原子力論考(94) 通信と電力(1) 情報とエネルギーの違い
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こんにちは。本業は文書化能力向上コンサルタントで、電力にも原子力にも何の関係も無いのになぜか原子力論考を書いている開米瑞浩です。
今回は、電力と通信の根本的な違いについて書きます。
特にアンケートをとったわけでもありませんが、「通信は自由化によって利用者に多大な利益をもたらした。それにならって電力も自由化すべきだ。それが利用者の利益になる」のように考えている方は少なくないのではないでしょうか。「自由化=絶対善」のようなスタンスで発送電分離を語る識者(なんの識者か知りませんが・・・)や報道機関もしばしば見かけますが、通信と電力では根本的な条件が違うため、そううまくは行きませんよ、という話です。
その違いの源泉は「通信は情報だが電力はエネルギーである」ことなのですが・・・まあこれだけでは何のことやら、ですよね。そこでまずこんな図を見てください。点線を境にして上段は通信の世界、下段は電力の世界です。
青い箱2つは情報の送信側と受信側です。情報の送信側は通信データを作って通信線に乗せて送ります。受信側はそれを受け取ると「プロセッサ」でその情報を解釈し、必要に応じて「制御命令」を出します。
「制御命令」というのは簡単に言うとスイッチのON/OFFのことで、ここから先は電力の世界になります。「電力」というのは電線を通じてエネルギーを送るものであり、スイッチを入れるとそのエネルギーが電力消費機器に渡って機器を動かします。
ここで重要なのは、
ということです。
「エネルギー」というのは図にもあるように、電線を通じて火の塊を送っているようなものです。エネルギーというのは適度な量であれば
と、人間にとって快適な環境を作れますが、度が過ぎると
こういう事態を起こします。「電力消費機器」を物理的に壊してしまうことがあるわけです。
日本では電力が安定しているため、こういう事態はあまりありませんが、たとえば「近くに雷が落ちて、家電製品が壊れる」というのがこういうケースです。
参考(リンク切れにつきリンク削除しました)→ "最近の電気製品はマイコンで制御しているものが多く、このマイコンが急激な電圧のブレに弱いのです。最悪の場合、接続していた電気製品(特にパソコン、DVDプレーヤー、コンポなどの精密機器)は壊れてしまいます。"
別にマイコンに限らず、ただ単にモーターをつないだだけ、のような50年ぐらい前の扇風機であっても電力(電圧と周波数)の変動は機器を傷めます。マイコンほど壊れやすくはない、というだけです。
現代の電気製品にはある程度の電圧・周波数の変動を吸収してしまえるものもありますが、無制限にできるわけではありませんし、入力電圧・周波数の変動がそのまま出力の変動をもたらすような機器もまだ多数稼動しています。
そのため、
という、安定性への要求が通信にくらべてはるかに高いのですよ。
なお、「電力の変動」というのは、多くても少なくてもダメです。
多いと、たとえば100Vのはずが200Vになったりすると過熱や過回転を起こして故障しやすい、というのはわかりやすいですが、少なくなった場合は単に止まるだけなのでは? と思われるかもしれません。
止まる、というのはつまり停電で、それはそれで重大事ですが、止まってしまえば普通は機器は壊れません。が、「止まらない程度に電圧が変動する」という場合もあります。100Vの電圧が突然70Vに落ち、また100Vに戻り、今度は50Vに落ち、また100Vに戻り・・・というような変動を短時間に何度も繰り返すと、特にモーターを動かしているような機器では回転数の急激な変化が何度も繰り返されることになります。加速/減速というのは機器に負担をかけるため、故障しやすくなります。車で急発進・急停車を繰り返していたらタイヤがすぐに摩耗するようなものです。
そのため、電力というのは常に必要な量が安定して供給されなければいけません。
通信についてであれば「この時間はみんな使ってるからネット遅いんだよね~」とか、「あーちくしょう、市街地なのにつながんねー!! やっぱりド○モにしとけばよかった!」といったユーザーの愚痴はよく聞きます。つまり通信可能なデータ量が極端に変動することがあっても別に携帯やPCが壊れるわけじゃないので、みんな文句を言いつつも使うわけです。
電力についてはそれが成り立ちません。電力は常に「必要とされる量にピタリ一致した電力が安定的に供給されなければならない」のです。それができないと、電力の消費側と供給側(発電所ですね)の双方で機器故障の原因になります。
長くなったので、続きは次回に。 次回は「情報は簡単に分離できるがエネルギーは分離できない」という話です。
