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知識経営論の生みの親、野中 郁次郎が語る「ヒューマナイジングストラテジー」

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「マーケティングでより良い世界を」が理念、現代マーケティングの父 フィリップ・コトラー教授が創設したワールドマーケティングサミット(WMS)。今年のテーマ「危機を乗り越えるためのアイデア」の下、筆者が最も楽しみにしていたセッションのひとつが野中 郁次郎氏でした。一橋大学名誉教授、知識経営論の生みの親として知られる野中氏の講演はビジネスに人間性を役立てる「ヒューマナイジングストラテジー」を語りました。

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野中氏は昨年、スコットランドのエディンバラで開かれたデイヴィッド・ティース氏、ジョン・ケイ氏、ニーアル・ファーガソン氏らによる「新しい啓蒙」に関する会議に参加。経済学の父、アダム・スミスの旧宅で行われた議論は、「マーケットメカニズムが機能する資本論は、人間の共感、倫理を伴うものであったにも拘わらず、今や株主価値最大化に傾いている」というもの。「資本主義に持続可能な長期的視野が必要になっている」と訴えます。

野中氏は、過剰分析、日常を数学化するあまり委縮、劣化に突き進む社会に対し、「知識を持続的に生むにはイノベーションが必要」「全人格的な意味づけを大切にしながら普遍化するプロセスを」と唱えます。

これから必要なのはIQに表れる頭の良さではなく「グリッド、やり抜く力」「根性論も」。現実を感知し、相手の視点に立つ暗黙知、無意識の知と共感。そこから徹底的に本質的な対話をし、新しいコンセプトを作る。デジタルも活用して形式知を体系化、集合知を理論にし、物語化してやりぬく。「実践して組織知を個人知に変換して回し続ける、組織的に組織知をつくり生み出すのがマネジメントの本質だ」と熱く語ります。

その知識を生み出す要件が、パーパス(企業の存在意義)です。そこに一人ひとりの直観、主観、意味や価値づけをぶつけ合うことで相互主観性が生まれる。3人以上の組織がエンパシー、共感を生み、自分と他人がつながり、利己と利他を実現できると説きます。こうした無我無心の知的コンバット、闘いが組織的知識創造の原点。仕事で我を忘れるフロー状態に到達することができる、と述べます。

クリエィティブペア」と呼ぶのが、個人を組織に向かわせる知的コンバットを行う相手。野中氏にとっては『The Wise Company』共著者の竹内弘高氏が相当します。「自分と違う相手がいい。あちらはお酒飲まない、ぼくは飲む。あちらは英語、ぼくは日本語」と笑います。

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知的機動力、知的創造理論はペアでプログラミングする」「対照的な相手と組むことで自律分散が可能になる「アナログとデジタルの形式知、暗黙知を回すのがリーダーだ」と主張。ダイナミックな総合作用により実践知が生まれる。それがヒューマナイジングであり、共通善(コモングッド)に向かう生き方だ、と訴えます。

一人ひとりが自分の生き方を持ち、共感で価値を作る。判断は過去、現在、未来のただなかでする。こうしたオープンプロセスがヒューマナイジング戦略の核。物語や生き方を形作るにはワクワク、チャレンジさせる筋書きと、腹にガツンとくる行動規範、指針が必要。個人、知的組織体、型を作るのが創造的習慣(クリエイティブルーチン)の大きなモデルであり、そこから持続的イノベーションが生まれる。デジタルとアナログを絶えずやり抜くことが重要だ、と熱く訴えます。

実践知を軸に個人集団組織環境が一体化するダイナミックモデルのSECIヒューマナイジングストラテジーを紹介。実践知を軸に個人集団組織環境が一体化するダイナミックモデルのSECIヒューマナイジングストラテジーを紹介。共同化(Socialization)、表出化(Externalization)、連結化(Combination)、内面化(Internalization)をぐるぐる回すSECIモデルが実現します。

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「コロナの今だからこそ、一人で徹底的に考え抜く、書く、を在宅時間に組み込むことがある意味、非常に重要」と希望を示しました。

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