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「誰かが教えてくれることを信じるのではなく、自分で考えて行動する」ためには、矛盾だらけの「現実」をありのままに把握することから始めるリアリスト思考が欠かせません。「考える・書く力」の研修を手がける開米瑞浩が、現実の社会問題を相手にリアリスト思考を実践してゆくブログです。

尖閣諸島問題に関する覚え書き

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文書化能力向上コンサルタントの開米瑞浩です。今日も本業とは関係ない覚え書きです。

尖閣諸島の問題に関して、最近ある妙な主張を目にしたので記録のために、そして私の友人がその手の主張に惑わされないように書いておこうと思いました。

どんな主張か、というと概略こういうもの。

A 尖閣諸島に関して日中戦争が起きてもアメリカは日米安保を発動しないだろう
 その理由は
B 日米安保条約は戦争状態になったときに発動するもの
C しかし日本側から戦争を起こすことはできない(憲法9条があるので、日本側から宣戦布告はできない)
D 中国は日本に宣戦布告すればアメリカが安保を発動せざるを得なくなるので、あえて宣戦布告はしない
E そうなると軍事衝突があっても形式的には戦争ではないことになる
F 形式的には戦争じゃないので、アメリカには安保を発動する義務はない

・・・という理由をつけて、中国が尖閣諸島へ侵攻してきても日米安全保障条約は発動されないだろう。

・・・で、この後、「所詮沖縄の米軍も日本を守るためにあるのではない。そんなものを信じてるなんておめでたいね」という感じの、反米・反日的論説に続いていくわけですが、私の知人でもこの論に結構影響されているようなので念のためコメント書いておきます。



まず、「宣戦布告がなければ形式的には戦争ではない」というのが根本的に間違いです。宣戦布告のない戦争なんぞ歴史的にいくらでもあります。というか、現代では宣戦布告のある戦争なんていつあったの? というぐらい珍しいものになっています。

また、武力衝突が起きた場合にそれが「国際法上の戦争」と認められるためには、自分から宣戦布告をする必要はなく、単に「紛争当事国の一方が、戦争状態にあることを周辺国に対して布告すれば」それで済みます。

次に、日米安全保障条約は「戦争状態」を発動の条件とはしていません。第5条がその関連条文ですが、「日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃」に対して行動することを宣言しています。要は「武力攻撃」とあるだけで、「国際法上の戦争」であるという条件はありません。

ただし、安全保障条約とか軍事同盟というのはそもそもが条文を逐語的に解釈してもあまり意味がないものです。そもそもその第5条にしても「共通の危険に対処するように行動することを宣言する」とあるだけで、実際何をするかはまったく書いてませんから。
そのため安全保障条約というのは条文よりも実際の行動が大事で、条文は実際の行動に裏付けられて初めて意味を持ちます。条文ではなく、実質をみましょう。


さてそれで、じゃあ米国の実際の行動はどうか、というと、この日中間の緊張状態が高まってからというもの、沖縄のF22部隊を増強するわ空母打撃群2部隊で西太平洋で演習をはじめるわという具合で

誰がどう見てもああこれは対中国の無言の圧力、かと思いきや、実は無言ではなく有言でした → "パネッタ国防長官、尖閣諸島は日米安保の適用範囲、と習近平に説明"

ちなみに尖閣諸島に対して中国が領有権を主張しだしたのは1971年ですが、アメリカの政府高官は1996年以降一貫して「尖閣諸島は日米安全保障条約の対象範囲である」と発言しています。

もう一つ書いておくと、「沖縄の米軍は日本を守るためにあるのではない」という主張について、東アジアの安全保障体制における「沖縄の米軍」特にオスプレイの配備でもめている海兵隊の主任務は台湾の防衛です。しかし、台湾を防衛することはそのまま日本を防衛することでもあります。まあ、私もヒマじゃないのでこのへんの話はまた今度。

何にしても冒頭で紹介したような主張はうかつに鵜呑みにしないことをお勧めします。


P.S. ちなみに「条文は実際の行動に裏付けられて初めて意味を持つ」ので、日本はインド洋の海上給油活動から撤退するべきではありませんでした。
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