政策に関する報道の読み方
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文書化能力向上コンサルタントの開米です。
今回はちょっと変わった記事を書きます。これを読んだ後に前回の「「LCC 搭乗中に給油」広がる不安・・・ってホントかいな」を読み直していただくと、一粒で二度おいしいかもしれません(笑)。
★ ★ ★
では、本題です。
ある問題に関してある政策が長年実施されている状況で、その政策に変更を求める動きが起きたときに、よく発生する現象があります。
こういう「政策変更問題」が起きる構造を簡単に書くとこんな感じ。
これまでは提供者Aが方式AでサービスAを提供していたところ、新たに提供者Bが方式BでサービスBを提供しようとしている、さあ方式Bを認めるのかどうか? という問題なんですね。
こういう構造のもとではたいてい、AとBは利害が対立します。Aは「既存勢力」であり、既存のマーケットを押さえている立場ですから、新勢力であるBの登場を望みません。
そこでAのグループはBの出現を阻止しようとして動きます。
これが完全自由競争のマーケットであれば、いかに利用者の支持を獲得するかというビジネスの戦いになるのですが、行政による規制が絡んでくると政治の戦いになります。そして「政治の戦い」の場でしばしば持ち出されるのが「安全性」という観点なんですよ。
たとえば
提供者A:当社は至れり尽くせりのサービスを提供します。でも値段は高いです。
提供者B:当社は不要なサービスを全廃しました。だからお安く提供できます。
というアピールをそれぞれが利用者に対して行った場合、Aを選ぶ客もいますが当然Bを選ぶ客もいるわけで、これは止められません。「本来Bを選びたいんだけど、Aしかないから渋々Aを利用していた」という状況下でもし新しくBが登場したら、利用者の一定数は間違いなくそちらに流れるため、Aのビジネスにはマイナスです。
そこでそのような場合によく使われる手が「方式Bは危険である」というロジックをかかげて、行政が規制をかけるように政治的な働きかけを行い、方式B~サービスBを成り立たなくさせる、あるいはその魅力が減るようにさせるというもの。
特に、Aグループの産業規模が大きく歴史が長いと、その間に行政側との人間関係もできるためこの手を使いやすいのです。また、マスコミとも切っても切れない関係があることが多いため、「マスコミ→利用者」ルートで「方式Bは危険である」というディスインフォメーションを行う場合があります。本来「サービスBという選択肢が生まれる」ということが利用者にもたらす利益があってもそれには口をつぐみ、ああ、危険なのなら規制するのもしょうがないよね、という形で認知されるように、メディアを通じたプロモーションを行うわけです。
こういう構造は根深く存在しているため、ディスインフォメーションの道具として使われる記事だけを見ていても真相はわかりません。
ただ、典型的なパターンはあるので、そういうことなんじゃないかな? という気配はある程度察知することができます。
■ポイント1:旧勢力 対 新勢力 の構図である
旧勢力対新勢力がはっきり分かれている構図の中で、新勢力側の方式に規制をかけよう、という政策が動く場合はこれに該当する可能性が高くなります。
■ポイント2:安全と利益のトレードオフが指摘されている
「金儲けのために安全性を犠牲にするのか」といった形で、提供者Bの企業倫理を問題視するような批判が行われている場合も、これに該当する可能性が高いです。なぜなら、方式Bが実際に本当に「危険である」なら、行政も「規制をかける」方向に動かざるを得ませんが、そうでないなら「規制強化」の働きかけは成功しません。その場合は「方式Bは危険であり、提供者Bはその企業姿勢に問題がある。したがってサービスBは使うべきでない」という方向で、利用者に対してディスインフォメーションを行うのが次善の策になるからです。
■ポイント3:明確な根拠が示されていない
