費者が商品をカートに追加するなどのアクションを起こしたときに、その人が利用しているデジタルデバイスにビデオやポップアップを配信するのです。するとユーザーはタイムリーで関連性の高いメッセージを受け取ることができるのです。

また、AI搭載のソリューションはユーザーにとって最も関連性の高い商品のレコメンドを配信することができます。単に「人気のある」商品や「売れ筋の」商品だけでなく、AIは商品説明から文脈を引き出し、人々が興味を持っている商品と自社の製品を正確にマッチングさせるのです。

さらにAIは、ブランドや小売業者がすべてのタッチポイントを統合して、オンラインでもオフラインでも、どこにいても顧客に対応できる環境を構築できます。一方でオムニチャネル・マーケティングは効果があると認識されているものの、いまだに多くのマーケターが顧客エンゲージメントのためのチャネルの統一に苦慮しているが現実です。

あらゆる規模、業種の企業が将来に向けて競争する中で、AIがDXの中核となることは間違いありません。AIの活用は、企業が業務における柔軟性(レジリエンス)を確保するのに役立ちます。将来のビジネス、経済、社会のあらゆる変化に迅速に適応することを可能にします。デジタルマーケティングの世界では、オンライン多変量テストによる継続的な予算配分の最適化なしに、キャンペーンできない時代です。最先端の自然言語処理と深層生成モデルによるコピー、画像、記事の生成なしに最適な広告運営はできなくなるでしょう。

新型コロナウイルスの広がりは、アジア企業のBC、DX、予算管理を支えるAIの重要性を気づかせるきっかけになりました。「今後、世界中の組織がAI活用をきっかけに成長することが期待される」とスン氏は締め括りました。

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Appier チーフAIサイエンティスト 兼 台湾国立清華大学准教授 ミン・スン氏

取材協力:Appier 共同ピーアール株式会社

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