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日本は特殊じゃない、英語は壁じゃない

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One Young World Tokyo Caucus 2020」ウェールビーイング・セッションの後、ヤンセンファーマ株式会社を取材しました。取締役CFO 経営企画本部本部長 事業開発本部 本部長 加藤ゆう里氏、ヤンセンファーマ株式会社 研究開発本部 クリニカルサイエンス統括部 臨床開発部 中枢疾患領域 アソシエイトディレクター 薬学博士 渡辺 小百合氏に、それぞれのキャリア考、インクルージョン観を聞きました。

世界最先端D&I企業の秘密

ヤンセンファーマが属するジョンソン・エンド・ジョンソングループは、世界で最も進んだダイバーシティ&インクルージョン(D&I)推進企業として知られています。筆者が、先立つ国際会議IABC登壇に向けた取材の際、ジョンソン・アンド・ジョンソン日本法人グループ 人事部ヘッド サプライチェーン エンタープライズ D&Iチャンピオン クイン・ユーニス雅子氏にその秘密を聞きました。

それは同社が1943年に起草した「我が信条(Our Credo)」にありました。「一人ひとりが個人として尊重されなければならない。多様性と尊厳が尊重され、その価値が認められなければならない」という指針が、社員一人ひとりに根付き、有形無形の資産を築いているのでした。

我が信条(Our Credo)
https://www.jnj.co.jp/about-jnj/our-credo

「なぜ日本こそインクルージョンが必要か」

そこでまず、女性のリーダーシップグループを率いるヤンセンファーマ 加藤氏に、キャリア構築とマネジメントの実態を聞きました。経理を端緒に財務を専門とし、製鉄業、コンサルティング、小売り、ITから今、医薬と幅広い業種でキャリアを構築してきた加藤氏。うち10年は米国在住、いわばアウェイでリーダーシップを築いてきました。

Q.なぜインクルージョン推進に力を入れるのですか?D&Iのトップ企業として、悪化する日本のジェンダーギャップ是正を始めとする社会の課題解決に向け、ビジネスの枠を超えた働きかけが必要ではありませんか。

個人的にも強い心情でD&Iを推進する理由は、インクルージョンは「あったらいい」ではなく「ビジネススキル」だからです。ジェンダー比率一つをとっても、多様性を高めることが業績向上につながる。なぜなら多様なタレントが集まると同時に、離職率が下がるからです。D&Iは経営指標なのです。

わたしは財務という軸を持ちながらも、様々な業界、それに米国勤務を経験してきました。そのため、特定の業界に居る人からは回遊しているように見られます。しかし、業界や国を超えることは、組織や人材の外向性を高めつつ、内面性を強くしてくれます。だからこそ、ジョンソン・アンド・ジョンソングループでも、社外から迎えた社員に対し、これまでの社風に染めようとする無意識のバイアスが働かないよう、とくにこの2~3年かけてトレーニング等を通して注力しています。

しかし一方で、女性はもちろん、日本の人材はグローバル市場で存在感がない、というのがビジネスにおける残念な現状です。だから「もう一歩踏み出して、リーン・イン」と声をかけ、グローバル市場で日本らしさを生かして活躍できるよう認めてもらう。これが、世界で日本が必要とするインクルーシブネスなのです。

具体的には、日本の人材を海外市場に行かせ、異なった文化の中で経験を積んで日本に戻ってきてもらっています。決して特別な扱いでなく、こうして頻繁にD&Iを実践してもらうことで、それが社員の行動目標として根付きます。

グループの外に働きかける必要性も感じています。自分の文化と他者の文化を相互に理解する。状況(シチュエーション)のインクルージョンを作る橋渡しをすることが、女性のリーダー育成は言をまたず日本のD&Iに必要だと考えています。

Q.日本が世界でインクルシーシブネスを確立するには、まず立ちはだかる日本語の壁をどう超えたらよいのでしょう。

米国のように競争が激しい市場でも、多様性や個性があれば、周りが興味を持って声をかけてくれます。人は見慣れたものを受け入れる傾向があることを理解し、自分らしさを活かせばそれが安心感、インクルージョンにつながります。ともに同じ志に向かって働く、パーパスドリブンな企業になれます。

英語ができないという声はよく聞きますが、わたしも英語が母国語ではありません。そしてビジネス上で英語の得手不得手を理由にする話をよく聞くと、問題は英語以外にあります。人と対等にいられること、論理思考、ストーリーを語る力、裏表の無さ、こうした人間としての信条があれば、人として受け入れてもらえます。

Q.英語はツールやスキルの一例、ということですね。おそらくそれはスピーチも同じで、加藤さんも先ほどの登壇前に丹念にリハーサルなさっていた。こういった準備がインクルージョンやコミュニケーションの成功につながるのでないでしょうか。

そう言っていただけると嬉しいです。自分ができることを、少しでもそうでない人の役に立てられるように、手を伸ばし続けていきたいと思います。

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「原体験が力になる」

上記パネルティスカッションに登壇したヤンセンファーマ 渡辺氏は、研究のきっかけとなった原体験を話してくれました。それは、弟が心の病を持ち、突然見えない人に話しかけるなどの行動を見る日常の中で、ノーベル生理学・医学賞を受賞した利根川 進教授の論文に出会い、脳神経の研究に心を打たれたのがきっかけでした。

Q.同じ会社であっても、部署や立場が違うとなかなか話す機会がないこともあるかと思いますが、加藤さんのお話を聞かれてご感想などありますか。

加藤さんとご一緒できることはなかなかないので本当にうれしいです。今朝は緊張していて、娘が手に「がんばって」と書いてくれました(笑)。

英語のコンプレックスや壁はわたしもあります。グローバルメンバーの中で引け目を感じがち。しかし言葉の場合は、事前の準備ができるので、伝えることができます。ネイティブでなくとも、知っていること、伝えるべきことをその瞬間に発言することが人の役に立つ、と今日の登壇ひとつをとっても実感します。言葉がパーフェクトである必要はないのです。

Q.統合失調症の症例をお話されましたが、全般的なアンメット・メディカル・ニーズについてお聞かせください。

ヤンセンでは、すべての人が当然もっている通常の生活を送る権利、ノーマライゼーションを推進しています。アンメット・メディカル・ニーズとは、そのうちきちんとした治療法が確立していない領域です。

先ほど、統合失調症の薬を飲むことを拒否し治療が進まなかった方が、がんに罹患し、臨死に向かい投薬を受け入れたことで、他界する前に家族とはっきりと言葉を交わすことができた、という事例をお話ししました。これは実例です。

アルツハイマーもしかり、ニーズがある一方で、即効性と安全性のバランスが難しい。病気のニーズも視野に入れながらディスカバリーつまり創薬を進めています。医薬、医療は日々の生活のためにあるべき、と信じているからです。

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