「方式Bは危険である」という主張をする場合、その根拠が必要ですが、それを明確に語っていないか嘘をついている場合がよくあります。普通の「利用者」はそんな根拠を求めて調べたりしない、と、たかをくくっているのでしょう。
「オンボード給油は危険だ!」
「実際の給油事故例では負傷者はいないようですが・・・・」
「燃えやすくて発熱量が大きいジェット燃料は危険だ!」
「ジェット燃料は燃えにくいですよ? 発熱量が大きい燃料は一般的に燃えにくいのを知らないんですか?」
「とにかく危険なんだ!」
■ポイント4:ソースが明示されていない
「○○業務関係者は」といった表現で関係者の声として「方式Bは危険である」という判断が示されている場合もよくあります。が、「関係者は」では実質的にソースになりません。こういう場合の「関係者」はそのまま「利害関係者」であることが多く、一方のグループの代弁をしている場合が多いからです。
ちなみに私がこの件でもし「提供者A」側の利害関係者であり、記者に取材を受けたとしたら、「いや、やっぱりオンボード給油は危険ですよ。そりゃ乗客乗ってるんですから」ぐらいのことは言うでしょう。しかし、「では証言者としてあなたの名前を載せていいですか」と頼まれたら断りますね。実質大した危険もないのに危険だと言っている、なんてことを業界で知られたくありませんから。組織や個人を明らかにしない発言というのは、ポジショントークのなかでも信憑性が乏しいものが多いのです。
■ポイント5:記者の主観的判断が添えられている
「・・・・実質禁止にしていると見られる」といった部分は記者の判断と考えられます。つまり、「ジェット燃料は燃えにくい」ということも知らない記者の判断というわけです。もしそうではなく、しかるべき関係者に取材をして関係者の口からそういう判断を聞いているのであれば、匿名ではあってもそう書くはずです。こういう主観的判断を混ぜ込んで読者の印象操作をするのも良くある手なんですよね。
■ポイント6:権威を持ち出す
「一方、米国当局は○○に対してきわめて厳しい」・・・のように、権威を持ち出してハクを付けるのもよくある手法です。こういう場合、実際にその詳細を精査してみるとまったく実態が違っていたりします。そんなことをする利用者はめったにいませんので、言っちゃったもん勝ちなのが現実です。権威に記者の判断を付け加えてミスリードを誘う、という5と6のコンビもまた常套手段。
とまあ、そんなわけです。「政策報道の読み方」について、特に学生さん、新社会人の役に立つことを願っています。以上、おしまい。
今回はちょっと変わった記事を書きます。これを読んだ後に前回の「「LCC 搭乗中に給油」広がる不安・・・ってホントかいな」を読み直していただくと、一粒で二度おいしいかもしれません(笑)。
★ ★ ★
では、本題です。
ある問題に関してある政策が長年実施されている状況で、その政策に変更を求める動きが起きたときに、よく発生する現象があります。
こういう「政策変更問題」が起きる構造を簡単に書くとこんな感じ。
これまでは提供者Aが方式AでサービスAを提供していたところ、新たに提供者Bが方式BでサービスBを提供しようとしている、さあ方式Bを認めるのかどうか? という問題なんですね。
こういう構造のもとではたいてい、AとBは利害が対立します。Aは「既存勢力」であり、既存のマーケットを押さえている立場ですから、新勢力であるBの登場を望みません。
そこでAのグループはBの出現を阻止しようとして動きます。
これが完全自由競争のマーケットであれば、いかに利用者の支持を獲得するかというビジネスの戦いになるのですが、行政による規制が絡んでくると政治の戦いになります。そして「政治の戦い」の場でしばしば持ち出されるのが「安全性」という観点なんですよ。
たとえば
提供者A:当社は至れり尽くせりのサービスを提供します。でも値段は高いです。
提供者B:当社は不要なサービスを全廃しました。だからお安く提供できます。
というアピールをそれぞれが利用者に対して行った場合、Aを選ぶ客もいますが当然Bを選ぶ客もいるわけで、これは止められません。「本来Bを選びたいんだけど、Aしかないから渋々Aを利用していた」という状況下でもし新しくBが登場したら、利用者の一定数は間違いなくそちらに流れるため、Aのビジネスにはマイナスです。
