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「誰かが教えてくれることを信じるのではなく、自分で考えて行動する」ためには、矛盾だらけの「現実」をありのままに把握することから始めるリアリスト思考が欠かせません。「考える・書く力」の研修を手がける開米瑞浩が、現実の社会問題を相手にリアリスト思考を実践してゆくブログです。

原子力論考(103)甲状腺被曝量の推定値に関する米軍情報について

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こんにちは。たまにエネルギーや安全保障問題についての駄文を書きますが、本職は文書作成能力向上トレーナーの開米です。

相変わらず、いろいろと怪しい情報が飛び交ってますねえ・・・・

まずこっちから行きますか。

"原発再稼働や輸出に国民は反対:100万人に1人の子ども甲状腺がん 福島で前回6月の12人から18人に増加 今後もさらに増える可能性高い - 白熱のディベート教室"
http://blogs.bizmakoto.jp/taka_taka_hello/entry/16728.html

■論点1:「子どもの甲状腺がんの発症率は100万人に1人程度と言われているのに対して、福島県の調査では100万人中102人の比率で発症したことになる。これで原発事故との関連性がないとはとても考えられない」
↑というのが著者の主張です

が、甲状腺がんについては以前も書いたように

"原子力論考(90)いまだに原発事故による甲状腺がんの不安を煽る某記事について"
http://blogs.bizmakoto.jp/kaimai_mizuhiro/entry/16321.html

甲状腺がんのように「有病」率と「発症」率が極端に違う病気では、原発事故と関係無しにこういうケースは十分起こりえます。きちんと専門家の見解を聞きましょう。その専門家=福島県立医大も「放射線の影響は考えられない」と言ってますね。

ということで次いきましょう。

■論点2:原発事故直後の甲状腺被曝量は過小評価されている可能性が高い。弘前大の調査では、浪江町民の甲状腺内部被曝量が推定で最大4.6mSvなのに対して、米軍は東京都でさえ14.0mSvと推定している。浪江町民が4.6mSvで済むはずがない
↑というのが著者の第二の主張ですが、これは推定の基準が違うことを無視した暴論です。
細かい理由を後にして結論だけ言うと、「米軍の推定は実態よりも極端に大きな数字になって」いるという確かな根拠があるため、両者の数字はそもそも同列に比較できません

弘前大の数字は基本的に個人の実測値を元にしています。

それに対して、米軍の推定は「24時間外で過ごし、定期的に運動し(呼吸が増えるため被曝量が増える)、放射線が計測された水、土壌などにさらされて60日間ずっと生活する」という、現実的にはあり得ない条件を仮定した「最悪に最悪の条件が重なると最大ここまで上がりうる」という数字です。例えて言うなら、「エンジンをつけた車のマフラーの直後で24時間呼吸を続ける」というような条件を仮定して排気ガスの吸入量を試算したような数字なわけです。あり得ない数字が出るわけですよ。

ちなみに、これは仮説でしかありませんが、弘前大の「実測値」と、米軍の「推定値」が極端に開く理由はもう一つありそうです。

それは、「日本人はもともとヨウ素131による甲状腺への内部被曝が起こりにくい」民族だということ。

日本人は海藻などから日常的にヨウ素を大量に摂取していて、大半の人が普段から「ヨウ素過剰」の状態なので、放射性ヨウ素がやってきても甲状腺に入らず排出される割合が多くなります。その結果、実測値が非常に低い数値になったと考えられます。(この話も原発事故以来さんざん出ているので有名なはずですが、放射線被害が起きるに違いない、と思い込んでいる人々は聞こうとしませんね・・・)

それに対して「米軍の推定」はなにしろ米軍ですから米軍人および関係者家族の食生活を基準にしていることでしょう。それで「最悪に最悪を重ねた条件」を仮定すれば、非現実的に大きな数字になっても不思議はありません。

そういうわけで、「論点2」も間違いです。


もう一つ、日本近海の太平洋で奇形魚が続出、というデマもあるんですが、長くなるのでその話はまた今度にします。

では、またお会いしましょう。

■開米の原子力論考一覧ページを用意しました。
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