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「誰かが教えてくれることを信じるのではなく、自分で考えて行動する」ためには、矛盾だらけの「現実」をありのままに把握することから始めるリアリスト思考が欠かせません。「考える・書く力」の研修を手がける開米瑞浩が、現実の社会問題を相手にリアリスト思考を実践してゆくブログです。

憲法改正デマの話(2)現行憲法でも権力者による法律の乱用は防げません

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 社会人の文書化能力向上研修を手がけている開米瑞浩です。

 前回、憲法改正デマ解説1本目を書きましたが、その結論はこうでした。

現行憲法下でも実際には「公益及び公の秩序」の観点による基本的人権の一部制限は行われている。自民党の憲法改正草案は実質的にはその現状を追認し、現状と法文を一致させようということに過ぎない。

 そして、問題があるとすればそれは

その制限を行う条件を 権力者が恣意的に決めることが可能かどうか

 だという問いで前回は終わっていました。

 現行憲法下でも昔から「基本的人権」は一部制限されています。ただし、その制限が「権力者の恣意によらず、社会的に合理性があると認められる形で行われる」ようにするために法律というものがあります。

 たとえば前回も例に挙げた「警戒区域」という規制にはいくつかの根拠法があります。

    災害対策基本法
    武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律
    水防法
    消防法
    土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律


 などなど、これらの法律で「いつ、どのような場合に警戒区域を設定し、どのような罰則があるか」を決めているわけです。

 さて、「権力を持つ者」は、これらの法律を無視して恣意的に「人権の制限」をすることが可能でしょうか? 「公共の福祉」という文言を「公益及び公の秩序」に変えるとそれが可能になるのでしょうか?

 実際のところ、もしそれが可能なのであれば、憲法とは関係なく可能なんですよ。

 皆様もご存じの通り、「法律の不適切な運用」という問題は昔からあります。政治家に頼んだら許認可がすぐ通るけれど、それをしないと何ヶ月も待たされるとか許可が下りないとか、うんざりするぐらいこの種の話はありますよね。

 こういう問題はいずれも現行憲法下で起きているものです。つまり、現行憲法にはそもそも「権力者による法律の乱用」を防ぐ機能はありません。

 「権力の恣意的な行使」という問題は確かに存在します。ただしそれは憲法とは無関係の、個々の根拠法や政令、省令、規則等の運用レベルの問題であって、法体系の合理化、選挙を通じた政治家の選択、あるいは必要ならば行政訴訟といった手段を積み重ねて改善していくべきものです。

    憲法第12条の「公共の福祉」という文言を
    「公益及び公の秩序」に変えることでそれが悪化する

 ・・・・という種類のものではないのです。

 そんなわけで、「公共の福祉」を「公益及び公の秩序」に書き換えたからといって「基本的人権を否定しようとしている!」と騒ぐのはいかにも筋悪な議論です。憲法改正に反対したいならしたいで、もう少しまともな論拠を見つけるべきです。

 さらに続きます。

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