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「誰かが教えてくれることを信じるのではなく、自分で考えて行動する」ためには、矛盾だらけの「現実」をありのままに把握することから始めるリアリスト思考が欠かせません。「考える・書く力」の研修を手がける開米瑞浩が、現実の社会問題を相手にリアリスト思考を実践してゆくブログです。

「対象範囲」の理解にはズレが生じやすい

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こんにちは。本職・文書作成能力向上トレーナーの開米です。

さて、先日「会社の規則に忠実に職務を果たす人間だけで仕事を回すのはあまりに危険だなあ・・・」と思った話について書きましたが、その続編です。

今回は、その場で起きていたちょっとしたコミュニケーションギャップについて書きます。

【状況まとめ】
ある日、開米は会員制サービスの申し込みに行った。
広告では「今申し込めば、入会キャンペーンで月会費4000円が3ヶ月目まで1500円になります」と大々的に書かれていて、それ以外の追加料金の表示は何もなかった。
ところがいざ申し込みに行ってみると、
「入会キャンペーンの適用にはオプションサービスZの申し込みが必須。
 Zの料金は当初2ヶ月無料なのでその間に解約すれば追加料金はかからない。
 ただしZを使うにはアイテムYが必須で、この代金1000円は必須」
つまりYの代金1000円が追加料金としてかかる、という、広告にはなかった事項が判明してトラブルになった。

この状況での私と、説明にあたった店員A氏との会話はだいたいこんな感じでした。

店員A:Zをご利用いただくにはアイテムYが必要で、その費用が1000円かかります。
開米 :は? 何ですかそれは。必要ありませんよ。
店員A:いえ、ZはアイテムYで使わないと効果が出ないんです。Yはお買い上げいただく必要があって、それが1000円になります。
開米 :いや、そういうことを聞いてるんじゃなくて、そもそも必要ないって言ってるんですが。
店員A:いえ、これが入会キャンペーンの必須条件になっておりまして・・・

店員A氏は開米がこう言っていると思っていたのですが
   ↓
 「オプションZを使うのに、アイテムYは必要ないだろう。YなしでZを使わせろ」

実際に開米が考えていたのはこうでした
   ↓
 「オプションZ自体がそもそも必要ない。無料だったとしても使う気は無い」

つまり、「必要ない」という言葉が指し示す範囲の認識がずれていたわけです。

実はこういう「ある対象について何かを言ったら、対象範囲がうまく伝わらずにトラブルになる」ケースは非常によくあります。

その中でもなかなか発見できずに長引きやすいのが、「双方で同じ用語を使っているのに意味が違う」という場合ですね。

たとえば「ご飯」という用語を、Aさんはお米を炊いたものという意味で使い、Bさんはそれにおかずもついたイメージで使う、というケースは十分ありえますよね。人によっては「うちで飼ってる柴犬のタロちゃんにご飯あげなきゃ」と使うことだってありそうです。

私とA氏の間で理解がずれたのは、私が「必要ない」と主張する範囲を明示していなかったのが原因でした。

「何ですかそれは。必要ありませんよ」という「それ」を私は「オプションZ」の意味で使い、A氏は「アイテムY」の意味で理解したわけです。

そこで、この種のコミュニケーションギャップを防ぐ方法としてはこのようなものが考えられます。

■指示代名詞を使わない
「それ」「あれ」「これ」・・・といった指示代名詞は、何を指示しているか理解がずれやすいので、指示代名詞だけでは使わないようにします。今回の例では私が「何ですかそのオプションZというのは。必要ありませんよ」と言えば誤解を防げた可能性があります。

■用語の定義を確認しておく
指示代名詞を使わずに双方で同じ用語、たとえば「ご飯」を使っていても、その意味がずれていたらどうしようもないので、定義を確認することを習慣づけます。

実はこの2つとも、特に難しいテクニックというわけじゃないのですが、ある程度意識して練習しておかないと、なかなかできません。

私はわかりやすい文書作成のトレーニングが本職なので、そのへんは慣れているのですが、それでも今回のA氏との間のようにすぐには気がつかない場合もあります。人生、日々是学習なのですねえ。

なお、今回のトラブルは結局こんな形で決着しました。

開米:オプションZにはそもそも何の興味も無いので、たとえ無料でも使う気は無い。したがってオプションZは形式上申し込むが、すぐに解約する。そしてアイテムYは買わない。ということでどうか?

こういう説明・提案をしたところ、それでいい、ということになって一件落着したわけです。

こうして一応解決はしましたが、ただ、この提案は私のほうから出したもので、Q社側から出たものではありませんでした。このことは、もしかしたらQ社にとっての人材育成上の重要な課題を意味しているのかもしれません。

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