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「誰かが教えてくれることを信じるのではなく、自分で考えて行動する」ためには、矛盾だらけの「現実」をありのままに把握することから始めるリアリスト思考が欠かせません。「考える・書く力」の研修を手がける開米瑞浩が、現実の社会問題を相手にリアリスト思考を実践してゆくブログです。

原子力論考(111)再稼働に賛成?反対?をめぐる調査の謎

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こんにちは。本職では社会人の「わかりやすく書く力」向上トレーニングを手がけている開米瑞浩です。

が、今回は原子力の話です。

1月25・26日にかけて日経新聞・朝日新聞・共同通信が行った世論調査結果を見ていて、少々謎な部分がありました。

まずは各社の結果公開記事へのリンクです(日経は有料会員限定記事)

原発、最大の争点にはならず 都知事選で本社世論調査  :日本経済新聞
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFS26025_W4A120C1PE8000/

原発再稼働反対60% 73%が景気回復実感せず 共同通信世論調査
http://www.47news.jp/47topics/e/249739.php

世論調査―質問と回答(1月25、26日実施):朝日新聞デジタル
http://www.asahi.com/articles/ASG1W3TY5G1WUZPS003.html

ちょっと表にしてみましょう。数字は%です。「-」は選択肢がないか調査が行われていないことを意味します。

【再稼働】原発の再稼働に賛成ですか、反対ですか

2014-01-28-01.png
 →要するに「再稼働反対が約60%」ですね。これは3社共通。

【ゼロ政策】原子力発電を今後どうしたらよいと思うか

2014-01-28-02.PNG
 要するに、「直ちにゼロにするが10%台前半」ですね。共同の数字がありませんが日経と朝日は同傾向。

・・・・あれ? おかしいですね。

論理的に考えれば「直ちにゼロにしない」というのは「再稼働を認める」ということでしょう。なのになぜ

  再稼働反対が60% に対して
  直ちにゼロにする 10% 台

という結果が出るのでしょうか。

まず考えられるのは、「再稼働反対」といってもその姿勢には濃淡があり、それを各社の調査はとらえ切れていないのではないか、ということ。

具体的にはたとえばこういう濃淡です。

2014-01-28-03.PNG

「 (A) 今すぐ再稼働する必要性を感じていない」・・・というのはたとえば「だって止まってても電力足りてるんでしょ」と言っちゃうような人です。悪気なく無邪気にそう信じている人はまだまだ1~2割ぐらいはいそうです。個人的なカンですが。

「 (B) 安全性に不安がある」・・・というのはたとえば「福島では放射線起因の障害が多発する!」といまだに思っているような人です。

「 (C) 賛成とは言いづらい」・・・というのはたとえば「周りの友達がみんな反対してるから・・・」とか、「2年前に原子力反対の論文書いちゃったし、今さら撤回できないよ・・・」というような人です。

最後の「(D) 何が何でも絶対反対」・・・おそらくここが、原発ゼロ政策に関して「直ちにゼロ」と答える層の中心。とにかく論理的な議論が通じない、こういうグループは明らかに存在するし、この人々が「直ちにゼロ」以外の答えをするとは考えられません。

となるとおそらく (D) が10~15% であり、「再稼働反対」約60% のうちの残る45~50%を (A)~(C) が占める、といった仮説が立てられます。(もちろんただの仮説であって、検証されたものではありませんが)

問題は、25・26日に新聞各社が行った「世論調査」ではこのへんの差異を拾い上げられていないということです。どの社の調査を見ても「再稼働の是非」に関する設問は「賛成・反対」の2択かそれに「いえない・わからない」をつけた程度で、その意見を持った理由を問う設問がありません。

日経と朝日の両社の調査を見ても、再稼働の是非を問う質問と原発ゼロ政策を問う質問の回答には明らかに矛盾する傾向があります。せっかく世論調査をするなら、きちんとそのへんをわきまえた調査をして欲しいものです。

■開米の原子力論考一覧ページを用意しました。
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