オルタナティブ・ブログ > 「テクノロジー・ネットワーク」の中の人 >

組織を超えてテクノロジーの発展、社会活用を推進しよう、というグループの中の人です。

コロナ下のニューノーマル、若者の社会と教育の再定義

»

若者のダボス会議と呼ばれるワン・ヤング・ワールド(OYW)「One Young World Tokyo Caucus 2020」。初のオンライン、初の東京開催イベント最後のセッションは21世紀の教育リ・イマジン」。新しい学びを追求するリーダーたちが、SDGs「質の高い教育をみんなに」に光を当てました。

WITH世代、若者が世界のマジョリティ

オープニングには、コモンズ投信 取締役会長 兼 ESG最高責任者 渋澤 健氏が登壇。「未来を信じられますか?」と問いかけ、志をあわせて資本を後世に役立てようと訴えます。

歴史は繰り返します。健氏の高祖父にあたる日本の資本主義の祖、故 渋沢栄一氏が生きた19世紀からふり返ると、封建制度崩壊、西洋・近代化、戦争、経済成長、21世紀に続く停滞と、アップダウンのサイクルは30年単位で循環。日本の人口構成は、若者が多かった昭和のピラミッド型から、平成のひょうたん型、令和の今は高齢者主体の逆三角形型へと推移してきました。

日本の平均年齢は48歳。いっぽうでアジア、アフリカの国々は20代、圧倒的に若い。世界は、オンラインでつながる環境に根付いたジェネレーション Zの時代なのです。

2020年の今、コロナとともにデジタル化の大きな変革の時が訪れています。日本が経済発展を遂げた時代は「メイド・イン・ジャパン」が品質の証でした。その後、経済摩擦に伴い生産を海外に移し「メイド・バイ・ジャパン」へ。若い世代がマジョリティを占めるこれからの時代、自分のことだけでなく人とともに「WITH」の精神が大切。世界とともに「メイド・ウィズ・ジャパン」に発展しようと訴え、拍手が湧きあがりました。

「リード・ザ・ジブン」自分事化から生まれる情熱と未来

教育セッションのスピーチにはUNLOCK POTENTIAL 代表取締役 CEO 宇佐美 潤祐氏が登壇。ボストン コンサルティング、ファーストリテイリング(ユニクロ)、アクセンチュアなどで世界的な経営コンサルティング、人財育成の経験をもとに宇佐美氏は、「すべては自分事化からはじまる」と述べます。

AIが多くの作業を処理する時代。日本では、AIと共生するスキルを身に付けようとする中年層は半数以下。実際に身に付けているのは24%とさらにその半数程度。一方でインド、中国はいずれも100%に近く、大きく水をあけられています。

What's going on with AI.png

それだけではありません。ミレニアルおよびジェネレーションZ世代も、デジタルトランスフォーメーション(DX)やインダストリー4.0環境で必要なスキルを「知りもしない」のが大半。世界から大きく遅れています。

ミレニアルGenZ DX.png

根本的な課題は、この時代に生きる上の主導権(オーナーシップ)を持っていないこと。「現実を自分事化できていない」と指摘します。

Day3_18small.png

「会社と自分の志を同期させろ」と宇佐美氏は訴えます。すると自分の仕事に意味が宿り、ポジティブな精神状態になり、それが成果をもたらすハッピーサイクルが生まれる。自分自身をひっぱれる力がリーダーシップの第一歩なのです。

そこで必要なのが利他の心です。自分の仕事が人の役に立つこと。それが不確実な時代の仕事に価値をもたらします。

リード・ザ・ジブンのアプローチは、主体性(オーナーシップ)感情的結びつき(エモーショナルタイ)の掛け合わせです。それぞれに、自分の人生曲線、信条・経験・徳からなる志、そしてそれを描き共有する描く力が影響し、人生をポジティブに突き進むことができるのです。

日本の相対的貧困は深刻。OECD諸国の中でワースト3」と宇佐美氏は指摘します。解決への取り組みとして、5人のシングルマザーとともにリード・ザ・ジブンのワークショップを実施。さらには、子どもが興味を自ら伸ばすよう支援するサタデーキッズジャパンと、貧困や生活困窮をなくす融資を担うグラミン日本とともに、リード・ザ・ジブンを実践する「プロジェクト・エンパワー」が立ち上がります。

相対的貧困small.pngSaturday Kids Grameen Japan.png

リード・ザ・ジブンのキーワードは四つ。「利他の心」「絆」「自分事化」「志」と宇佐美氏は締めくくりました。

Four Key Words jibungoto.png

世界とともに、21世紀の教育リ・イマジン

教育セッションの司会進行は、OYWアンバサダー 堂本 剛史氏。日本、中国、北朝鮮、韓国、タイ、モンゴルのコーディネーティング・アンバサダーとして活動しています。同時に、サタデーキッズジャパンの代表を務めます。

堂本氏はインターナショナルスクール出身。日本で生まれ、幼い時から台湾、香港、韓国に移り住み、米国の大学を卒業。帰国して金融機関でアナリストを務めた後、中米ホンジュラスに飛び、コミュニティデベロップメントを手がけるNPOに参画しました。そこでお世話になったホストファミリーのお嬢さんは、いつも同じ本を読んでいる。「タンヤ、それはお気に入りの本なの?」と聞くと、「わたしは4冊しか持っていないのよ」との答えに、衝撃を受け、誰もが本を読めるよう街に図書館を建設。すべての子どもに教育機会が行き届くよう強く願って、渡米し研究に乗り出します。

