原子力論考(73)このところの電力需給が厳しい件について
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本業は文書化能力向上コンサルタントですが、余技で原子力論考を書いている開米瑞浩です。
11月28日に、東京電力の電力供給力に対する使用率が昨年4月以降最高の96%に達しました。
"東電、28日の電力使用率96% 昨春以来最高に :日本経済新聞"
これに対して、「電力需給が厳しいのは夏じゃなかったの? なぜ今?」という疑問の声を聞いたので、簡単に書いておきます。
まず始めに基本中のキホンの話から。
電力というのは「需要」と「供給」が常にピタリ一致していなければなりません。
このバランスが崩れると大停電を起こすので、「最大供給力」を多めに持っておいて、需要に合わせて必要な分だけ稼動させて供給させる必要があります。
この「多めに持っておく」分を予備力といいます。
電力を安定供給するためには、予備力は通常「8~10%必要」とされています。
いや、100%さえ超えなければ何とかなるんだろ、と思いたくなるところですが、3%を切ると周波数が変動しやすくなり、周波数に依存する機器に異常が出始めるため、3%を切ってはいけない、というのが目安です。そして、
電力需要が予想より多くなってしまう
発電所が故障で止まる
といった事態がある程度起こることを想定すると3%では足りないので、最低8%が安定供給の目安とされているわけです。
11月28日は一時的にその3%の壁も割り込んで予備率が2.9%まで落ちた瞬間もあったほどの危機的状況だったわけですが、この日の「最大供給力」は4419万kWでした。
そこで、
あれ、夏は最大供給力約5800万あったのに、なぜ今は4500を切ってるの?
1300万も減ってるのはおかしいじゃないか?
という疑問が涌いてくるわけですね。なかには「電力会社が「電力足りないデマ」を流すためにわざとやってるんだろう」と言い出す陰謀論者もいる始末で、困ったものです。
というわけで、電力の「供給予備力」が下がる理由を分解してみましょう。
供給予備力が下がる、理由はおおまかに分けて「需要の増加」か「供給力の減少」の2種類です。
「需要の増加」はさらに気象要因と経済要因、その他に分かれます。
「気象要因」は要は高温(冷房需要)、低温(暖房需要)のいずれか。
「経済要因」は要するに景気がいいと電力需要が増えるという話。
3番目の「その他」は、文字通りその他全部ですが、たとえば社会的な大事件が起こってみんながTVをつけると一時的に需要が急増する、といったケースがそれにあたります。
一方、「供給の減少」には計画停止と計画外停止があります。 (実際には止まってなくても気温が上がると出力が下がるガスタービンとかもありますが、そういうのは略)
「計画停止」というのは要は「点検のために止める」わけです。機械というのは放っておけば故障するもので、それを防ぐためには点検が欠かせません。身近な話でいうと、私が住んでいるマンションでは年に数回、エレベーターの定期点検をしていて、その間はエレベーターが使えません。
発電所も当然点検が必要で、しかも大型火力発電所ともなると点検箇所も膨大になり、同時に補修工事を行うため「約3~4ヶ月かかる場合もあります(by中部電力)」 (↓下記リンク先参照)
"中部電力|発電電力量の88%を担う火力発電所の舞台裏"
しかしそうやって止めていると「原発停止の夏」は乗り切れませんでしたので、
事情は中電のみならず、東電・関電を含む電力各社共通で、どこもかしこも夏の電力需要ピークを乗り切るために定期点検の繰延をしていたわけです。
しかし、いつまでも繰り延べてはいられません。そういうことをやっていると、たとえばこういうことが起きます。
つまり、「計画停止」を減らすとその分、故障を起こして止まるわけです。これが「計画外停止」です。
ちなみに機械工学などをやると「バスタブ曲線」というものを勉強したりします。
これは機械が「故障する確率」を表す曲線のことで、一般的に機械というのは
という性質があります。この「老朽化によって故障が増える」のを食い止めるために点検補修をが必要なのですが、その点検補修を繰り延べして老朽火力発電所を使ってきたのがこの夏の状況だったわけです。故障が増えるのは無理もない話です。
「計画外停止」には「故障」に限らず、自然条件等によって余儀なくされるものも含みます。たとえば水力発電は水が涸れたら止まりますし、火力発電所でも海水の取水口付近にクラゲが大量発生して止まった例があります。
こうした「計画外停止」がいくつか重なり、そしてたまたまたまその日に気温が冷え込んだりすると、
"東電、28日の電力使用率96% 昨春以来最高に :日本経済新聞"
という事態に至るわけです。
それでもまだどうにか96%で済んだのでなんとかなりましたが、本当に危ないところでした。東京電力管内大停電の一歩手前でした。
それぐらいの危機的状況だったということは、もっと知られていいと思います。
それでも、原発を止めておきますか?
