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「誰かが教えてくれることを信じるのではなく、自分で考えて行動する」ためには、矛盾だらけの「現実」をありのままに把握することから始めるリアリスト思考が欠かせません。「考える・書く力」の研修を手がける開米瑞浩が、現実の社会問題を相手にリアリスト思考を実践してゆくブログです。

原子力論考(71) その仕事には発がんリスクがあるから仕事をやめなさい! と言われたら、やめますか?

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 久しぶりに原子力論考です。

 まずはGEPR(Global Energy Policy Research)さんの記事紹介から。

"海外の論調から「放射能よりも避難が死をもたらす」-- 福島原発事故で・カナダ紙"

 要点をまとめますと

1.東電福一事故での放射能の影響による死者は考えられないが、避難によるストレスは多数の死者をもたらす
2.日本政府は、避難によって人々をかえって危険な状況に追いやった
3.日本政府をこのような行動に突き動かしたのは、一般の人が放射線に抱く理屈ではない恐怖症と、怒れる有権者への恐れからによるものであろう
4.厳しい基準は、人命を救うかどうかではなく、政治的な判断で、低い基準に決まりがちだ
5.原子力事故時の避難基準はALARA「合理的に達成可能な限り低く」ではなく、AHARS「合理的に安全な限り高く」へ変更するべきである。
6.そう変更すれば、「避難者数は大幅に減り、将来的に必要が出てくる避難の際の複雑な問題点も減少する」

 こんなところですね。
 いずれも極めて妥当な話で、本来は昨年3月の段階で日本政府主導でALARAからAHARSへの変更を働きかけるべきでした。

 首相官邸の災害対策ページで「計画的避難区域」の説明がありますが、

"計画的避難区域について -首相官邸ホームページ-(H23/4/15)"

 計画的避難区域とは、「今すぐ」ではなく「計画的に」避難すべき地域。
 基準は、累積線量が20mSv/年に達する可能性がある地域。
 この基準は国際基準(20~100mSv/年)の下限を採用したもの。
 居住者の安全を最大限考慮する観点から、国際基準の下限で避難地域を設定した。
 ・・・とあります。
 問題は「居住者の安全を最大限確保するために、国際基準の下限で避難地域を設定」というところで、これでは実際には「安全を最大限確保」することにはならないのですよ。

 現在までの放射線防護の研究から、短時間で100mSvの被曝をすると、がんによる死亡率が0.5%上がるということが仮定されています。そもそも日本人の3割はがんで死亡するので、これは30%が30.5%に上がる、という話で、実際にはよほど大規模な調査をしなければわからない程度のわずかな差です。

 さて、そこで、自分の職場にある日突然見知らぬ人物がやってきて、次のように宣告されるシーンを想定してください。

 皆様が現在働かれているこの職業は、がん死亡率が有意に高い仕事です。この仕事をしていると、がん死亡率が0.5%上がるという信頼できる調査があります。
 いますぐこの仕事を辞めて、新しい職業を探してください。

 ・・・と、こういうことを言われたら、どう思いますか?

 アホか、の一言で終わりでしょう。普通であれば。
 0.5%に怖じ気づいてやってられっかこのボケ、こちとら忙しいんだ邪魔すんじゃねえ、帰れ帰れ、おととい来やがれ、おーい塩まけ塩、塩。

 というぐらいの話です。

 この話が悪いたとえだと思われるようなら、こちらの資料を御覧ください。
 →http://monographs.iarc.fr/ENG/Classification/index.php
 IARC、国際がん研究機関による、発がん性リスク一覧表です。↑こちらは英語なので、wikiですが日本語のもリンクしておきます↓
http://ja.wikipedia.org/wiki/IARC%E7%99%BA%E3%81%8C%E3%82%93%E6%80%A7%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%82%AF%E4%B8%80%E8%A6%A7

 Group1(発がん性がある)からGroup4「発がん性がおそらくない」までの4段階に分かれていますが、Group1にはアスベストのような有名なものもある一方で、たとえば「アルコール飲料」「喫煙」「木工家具製造」「靴製造あるいは修理」「石炭ガス製造」「塗装専従環境」「ゴム産業」「紫外線を発する日焼けマシーン」「鉄の鋳造環境」などなど、別に特殊でもない、昔からあるごく普通の職業がいくつもあります。

 つまり、「がん死亡リスクが0.5%上がるからこの土地から避難しろ」というのが通用するのであれば、同じ理由で「木工家具製造」も「鉄の鋳造」も「靴製造あるいは修理」も「塗装」も職業として禁止されなければならない、そんな話なんです。

