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「誰かが教えてくれることを信じるのではなく、自分で考えて行動する」ためには、矛盾だらけの「現実」をありのままに把握することから始めるリアリスト思考が欠かせません。「考える・書く力」の研修を手がける開米瑞浩が、現実の社会問題を相手にリアリスト思考を実践してゆくブログです。

原子力論考(113)「美味しんぼ」が暴走している件について

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東日本大震災から3年が経過しましたが、相変わらずデマッターははびこっていますね。

・・・という、前号と同じ書き出しで今回も始めなければいけないようです。

問題はビッグコミックスピリッツ誌で長期連載中のグルメ漫画として有名な「美味しんぼ」の4月28日発売号、および5月12日発売号の掲載分です。内容については下記togetterをご覧ください。

雁屋哲原作「美味しんぼ」内での「福島では鼻血が多発」デマ
http://togetter.com/li/660340

【速報・未確定版】早売りスピリッツを買ってきた人曰く「完全にアウト」らしい【美味しんぼ】
http://togetter.com/li/665022

率直に言いますが、「福島では放射線の影響で鼻血が多発」なんてことは原発事故直後も含めて一度もありません。今時そんな発言をするのは「お前、大馬鹿もんだな」と周囲の9割にそう思われるレベルの妄言です。1割ぐらいはそう思わない人がいるかもしれませんが。

↓参考までに。この件を受けて発行されたと思われる環境省からの発表です。

環境省_放射性物質対策に関する不安の声について
http://www.env.go.jp/chemi/rhm/info_1405-1.html
"東京電力福島第一原子力発電所の事故の放射線被ばくが原因で、住民に鼻血が多発しているとは考えられません。"

「美味しんぼ」原作者の雁屋哲は内容について「その全責任は私、雁屋にある」と発言していますが、経緯を見るともはやスピリッツ編集部や小学館も会社として責任を免れないでしょう。

この件について「表現の自由」をタテに「美味しんぼ」を擁護する人々もいますが、今回「美味しんぼ」がやったことというのは、

飲食店の前で「この店の食品は毒されている」とスピーカーでがなり立てる

のも同然の行為です。現に福島県双葉町は公式に厳重抗議を出しています。

小学館発行『スピリッツ』の『美味しんぼ』(第604話)に関する抗議について| 双葉町公式ホームページ
http://www.town.fukushima-futaba.lg.jp/item/5924.htm

「町役場に対して、県外の方から、福島県産の農産物は買えない、福島県には住めない、福島方面への旅行は中止したいなどの電話が寄せられており、復興を進める福島県全体にとって許しがたい風評被害を生じさせている」(同抗議文より)

というわけです。

「言論の自由」は、デマを振りまいて他人の生活を破壊する自由のことではありません。

今回「美味しんぼ」原作の雁屋哲がやったことは、福島県において実際に発生していない「放射線による被害」を事実と強弁し、それによって「福島県にとって許しがたい風評被害を生じさせ」たものです。

実際、この件は刑法犯に該当する可能性があります。刑法233条の信用毀損および業務妨害罪に関する規定を見てみましょう。

【刑法 第233条】
虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

「美味しんぼ」を擁護するのであれば、雁屋の行ったことはこれに該当する可能性がある行為だということも認識しておくべきです。業務妨害罪の構成要件には「故意」であることが含まれており、雁屋側は故意を否定するでしょうから、ストレートにこれが成立するわけではありませんが。ちなみに最近の有名な事例としては、JTB社員が高校の遠足バスの手配忘れを隠すために遠足中止を求める手紙を届けた件で、この元社員が偽計業務妨害容疑で逮捕されています。

今回の「美味しんぼ」の一件で問われているのは「表現の自由」ではなく、「業務妨害」という刑法犯罪に該当するかどうか、という、そういうレベルの問題なのです。
スピリッツ編集部および小学館にとっては危機管理の正念場です。真摯に対応されることを願っています。

個人的なことを言えば、小学館には、ある事案で非常に誠意ある対応をしていただいた経験があるだけに、非常に残念です。

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