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「誰かが教えてくれることを信じるのではなく、自分で考えて行動する」ためには、矛盾だらけの「現実」をありのままに把握することから始めるリアリスト思考が欠かせません。「考える・書く力」の研修を手がける開米瑞浩が、現実の社会問題を相手にリアリスト思考を実践してゆくブログです。

論理思考:原発ゼロで電力をまかなうための課題とは?

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こんにちは。たまにエネルギーや安全保障問題についての駄文を書きますが、本職は文書作成能力向上トレーナーの開米です。

さて、前回のこれ↓

理想:原発なしですべての電力をまかなえる社会
現状:原発で3割の電力をまかなっている社会

では「理想」が曖昧すぎるので、もう少し明確にしてみましょう。

とりあえず思いっきり「理想」的な話ということで、ほとんど「脳内お花畑」級の設定で

電気料金は上がらないこと
電力の品質は維持されること
という条件をつけてみます。実現できるかどうかを別にすれば、これに不満を言う人はあまりいないでしょう。
その上で、「課題」をいくつか挙げてみると、たとえばこんな感じになるでしょうか。

2013-0702-01.PNG

なお、「ギャップ」はとりあえず省略してありますが、本来はここで理想と現状の差を明確にします。たとえばここでは原発でまかなっていた3割分の電力量と、その平均的な発電コストから「年間○○kWhの電力を、平均○○円/kWhで発電すること」といった形で「ギャップ」を表現できるはずです。

が、とりあえずそこは後回しにして予想される「課題」を見ると以下の4つ。

1.ベース電源設備の整備
原発が担っていた発電能力をゼロにするわけですから、当然その代わりが必要になります。(今は、足りていません)

2.燃料調達
基本的にそれらは火力発電になるはずで、燃料調達が必要です。

3.送配電網の整備
新しい発電所を作る場合、その場所によっては送電線を新たに整備する必要があります。

4.それらのコストダウン
それらすべてのコストが原発の発電コスト内に収まるようにしなければなりません。しかもそれは最低40年ぐらいの長期で考える必要があります。

これらの「課題」にはそれぞれさまざまな「阻害要因」があります。それらをひとつひとつクリアして、全部がつながったときにようやく「理想」が実現されるわけです。

ただし、「阻害要因」を出すためには「課題」をもっと具体化しなければなりません。
たとえば「ベース電源設備の整備」と言っても、LNG火力にするか石炭火力にするか、どちらかによって阻害要因は変わってきます。

これらを実行できるところまで細かく分解して積み上げていって初めて「原発ゼロ」は実現できるものなのですが、残念ながら「原発ゼロ」を主張する人々から詳細で実現可能なプランを聞いたことは一度もありません。

「原発ゼロ」派の人々には、とりあえず「LNG火力」「石炭火力」のそれぞれについて、「ベース電源設備の整備」と「燃料調達」「コストダウン」にかかる「阻害要因」にどのようなものがあるのか、まずその認識を出せ、と言いたいところです。それが出せないのに解決策が出てくるはずがありませんから。

実際に聞いてみるとわかりますが、「原発ゼロ」を強硬に主張する人々はこの質問にほとんど答えられません。唖然とするぐらいに。

何も分かってないからこそ、机上の空論を自信たっぷりに強硬に主張できるのでしょう。

おっと、脇道にそれました。「原発ゼロ」論への批判は今回本題じゃありません。本題は、論理思考の「思考の筋道を構造化する」サンプルです。

「理想・現状・ギャップ・課題・阻害要因・解決策」というこの基本パターンは応用範囲が広いので、何度か自分のわかる問題で練習して感覚をつかんでおくといいです。
普段からこれが習性になるまでやっておくと、会話をしながらアタマの中で構造化できるようになります。

こうして構造化して、そして「書いて」おくことで得られるメリットの1つは、「あ、そういえばこれもあった」という、忘れがちな視点に気がつくことです。「書いた」ものを見ると「あ、これが抜けてる」と気がつくわけです。アタマの中だけで考えていたのではそれは無理なんですね。

さて、ここで問題です。実は「理想」に挙げる条件、「原発ゼロ・電気料金据え置き・電力品質維持」だけではまだ足りません。もうひとつ「維持」しなければならないものがあります。それは何でしょうか? (「原発ゼロ」派の人はこれ、わかるかな・・・)

・・・・・次号に続く


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