 そんな無茶な話はないでしょう。

 ちなみに、発がんリスクGroup2Aという、比較的高いグループに、「交替制勤務」「ディーゼルエンジンの排ガス」などもあります。

 だからといって、たとえば「木工家具製造業には発がんリスクがあるから仕事をやめる」という選択を普通、人はしません。リスクがあるならあるで、そのリスクを合理的に減らすように手を打って仕事をするものです。たとえば木工家具製造なら「木工粉塵」がそのリスク源なので、防塵マスクをして作業をするだけで相当下がります。

 結局のところ、「リスクがどの程度なのか」を量的に見極めてそれに応じて手を打つべきなのであり、「20mSvだから強制避難」のような乱暴な措置はかえって生活を破壊し、多大なストレスを与え、より大きな健康被害をもたらすことにしかなりません。

 原発事故直後にはパニック状態になるのも無理はないのでしかたがないですが、もう1年半以上経っています。そろそろ、冷静になりませんか?

■開米の原子力論考一覧ページを用意しました。
→原子力論考 一覧ページ
Comment(12)

コメント

ぽんかん

「木工家具屋ではない人」が
木工家具製造によるアスベストのリスクを負う必要性は
ありませんね。
実際に石綿スレート工場近隣住民の健康被害への責任の
所在は明らかにされています。

ちーちく

ロジック破綻してます。
というか、話の設定自体が間違っています。
説明しましょう。(コメントでは図解できないので不等号で代用します)

あなたの話を式で表すと次のようになります。
前提 : 仕事あり > 無職(=仕事を辞める)  ・・・(1)
(仕事ありは有益なので正の値をとり,無職は不利益なので負の値をとる)
この左辺にのみガン死亡率0.5%増加を追加します。
展開 : 仕事あり+ガン死亡率0.5%増加 > 無職 ・・・(2)
(ガン死亡率の増加は不利益なので負の値をとる)

開米ロジックではガン死亡率0.5%増えても無職を選ばない(だろう)から、ガン死亡率0.5%増加(=100mSv被爆)は大したリスクではない・・・と、言いたいようですが、本当にそうですか?
上の不等式でいうと(1)から(2)へ変わっても不等号の向きが
逆にならないから大したリスクではないと言っているということです。
あなたのロジック、馬鹿馬鹿しいでしょ?
そもそもの前提である「仕事あり」と「無職」との差が大きすぎただけで
あって、100mSVの被爆のリスクについて人がどう判断するかについては
何一つとして証明できていません。
間違っている原因は前提の設定がおかしいからです。

実験計画法の基本として「実験区」と「対照区」の条件を同じくする・・・
ということがあります。
今回の場合だと、前提として 「仕事あり=仕事あり」または
「無職=無職」を設定し、左辺にのみ「ガン死亡率0.5%増加」を加える
ことで、その影響を評価するのが正しい方法です。
ガン死亡率を加えても「=」ないしは「≒」ならば「ガン死亡率0.5%
増加」の影響はほとんど無いと言えますし、「<」ならば、影響が
あったと言えるわけです。

あなたと同じくたとえ話を考えましたので想像してみてください。
”上司がやってきて「東京事務所は閉鎖になって、福島に移転すること
になった。福島では第1原発に修理部品を納入する部所(自然放射線
以外に追加で100mSv浴びると想定される)と福島県庁に納品する
部署(追加の被爆はない)があるが、給料などの待遇は一緒だ。
どっちの部署がいい?」と聞いてきました。”
両部署の希望者数に差がなければ「ガン死亡率0.5%増加」の影響は
ほとんど無いと言えます。
しかし、待遇が一緒なら死亡率が増える部署を好き好んで選ぶ
馬鹿がどこにいますか?
おーい塩まけ、塩!!

投孝子

面白そうでしたので誤解が解けるかどうか挑戦してみます。
>そもそもの前提である「仕事あり」と「無職」との差が大きすぎただけで
>あって、100mSVの被爆のリスクについて人がどう判断するかについては
>何一つとして証明できていません。
リスクについて人がどう判断するかというのを一緒に考えましょうという事です。この「判断」の時点でちーちくさんと開米さんは一緒に塩をまいています。

>あなたのロジック、馬鹿馬鹿しいでしょ?
>そもそもの前提である「仕事あり」と「無職」との差が大きすぎただけで
>あって、100mSVの被爆のリスクについて人がどう判断するかについては
>何一つとして証明できていません。
ここからものすごく誤解してます。開米さんは証明などする気もスキル(失礼をば)もないです。私のような無知な一個人で判断するためのたとえ話をしているにすぎません。