■開米の原子力論考一覧ページを用意しました。
→原子力論考 一覧ページ
今回は、電力と通信の根本的な違いについて書きます。
特にアンケートをとったわけでもありませんが、「通信は自由化によって利用者に多大な利益をもたらした。それにならって電力も自由化すべきだ。それが利用者の利益になる」のように考えている方は少なくないのではないでしょうか。「自由化=絶対善」のようなスタンスで発送電分離を語る識者(なんの識者か知りませんが・・・)や報道機関もしばしば見かけますが、通信と電力では根本的な条件が違うため、そううまくは行きませんよ、という話です。
その違いの源泉は「通信は情報だが電力はエネルギーである」ことなのですが・・・まあこれだけでは何のことやら、ですよね。そこでまずこんな図を見てください。点線を境にして上段は通信の世界、下段は電力の世界です。
青い箱2つは情報の送信側と受信側です。情報の送信側は通信データを作って通信線に乗せて送ります。受信側はそれを受け取ると「プロセッサ」でその情報を解釈し、必要に応じて「制御命令」を出します。
「制御命令」というのは簡単に言うとスイッチのON/OFFのことで、ここから先は電力の世界になります。「電力」というのは電線を通じてエネルギーを送るものであり、スイッチを入れるとそのエネルギーが電力消費機器に渡って機器を動かします。
ここで重要なのは、
「情報は機器を壊さないが、エネルギーは壊すことがある」
ということです。
「エネルギー」というのは図にもあるように、電線を通じて火の塊を送っているようなものです。エネルギーというのは適度な量であれば
と、人間にとって快適な環境を作れますが、度が過ぎると
こういう事態を起こします。「電力消費機器」を物理的に壊してしまうことがあるわけです。
日本では電力が安定しているため、こういう事態はあまりありませんが、たとえば「近くに雷が落ちて、家電製品が壊れる」というのがこういうケースです。
参考(リンク切れにつきリンク削除しました)→ "最近の電気製品はマイコンで制御しているものが多く、このマイコンが急激な電圧のブレに弱いのです。最悪の場合、接続していた電気製品(特にパソコン、DVDプレーヤー、コンポなどの精密機器)は壊れてしまいます。"
別にマイコンに限らず、ただ単にモーターをつないだだけ、のような50年ぐらい前の扇風機であっても電力(電圧と周波数)の変動は機器を傷めます。マイコンほど壊れやすくはない、というだけです。
現代の電気製品にはある程度の電圧・周波数の変動を吸収してしまえるものもありますが、無制限にできるわけではありませんし、入力電圧・周波数の変動がそのまま出力の変動をもたらすような機器もまだ多数稼動しています。
そのため、
電力は安定していなければならない
という、安定性への要求が通信にくらべてはるかに高いのですよ。
なお、「電力の変動」というのは、多くても少なくてもダメです。
多いと、たとえば100Vのはずが200Vになったりすると過熱や過回転を起こして故障しやすい、というのはわかりやすいですが、少なくなった場合は単に止まるだけなのでは? と思われるかもしれません。
止まる、というのはつまり停電で、それはそれで重大事ですが、止まってしまえば普通は機器は壊れません。が、「止まらない程度に電圧が変動する」という場合もあります。100Vの電圧が突然70Vに落ち、また100Vに戻り、今度は50Vに落ち、また100Vに戻り・・・というような変動を短時間に何度も繰り返すと、特にモーターを動かしているような機器では回転数の急激な変化が何度も繰り返されることになります。加速/減速というのは機器に負担をかけるため、故障しやすくなります。車で急発進・急停車を繰り返していたらタイヤがすぐに摩耗するようなものです。
そのため、電力というのは常に必要な量が安定して供給されなければいけません。
通信についてであれば「この時間はみんな使ってるからネット遅いんだよね~」とか、「あーちくしょう、市街地なのにつながんねー!! やっぱりド○モにしとけばよかった!」といったユーザーの愚痴はよく聞きます。つまり通信可能なデータ量が極端に変動することがあっても別に携帯やPCが壊れるわけじゃないので、みんな文句を言いつつも使うわけです。
電力についてはそれが成り立ちません。電力は常に「必要とされる量にピタリ一致した電力が安定的に供給されなければならない」のです。それができないと、電力の消費側と供給側(発電所ですね)の双方で機器故障の原因になります。
長くなったので、続きは次回に。 次回は「情報は簡単に分離できるがエネルギーは分離できない」という話です。
■開米の原子力論考一覧ページを用意しました。
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