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2021年を「自己超越」元年に~変わるマズローの法則、SDGs達成への跳躍

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コロナで消費がどう変わったか。人間の欲求はどう変化しているか。ロンドン・インペリアル・カレッジ 教授、サンドラ・ヴァンダーメルウェ氏がアイルランドのデイビッド・エリクソン氏とともにAcumen | Next Normal Customerをまとめました。世界104カ国、60万人が視聴するワールドマーケティングサミット eWMS2020において、南アフリカ、ケープタウンから「第二次世界大戦、SARS同様に、コロナ下で消費者は画期的に変化している」とする最新の「ネクスト・ノーマル・カスタマー」を発表しました。

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パンデミック時代に生まれるヒーロー像

国際マーケティングとサービスの研究に取り組むヴァンダーメルウェ氏は「新しい消費にきちんと応えるブランドがヒーロー効果を生んでいる」と見ています。

その事例がUniversal Picturesによるトロール(Troll World Tour)のオンライン配信です。2020年4月、コロナで外出できない子ども達から圧倒的な支持を得て、通常の劇場上演を大きく上回る成功を収めました。

新しい消費行動を生んでいるのはテクノロジーではなく人間そのものです。「パンデミックがもたらすのは悲劇や混乱だけでない。イノベーションを加速し、新しいモデルを形作っている」と述べます。

eWMSを率いる現代マーケティングの父、フィリップ・コトラー氏が唱えるマーケティング5.0(今年2月に書籍出版予定)は、アブラハム・マズロー「人間の欲求5段階説」の頂点「自己実現」と結びついています。ヴァンダーメルウェ氏はコロナ下の各欲求を分析し、さらにその先「自己超越」による利他に注目します。

マズローの法則を今日にあてはめると、まず「生理的欲求」には生存に必要なもの、サプライチェーンが含まれます。スマートフォンの世界的普及により、「アクセスが可能であれば所有する必要がない」「欲しいときに利用できるオンデマンド型」という消費の特徴があります。

不測の事態における「安全欲求」とは、パンデミックに関する必要な情報があり安心していられる状況です。感染拡大防止というリスク管理によって、心理的な落ち着き(レジリエンス)を得られます。

「愛と所属の欲求」は同じ興味関心の人とのつながりを指します。ソーシャルディスタンスが必要な今、オンライン化が顕著です。消費者は生活や職場における居場所、自分をサポートしてくれる人とのネットワーキングを確保し、オンラインで意見、アドバイス、レビューを交換しています。

「承認欲求」は他人からどう見られるかを指します。ベビーブーマー世代は、一定の服を身につけ、車に乗れば社会的ステータスを示すことができました。しかし今の消費者は違います。人生の目的、理想、意味に合致するブランドを支持し、自分と同じ価値観、インスピレーションを感じるブランドを選ぶのです。

NIKEはキッチンや寝室でひとり身体を鍛える写真を投稿する"Play for the World"キャンペーンの成功をきっかけに、大幅な増収を記録しました。ブランドが共感を呼び選ばれる例と述べます。

「自己実現」と「自己超越」の違いは、利他の差

「自己実現」とは自分の可能性をフルに開花させることです。運命を切り開き、ゴールに向かい、逆境と戦い、独り立ちしていられることを指します。やり続ける力と向上心を伴います。

では「自己超越」とは何でしょう。それは「自分以外の人のことを考えること」です。パンデミックで明らかになった自己超越トレンドには、勇気を出して最初の一歩を踏み出した「先駆者への賞賛」という共通項があります。ケアが必要な人を支援するエッセンシャルワーカーが新しいヒーローになりました。人類と地球をまもる取り組みを支援する人、ブランド、コラボレーションの輪ができたと言えます。正しいことを正しく行う、という姿勢はデジタルでつながり、消費者一人ひとりがムーブメントに参加、貢献する潮流が生まれています。

こうした世界的な傾向を踏まえ「消費者はもはや低次の欲求にとどもあっていない」と主張。

キャッシュレスが進む中国では66%の消費者がよりよい金融ツールが必要と考えています。すべてがサービス化し、可能なときに支払うモデルに変化しています。南アフリカではNakedプラットフォームが自動車保険をわずか数分に短縮して急成長しています。

だれもが自宅中心の生活に移行しています。節約と省スペースのため食物生産も家庭で賄う、マイクロファーミングやベランダガーデンが人気です。ベルリン発のInfarm(インファーム)は、スーパーマーケットにおける食物栽培により殺虫剤はもちろん農薬、水、場所、移動も劇的に取り除く画期的なアプローチで成長しています。

人工呼吸器もより少ない素材、低コスト、少ない手間で実装できるように進化しています。テスラのイーロン・マスク氏はヴァージン アトランティック航空とともにインドで宇宙船のリサイクルを進めています。質素であることがスマートなのです。

透明性の追求から、契約やリスクの見直しも進んでいます。IKEAではデジタルエクスペリエンスの提供によりオンラインとオフラインの店舗を組み合わせて成長を遂げています。

移動は近郊やせめて国内にとどまる一方でネットワーキングの必要性から会議システムのZoomやオンラインゲームのFORTNITEが急成長。Coursera、iTalkなどのオンライン学習も伸び、消費者のイノベーションへの適応の早さが明らかになりました。またTikTok、Instagram、YouTubeといったソーシャルメディア、カジュアルなワークウェアなどのファッションが、環境意識の高い消費者の欲求を満しています。

Fitbitなどのウェアラブル端末による健康管理、3Dプリンティングによるホームロボティクスのほか、消費やエネルギー排出を最低限に抑える住居や生活が支持され、移動はMaaSの共有型に移行しています。

「自己超越」の例、新しいプロモーション手法として、これまでの1個分の料金で2個もらえる「Buy 1 Get 1 Free」ならぬ、自分の消費を他の人に役立てる「Buy 1 Give 1 Away」がみられます。消費者だけでなく、コミュニティや政府、官民もNGOも、利他的な方向に向かう、と考えられます。そして、衛生に気遣い人込みを避ける「自己隔離」が新しい社会規範になると言います。

配慮ある消費トレンドとして、セカンドハンドや新古品の流通拡大がみられます。Appleは自社認定の整備を経て品質を保証する新品同様の製品を提供。EILEEN-FISHERは服のリサイクルを実施。炭酸水はプラスチックボトルでなくソーダストリームの購入に切り替わり、いまやソーダは自宅で作るものになっています。

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マズローは第二次世界大戦後に自らマズローの法則に変更を加えました。

今やコロナとともに消費者が社会を変え、SDGs達成を実現する時代。ブランドには良心と志が求められています。

ネクスト・ノーマル・カスタマーの洞察が「鬼滅の刃」「メルカリ」「LINE」など、消費者の心をつかむ日本ブランドの未来を照らしています。

取材協力:共同ピーアール株式会社

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