原子力論考(100) わかめの味噌汁と玄米が放射線障害を防ぐ・・・わけがないじゃないですか
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こんにちは。たまにエネルギーや安全保障問題についての駄文を書きますが、本職は文書作成能力向上トレーナーの開米です。
論理思考の話の続きを書こうと思っていたのですが、昨日、こんな話を見かけたのでそっちを先に書くことにしました。簡単に要約すると、
・・・・という話ですが、いかが思われますか?
元のソースは秋月辰一郎医師本人の書いた「長崎原爆記」(日本図書センター)のようですが私は未確認。また、「AERA」誌の2011年6月13日号にも同様の内容が掲載されているようですがこれも現物は見ていません。が、この話はあちこちのブログに書かれているので、とりあえずこういう主張をした人物がいた、ということは事実としてよいでしょう。
さて、この話に対して最初に感じるのはどのような印象でしょうか。
「自然食」志向の強い人はこの話を好意的に受け取るはずです。「わかめ」の「味噌汁」と「玄米」食に加えて「砂糖抜き」です。いかにも「自然の力で健康になる」系の材料が揃ってますからね。
私は「自然食」志向そのものについてはここではとやかく言いません。
ただ、思うのですが、「自然食」志向がとても強い人の中には、「自然のものにはすごい力がある」という種類の情報を1も2もなく信じ込んでまったく疑わない、という人が少なからずいます。それはあまりにも危険なことです。
もし前述の秋月医師の話を読んで、「すごいね! やっぱり自然食っていいんだね!」と思ってしまったなら、「自然と名のつくものは何でも信じてしまう」思考の罠にはまっている可能性があります。信じ込む前に、どこかに誤解、勘違い、思い込みなどがないか疑ってください。「実体験にもとづく」「医師の」証言だからと言って正しいとは限りません。
秋月医師の証言で何が問題かというと、
というこの一節です。
実は、「爆心地から1.8km」というのは、原爆の放射線が減衰するのに十分な距離です。つまり、「原爆症を発症しなかった」のは別に不思議じゃないのです。
1.8km だと、爆心地に比べると2の9乗分の1ということでざっと500分の1になります。
実際、上のリンク先の図「爆心地からの距離と空中線量との関係」を見ると、1.8kmでの被曝線量は急性放射線障害を起こすレベルよりも下回っています。
さらに問題はそれだけではありません。
当時秋月医師らは「浦上第1病院」にいました。
この病院は「赤煉瓦鉄筋コンクリート3階建ての強固な建物」でした。
一般的な日本家屋でも、屋内にいれば原爆の放射線が50%程度遮蔽されるうえに、レンガやコンクリートは放射線の遮蔽性能が高い素材です。しかも地図で当時の位置関係を確認してみると、長崎原爆は「浦上第1病院の窓が向いていない方向で」爆発しており、コンクリートによる遮蔽が効果的に効いたと考えられます。
あとの問題は「原爆症」という名前です。
「原爆症」という名称は、
(1).原爆の熱線・爆風による熱傷、創傷
(2).急性放射線障害
(3).晩発性放射線障害
の3種類を含む形で使われています。1.8kmの距離では上の(1)で苦しんだ人は大勢いました。しかし秋月医師らは「強固なコンクリート作りの病院の中で」被災したため、(1)の被害も少なかったと考えられます。
現代でも(1)と(2)を混同している人が大勢いるぐらいなので、当時の人々はわからなかったのでしょう。その結果、元気に活動している秋月医師らを見て「わかめと味噌汁が原爆症を防ぐ」といった話を「自分の経験をもとに」信じ込んでしまったとしても、無理はないです。
反原発運動の中にはこういう、素性の怪しい話が掃いて捨てるほど出回ってますので、ご注意ください。
■開米の原子力論考一覧ページを用意しました。
→原子力論考 一覧ページ
論理思考の話の続きを書こうと思っていたのですが、昨日、こんな話を見かけたのでそっちを先に書くことにしました。簡単に要約すると、
長崎への原爆投下時、浦上第1病院(現・聖フランシスコ病院)に勤務していた秋月医師を初めとする医療スタッフは、爆心地から1.8kmしか離れていない場所で被爆したにもかかわらず、原爆症を発症しなかった。
被爆直後、秋月医師はスタッフに「わかめの味噌汁と玄米食」を食べるように、また、砂糖は絶対に避けるように、と指示をした。これが秋月医師らを被爆の被害から救ったのであった。
・・・・という話ですが、いかが思われますか?