そして昨年立ち上げたのが、シンガポールに本社を置く英語プログラミングスクールの日本法人、サタデーキッズジャパンなのです。

http://www.saturdaykids.jp/

Day3_11small.png

パネリスト1人目は、グローバルトップスクールの進学/留学支援を行う株式会社Crimson Education Japan 代表取締役 松田 悠介氏。松田氏の原体験は子どもの頃のいじめでした。身体が小さく授業についていけず識盲。そんな松田少年に対し小、中学校とエスカレートするいじめ。休み時間になるたびに暴力を振るわれ、仲の良かった子にもいじめられるようになり、自死すら考えた。

しかし高校のときの先生がただ一人、松田少年のための早く学校を空けて早朝授業をし、休み時間には見守り、いじめを止めてくれました。高校卒業時、先生にお礼を言うと「お礼はいいんだよ、次の世代にお返しして」と言う言葉に心を打たれ、教育の道に進みます。

しかし、優秀といわれる人ほど教師にはならず、教師になることが目的化しているケースも多い。そんな教育の現状を変える社会起業家たちの共通点が、留学であることに気づき視点を変えます。社会変革を起こす起業家たちの力を結集することで教育のあり方を変え、次世代の力になれると信じ、Crimson Education Japanを運営。「ワンサイズ・フィッツ・オールの画一的な教育は機能しない」と考え、グローバルトップスクールへの進学、留学支援のみならず、優秀な教師を相対的貧困の地域に派遣する活動も行っていいます。

https://www.crimsoneducation.org/ja/

DSC_0231small.jpg

2人目は英語を通した異文化教育を提供する株式会社Culmony CEO 岩澤 直美氏。チェコ人の母と日本人の父のもとプラハで生まれ、日本、ハンガリー、ドイツと移り住み、幼稚園2つ、小学校3つ、中学校2つ、高校は1つで大学は2つと様々な教育を体験。小学生の頃は「日本人に見えない」「英語を話さない外人」などと心無い言葉に傷ついた原体験をバネに、文化とハーモニーを掛け合わせたいと高校生のときに起業、今年7年目を迎えます。

世の中にはさまざまな国、人種、文化がある。そして一人ひとりの興味、天分、個性は違う。それぞれが理解、尊重されるべき。日本には、幼い頃から異文化環境で効果的かつ適切にコミュニケーションをとる力、異文化異文化間能力が必要、と訴えます。

http://culmony.com/

DSC_0246small.jpg

3人目はニューズピック・アンカーの徐 亜斗香氏。孫正義育英財団一期生、シュワルツマン奨学生、世界経済フォーラム(WEF) グローバルシェイパーです。大阪に生まれ、公立の小中学校とインターナショナルスクールを同時に卒業。高校では上海留学し中国語を修得。その後日本で国際バカロレアディプロマを取得。ニューヨーク大学アブダビ校では、世界から集まる多種多様な学生とともに学びました。

その後アルゼンチンに留学。そこで遊んだ可愛らしい装いの子ども達は、崩壊しかけたような家に住んでいた。世の中の不均衡に衝撃を受けます。教育を研究するためガーナに渡航。中学校を訪れますが、公立学校の先生は給料が安くアルバイトで生計を立てている。こうした経験をもとに帰国してからは、国際連合(UN)インターンシップ時の上司と姫路女学園を設立。女性のリーダーシップ育成のため、リベラルアーツ教育を導入しています。

DSC_0258small.jpg

パネルディスディスカッションでは、コロナ下で進むオンライン教育による機会と格差、さらには生涯学習について議論されました。GIGAスクール構想によるITインフラ整備が歓迎される一方で問題視されるのは、個人や個性、違いを受け止めないすべての人に画一的なアプローチ。そもそも選択肢がないような画一教育では、インクルーシブネスが大きく欠けています。

また、子どもに夢を持てといいながら自身が夢を持っていない大人による教育では、人生の主導権を育めません。そんな中、Culmonyでは、リモートの英語・異文化授業を鳥取の学校に提供。オンラインならではの新しい学びが始まっています。「学びは生涯続けられる。自分の興味に心の耳を傾けて」そして「心を乱す無責任な他人のノイズに惑わされないで」と岩澤氏は訴えます。

オンライン教育の課題について徐氏は、「教育は長期投資。オンライン教育で失われる直観的な学びの深さ、対面の温かさなどの面はあるが、近視眼に陥らず、場所を問わないオンライン環境の特性を活かした教育を推し進めるべき」と述べます。

松田氏は、「学びに画一性を超えた、個々人のオーナーシップを。教師も、なぜ教えるかの情熱とビジョンが絶対に常に必要」と述べました。

最後に堂本氏が、「一人の子ども、一人の先生、一冊の本、一本のペンが世界を変えられる」と言うMalala Yousafzai氏の言葉を紹介。

「あなたも世界を変えらえる」と微笑みました。

日本から世界へ、世界とともに学び続ける教育への挑戦が鮮やかに描かれました。

DSC_0223small.jpg

「マスクもワンサイズでは一人ひとりにフィットしない。教育も一人ひとりの形があるべき」

Comment(0)