11月28日に、東京電力の電力供給力に対する使用率が昨年4月以降最高の96%に達しました。
"東電、28日の電力使用率96% 昨春以来最高に :日本経済新聞"
これに対して、「電力需給が厳しいのは夏じゃなかったの? なぜ今?」という疑問の声を聞いたので、簡単に書いておきます。
まず始めに基本中のキホンの話から。
電力というのは「需要」と「供給」が常にピタリ一致していなければなりません。
このバランスが崩れると大停電を起こすので、「最大供給力」を多めに持っておいて、需要に合わせて必要な分だけ稼動させて供給させる必要があります。
この「多めに持っておく」分を予備力といいます。
電力を安定供給するためには、予備力は通常「8~10%必要」とされています。
いや、100%さえ超えなければ何とかなるんだろ、と思いたくなるところですが、3%を切ると周波数が変動しやすくなり、周波数に依存する機器に異常が出始めるため、3%を切ってはいけない、というのが目安です。そして、
電力需要が予想より多くなってしまう
発電所が故障で止まる
といった事態がある程度起こることを想定すると3%では足りないので、最低8%が安定供給の目安とされているわけです。
11月28日は一時的にその3%の壁も割り込んで予備率が2.9%まで落ちた瞬間もあったほどの危機的状況だったわけですが、この日の「最大供給力」は4419万kWでした。
そこで、
あれ、夏は最大供給力約5800万あったのに、なぜ今は4500を切ってるの?
1300万も減ってるのはおかしいじゃないか?
という疑問が涌いてくるわけですね。なかには「電力会社が「電力足りないデマ」を流すためにわざとやってるんだろう」と言い出す陰謀論者もいる始末で、困ったものです。
というわけで、電力の「供給予備力」が下がる理由を分解してみましょう。
供給予備力が下がる、理由はおおまかに分けて「需要の増加」か「供給力の減少」の2種類です。
「需要の増加」はさらに気象要因と経済要因、その他に分かれます。
「気象要因」は要は高温(冷房需要)、低温(暖房需要)のいずれか。
「経済要因」は要するに景気がいいと電力需要が増えるという話。
3番目の「その他」は、文字通りその他全部ですが、たとえば社会的な大事件が起こってみんながTVをつけると一時的に需要が急増する、といったケースがそれにあたります。
一方、「供給の減少」には計画停止と計画外停止があります。 (実際には止まってなくても気温が上がると出力が下がるガスタービンとかもありますが、そういうのは略)
「計画停止」というのは要は「点検のために止める」わけです。機械というのは放っておけば故障するもので、それを防ぐためには点検が欠かせません。身近な話でいうと、私が住んでいるマンションでは年に数回、エレベーターの定期点検をしていて、その間はエレベーターが使えません。
発電所も当然点検が必要で、しかも大型火力発電所ともなると点検箇所も膨大になり、同時に補修工事を行うため「約3~4ヶ月かかる場合もあります(by中部電力)」 (↓下記リンク先参照)
"中部電力|発電電力量の88%を担う火力発電所の舞台裏"
しかしそうやって止めていると「原発停止の夏」は乗り切れませんでしたので、
「2012年夏、中部電力では、火力発電設備の定期点検時期を繰り延べたり、前倒しすることで、供給力を確保しました」 "中部電力|発電電力量の88%を担う火力発電所の舞台裏"
事情は中電のみならず、東電・関電を含む電力各社共通で、どこもかしこも夏の電力需要ピークを乗り切るために定期点検の繰延をしていたわけです。
しかし、いつまでも繰り延べてはいられません。そういうことをやっていると、たとえばこういうことが起きます。
"老朽火力発電、高まる懸念 節電要請目前 供給力不足もSankeiBiz"
「原発の稼働停止が長期化する中、電力各社は定期検査の先延ばしや長期停止していた火力発電所の再稼働などを積み上げ・・・・」
「東京電力が火力発電所の緊急停止を発表するなど無理な増出力で老朽火力を中心に故障が増えており・・・・」
「停止した原発の代替で今夏はフル稼働を余儀なくされ「次第に無理が出始めている」(東電関係者)とみられる・・」
つまり、「計画停止」を減らすとその分、故障を起こして止まるわけです。これが「計画外停止」です。
ちなみに機械工学などをやると「バスタブ曲線」というものを勉強したりします。
これは機械が「故障する確率」を表す曲線のことで、一般的に機械というのは
使い始めた当初に故障が多く、
あらかた故障が出尽くすと長い安定期間があり、
老朽化の影響が出てくるとまた故障が増える
という性質があります。この「老朽化によって故障が増える」のを食い止めるために点検補修をが必要なのですが、その点検補修を繰り延べして老朽火力発電所を使ってきたのがこの夏の状況だったわけです。故障が増えるのは無理もない話です。
「計画外停止」には「故障」に限らず、自然条件等によって余儀なくされるものも含みます。たとえば水力発電は水が涸れたら止まりますし、火力発電所でも海水の取水口付近にクラゲが大量発生して止まった例があります。
こうした「計画外停止」がいくつか重なり、そしてたまたまたまその日に気温が冷え込んだりすると、
"東電、28日の電力使用率96% 昨春以来最高に :日本経済新聞"
という事態に至るわけです。
それでもまだどうにか96%で済んだのでなんとかなりましたが、本当に危ないところでした。東京電力管内大停電の一歩手前でした。
それぐらいの危機的状況だったということは、もっと知られていいと思います。
それでも、原発を止めておきますか?
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