>しかし、待遇が一緒なら死亡率が増える部署を好き好んで選ぶ
>馬鹿がどこにいますか?
この点でもちーちくさんと開米さんは一緒に塩をまいています。(開米さんは書いていませんが当然の前提として同じ考えのはずです。)

察するに誤解の原因は開米さんが0.5%は安全だと言っていると思っている点です。嫌な事2つを選ばされるのが決定した時に、より嫌さ加減が少ない方を冷静に選びましょうという事です。
具体的には塩をまかれるというのが決定した時に、より塩をまかれる量を減らす選択を選びましょうという事だと思います。

開米瑞浩

投孝子さん、こんにちは。どうもありがとうございます。

確かに、私は0.5%が安全だとは言っていないんですけどね。
なかなか、コミュニケーションは難しいです。

ちーちく

開米という人は自分に不利なときは絶対に出てこないので、投孝子さんの書き込みは自分に有利だと感じたわけですね。

 さて、投考子さんのいう「誤解」。とけたと言ってあげたかったんですが、残念ながら文章がよくわからない。;;
1つわかったのは、開米さんには証明するスキルが無いだけでなく、その気もないということ。そうなのかもしれませんね。
ただ、私の書き込みについて投考子さんも誤解しています。
> 察するに誤解の原因は開米さんが0.5%は安全だと言っていると思っている点です。
私、安全だと主張しているなんて全く思っていませんよ。
> 逆にならないから大したリスクではないと言っているということです。
と、大したリスクではないと主張しているとハッキリ書いていますよ。
どうしてこんな誤解が生じたのでしょうかね。

投孝子

投考子ではなく投孝子です。乗っかかった船ですので頑張ってみます。
>> 逆にならないから大したリスクではないと言っているということです。
>と、大したリスクではないと主張しているとハッキリ書いていますよ。
違います。大したリスクというのは比較があって初めて書かれている「大したリスク」です。単独での発がん率のリスクを指すのではありません。比較対象と比べて圧倒的にリスクが少ないからリスクが少ないと表現されているだけだと思います。ちーちくさんが言われている
仕事>無職という話は私も開米さんも当然の前提と考えています。比較したうえでのリスクの大小という部分で誤解があると思われます。

ちーちく

投孝子さんでしたね。すみません;;
やっぱり文章がわからないので教えて頂きたい。
一番わかりにくいポイントは「比較対象」とは何を指すのか?
「少ないと表現されている」の主語は誰?とかです。
・・・とは書いてみたものの、根元的には投孝子さんの文章がわかりにくいのはどうでもよいこと。
 もし、私の解釈が誤解だと言われるのであれば、開米氏はあのたとえ話で何を言いたかったと思っているのか端的に教えて頂ければ、結果として誤解が解けるのではないかと思います。

