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「誰かが教えてくれることを信じるのではなく、自分で考えて行動する」ためには、矛盾だらけの「現実」をありのままに把握することから始めるリアリスト思考が欠かせません。「考える・書く力」の研修を手がける開米瑞浩が、現実の社会問題を相手にリアリスト思考を実践してゆくブログです。

アメリカ軍が日本人を紛争地から救出した事例は複数あります

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7月1日に政府が集団的自衛権に関する憲法解釈変更の閣議決定をしたことに関連して、こんな記事が出ていましたが、

米国は自国艦船に外国人乗せて退避は望んでいない  にもかかわらず、安倍首相はなぜこだわるのか : J-CASTニュース

しかしこの記事は重要な事実に口をつぐんでミスリードを狙ったか、あるいは単なる無知と調査不足をさらけ出した、いずれにしても質の低いものと言えます。

理由を説明します。まず、上記記事中で「指摘」されている重要な「事実」は次の2点です。

(1)外務省の三好真理領事局長の答弁(要旨):
「過去の戦争時に米輸送艦によって邦人が輸送された事例はない」
 
(2)米国政府の方針
「カナダ及び英国を含む全ての外国政府は、自国民の避難についての計画を立て、また米国政府の手段に依存しないことが求められる」

これはいずれも2014年6月11日に衆院外務委員会で辻元清美民主党議員の質問にともなう政府側の回答です。

この2点はいずれも事実なのですが、しかし辻元氏も言わずこの記事でも触れられていない別な事実があります。それは、

「外国での治安悪化時に日本人が米軍(または他国軍)に救助された事例は複数存在する」

ということです。

具体的には下記の通り。

1997年アルバニア
 日本人14名がドイツ軍によって、2名がアメリカ軍によって救出される
1998年エリトリア
 アメリカの輸送機によって日本人3名が救出される
1990年リベリア
 アメリカ海軍ヘリによってドイツなど非アメリカ国民を含む100名が救助される

1996年中央アフリカ
 フランス軍輸送機によって日本人2名が救助される
1997年ザイール
 フランス軍輸送機によって日本人19名が救助される

つまり、前記の(1)が言うように「輸送艦が使われた」例は今のところないというだけで、輸送機が使われた例は過去に複数あるわけです。
(2)も、「米国政府の手段に依存するな」というのが公式の立場ではあるものの、実際の治安悪化状況下ではそうも言っていられないので、アメリカ軍(または他の西側軍)が自国民以外も救助するのは普通のことであり、日本人以外も含めればそれこそ過去無数の実績があります。詳しくは下記資料参照のこと。

軍隊による在外自国民保護活動と国際法
 橋本靖明 林宏
http://www.nids.go.jp/publication/kiyo/pdf/bulletin_j4-3_3.pdf
 (防衛省 防衛研究所にて配布)

というわけでリンクした記事中の辻元清美らの主張はそうした基本的な事実に反しており、議論をミスリードするものと言わざるを得ません。

基本的な事実を知らずに言っているならば政策と報道に携わる者として無知および無責任であると言えますし、知っていてこのことに触れていないのであれば政策と報道に携わる者として不誠実きわまりないことです。

少なくとも私たちは事実は事実として把握した上で、方針を考えましょう。

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