元のソースは秋月辰一郎医師本人の書いた「長崎原爆記」(日本図書センター)のようですが私は未確認。また、「AERA」誌の2011年6月13日号にも同様の内容が掲載されているようですがこれも現物は見ていません。が、この話はあちこちのブログに書かれているので、とりあえずこういう主張をした人物がいた、ということは事実としてよいでしょう。
さて、この話に対して最初に感じるのはどのような印象でしょうか。
「自然食」志向の強い人はこの話を好意的に受け取るはずです。「わかめ」の「味噌汁」と「玄米」食に加えて「砂糖抜き」です。いかにも「自然の力で健康になる」系の材料が揃ってますからね。
私は「自然食」志向そのものについてはここではとやかく言いません。
ただ、思うのですが、「自然食」志向がとても強い人の中には、「自然のものにはすごい力がある」という種類の情報を1も2もなく信じ込んでまったく疑わない、という人が少なからずいます。それはあまりにも危険なことです。
もし前述の秋月医師の話を読んで、「すごいね! やっぱり自然食っていいんだね!」と思ってしまったなら、「自然と名のつくものは何でも信じてしまう」思考の罠にはまっている可能性があります。信じ込む前に、どこかに誤解、勘違い、思い込みなどがないか疑ってください。「実体験にもとづく」「医師の」証言だからと言って正しいとは限りません。
秋月医師の証言で何が問題かというと、
爆心地から1.8kmしか離れていない場所で被爆したにもかかわらず、原爆症を発症しなかった。
というこの一節です。
実は、「爆心地から1.8km」というのは、原爆の放射線が減衰するのに十分な距離です。つまり、「原爆症を発症しなかった」のは別に不思議じゃないのです。
"Q&A よくある質問 - 放射線影響研究所"
http://www.rerf.or.jp/general/qa/qa11.html
「被曝線量は、爆心地からの距離が200 m増えるごとに約2分の1に減少します」
1.8km だと、爆心地に比べると2の9乗分の1ということでざっと500分の1になります。
実際、上のリンク先の図「爆心地からの距離と空中線量との関係」を見ると、1.8kmでの被曝線量は急性放射線障害を起こすレベルよりも下回っています。
さらに問題はそれだけではありません。
当時秋月医師らは「浦上第1病院」にいました。
この病院は「赤煉瓦鉄筋コンクリート3階建ての強固な建物」でした。
一般的な日本家屋でも、屋内にいれば原爆の放射線が50%程度遮蔽されるうえに、レンガやコンクリートは放射線の遮蔽性能が高い素材です。しかも地図で当時の位置関係を確認してみると、長崎原爆は「浦上第1病院の窓が向いていない方向で」爆発しており、コンクリートによる遮蔽が効果的に効いたと考えられます。
あとの問題は「原爆症」という名前です。
「原爆症」という名称は、
(1).原爆の熱線・爆風による熱傷、創傷
(2).急性放射線障害
(3).晩発性放射線障害
の3種類を含む形で使われています。1.8kmの距離では上の(1)で苦しんだ人は大勢いました。しかし秋月医師らは「強固なコンクリート作りの病院の中で」被災したため、(1)の被害も少なかったと考えられます。
現代でも(1)と(2)を混同している人が大勢いるぐらいなので、当時の人々はわからなかったのでしょう。その結果、元気に活動している秋月医師らを見て「わかめと味噌汁が原爆症を防ぐ」といった話を「自分の経験をもとに」信じ込んでしまったとしても、無理はないです。
反原発運動の中にはこういう、素性の怪しい話が掃いて捨てるほど出回ってますので、ご注意ください。
■開米の原子力論考一覧ページを用意しました。
→原子力論考 一覧ページ
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