ちーちく

ここからはこのエントリーへの私の感想。
(1)一方のリスクだけで結論を出すのが冷静で合理的ですか?
 「避難によるストレス」が悪影響を及ぼすという点は同意できますが、2番の「日本政府は、避難によって人々をかえって危険な状況に追いやった」という点については、本当にそうでしょうか?”かえって危険な状況に追いやった”と言うからには、強制避難させなかった場合のリスクとの比較が必要ですが、それをせずに一方の評価だけで優劣を決めています。理論的におかしいですよね?
(2)強制避難させない場合のリスクをシミュレーション
 では、強制避難させなかった場合について真剣にシミュレーションしてみましょうよ。「レベル7の過酷事故が起きました。あなたの町も汚染されました。」そう言われても、政府が避難指示を出さなければ市民は避難しないでしょうか?そんなことはありませんよね?実際に今回の事故でも多数の自主避難者がでました。政府の避難指示が遅ければ、もっと自主避難者は増えたでしょう。自主避難したのはどういう人でしょうか?自主避難は多大な負担です。それをできるだけの力のある人です。そして、子供を持つ世代。すなわち働き盛りの世代が、今回の自主避難者でも多数でした。自力では避難できないような独居老人や老夫婦だけの世帯は取り残されます。原発の立地は田舎ばかりです。もともと人が少ない(特に若い人が少ない)中で、都市機能を支える世代が自主避難し、支えられる世代が取り残されると都市機能は低下します。汚染に加えて都市機能が低下すると、踏み止まっていた人の中にも避難する人が増えてきます。避難→都市機能低下→避難の負のスパイラルが加速します。「汚染地域に取り残された独居老人、孤独死多数」と報道され、最悪の事態になってから最悪のタイミングで結局は強制避難させますか?
(3)強制避難のメリット
 強制避難自体はデメリットであると思います。しかし、避難させないことと比べて生じるメリットもあるはずです。
(3-1)除洗後の帰還の困難さが増大
 ある自主避難者が言っていました。「家も畑もあるけど、自分らはもう戻れない…」と。その理由は汚染への心配だけではありませんでした。自主避難者とその後の強制避難者との間に深い溝ができたのだ…と。自主避難者は一時的に逃げたつもりでも、強制避難者から見ると「自分たちを、村を見捨てて逃げた」と捉えられ、非難されている。もともと田舎の狭いコミュニティーのため自主避難者はもう戻れないのだという。事故後、速やかに強制避難が決まれば自主避難者は少なくなり、除洗後、村へ戻る人も増え復興にも有利になる。
(3-2)汚染地に留まることのストレスの軽減
 放射能汚染に対する不安とストレス。近所が1件、また1件と避難する中で留まり続ける事への不安。都市機能の低下による生活レベルの低下。「汚染された」と報道された土地の生産物は売れなくなります(農林水産だけでなく工業製品も)。観光業も壊滅です。そこに留まってどうやって生活すればいいのでしょう。東電の賠償をみてもわかるとおり、賠償までのスピードが非常に遅い。その間の生活はどうするのでしょう。飢え死ねと?それによる生活困窮。留まることも多大なストレスです。
 強制避難で政府や自治体が責任をもって避難地を確保し、生活できるだけの賠償・保証をすることで、留まり続ける事で発生するストレスの軽減と生活の安定がはかれます。
(4)アンリアル・机上の空論・役立たず
 リンク先も見ましたが利害関係のない人間が考えた内容の方が合理的・・・とは限りませんよね。時に的確な指摘をする場合もありますが、今回の論調はむしろリアリティーに欠けた机上の空論で、もし、実際に次に原発事故が起こったときには何の役にも立ちそうにありません。もし、カナダでレベル7の重大事故が発生したら、カナダ政府は日本の民主党政権と違って放射性物質の拡散予測を的確に公表して、日本よりもむしろ素早く避難指示をだすんじゃないですか?

投孝子

なかなか難しいです。
認識が違う相手に「誤解してます」というのは全くもって建設的な意見では無かったですね。反省しています。もう一度ちーちくさんのコメントを読み直して考えたのですが、
>前提 : 仕事あり > 無職(=仕事を辞める)  ・・・(1)
>(仕事ありは有益なので正の値をとり,無職は不利益なので負の値をとる)
>この左辺にのみガン死亡率0.5%増加を追加します。
>展開 : 仕事あり+ガン死亡率0.5%増加 > 無職 ・・・(2)
>(ガン死亡率の増加は不利益なので負の値をとる)
>開米ロジックではガン死亡率0.5%増えても無職を選ばない(だろう)から、>ガン死亡率0.5%増加(=100mSv被爆)は大したリスクではない・・・と、>言いたいようですが、本当にそうですか?
もしかするとちーちくさんの言いたいことは不等号(比較)で判断して欲しくないという事なのでしょうか?

投孝子

後、ブログの作者に対しての挨拶も無しに部外者同士で話をするのも非礼でした。申し訳ないです。
この原子力論考を書いて発表していただいて、ものすごく感謝しています。
もしこのブログが無ければ自分が今でも原子力村の人は・・・とか平気で言ってしまっているかもしれないと思うと恐ろしいです。
私などは自分では批判的だとは思いながらもテレビなど気軽に得られる情報だけで情報収集を済まそうという安易な日常を送ってしまっているのでこのブログのように解りやすく方向修正をしてくれるサイトは貴重です。
私の今の原子力に対しての見方のほとんどが開米さんの考えと昨年来日したロシアの原子力機関の副所長の考えになっています。(記憶があいまいですがもしかするとロシアの副所長自体もこのブログで紹介されたのかもしれません。)
陰ながら応援しております。これからも見続けます。頑張ってください。

開米瑞浩

投孝子さん、こんにちは。
ロシアの副所長というのはこの人のことかな~

ラファエル・ヴァルナゾヴィチ・アルチュニャン博士
http://blogos.com/article/23718/

僕も "原子力論考(25)人はメンツで理屈を語るもの(後編)" http://blogs.bizmakoto.jp/kaimai_mizuhiro/entry/3603.html で紹介してました。

お役に立てたようで、嬉しく思います。
ではでは♪(^_^)/

あーあ

0.5%の癌発生確率なんて無いに等しいんですけどねえ。
ちなみに私内臓系の病気を若年時に罹患しまして、その病気罹患によって今後の大腸癌の発生確率が5.5%上昇しましたよ。それに比べたらってことで。
酒やタバコ、排気ガスでも優に同程度以上で癌確率上昇しますしねえ。

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