そこでそのような場合によく使われる手が「方式Bは危険である」というロジックをかかげて、行政が規制をかけるように政治的な働きかけを行い、方式B~サービスBを成り立たなくさせる、あるいはその魅力が減るようにさせるというもの。
特に、Aグループの産業規模が大きく歴史が長いと、その間に行政側との人間関係もできるためこの手を使いやすいのです。また、マスコミとも切っても切れない関係があることが多いため、「マスコミ→利用者」ルートで「方式Bは危険である」というディスインフォメーションを行う場合があります。本来「サービスBという選択肢が生まれる」ということが利用者にもたらす利益があってもそれには口をつぐみ、ああ、危険なのなら規制するのもしょうがないよね、という形で認知されるように、メディアを通じたプロモーションを行うわけです。
こういう構造は根深く存在しているため、ディスインフォメーションの道具として使われる記事だけを見ていても真相はわかりません。
ただ、典型的なパターンはあるので、そういうことなんじゃないかな? という気配はある程度察知することができます。
■ポイント1:旧勢力 対 新勢力 の構図である
旧勢力対新勢力がはっきり分かれている構図の中で、新勢力側の方式に規制をかけよう、という政策が動く場合はこれに該当する可能性が高くなります。
■ポイント2:安全と利益のトレードオフが指摘されている
「金儲けのために安全性を犠牲にするのか」といった形で、提供者Bの企業倫理を問題視するような批判が行われている場合も、これに該当する可能性が高いです。なぜなら、方式Bが実際に本当に「危険である」なら、行政も「規制をかける」方向に動かざるを得ませんが、そうでないなら「規制強化」の働きかけは成功しません。その場合は「方式Bは危険であり、提供者Bはその企業姿勢に問題がある。したがってサービスBは使うべきでない」という方向で、利用者に対してディスインフォメーションを行うのが次善の策になるからです。
■ポイント3:明確な根拠が示されていない
「方式Bは危険である」という主張をする場合、その根拠が必要ですが、それを明確に語っていないか嘘をついている場合がよくあります。普通の「利用者」はそんな根拠を求めて調べたりしない、と、たかをくくっているのでしょう。
「オンボード給油は危険だ!」
「実際の給油事故例では負傷者はいないようですが・・・・」
「燃えやすくて発熱量が大きいジェット燃料は危険だ!」
「ジェット燃料は燃えにくいですよ? 発熱量が大きい燃料は一般的に燃えにくいのを知らないんですか?」
「とにかく危険なんだ!」
■ポイント4:ソースが明示されていない
「○○業務関係者は」といった表現で関係者の声として「方式Bは危険である」という判断が示されている場合もよくあります。が、「関係者は」では実質的にソースになりません。こういう場合の「関係者」はそのまま「利害関係者」であることが多く、一方のグループの代弁をしている場合が多いからです。
ちなみに私がこの件でもし「提供者A」側の利害関係者であり、記者に取材を受けたとしたら、「いや、やっぱりオンボード給油は危険ですよ。そりゃ乗客乗ってるんですから」ぐらいのことは言うでしょう。しかし、「では証言者としてあなたの名前を載せていいですか」と頼まれたら断りますね。実質大した危険もないのに危険だと言っている、なんてことを業界で知られたくありませんから。組織や個人を明らかにしない発言というのは、ポジショントークのなかでも信憑性が乏しいものが多いのです。
■ポイント5:記者の主観的判断が添えられている
「・・・・実質禁止にしていると見られる」といった部分は記者の判断と考えられます。つまり、「ジェット燃料は燃えにくい」ということも知らない記者の判断というわけです。もしそうではなく、しかるべき関係者に取材をして関係者の口からそういう判断を聞いているのであれば、匿名ではあってもそう書くはずです。こういう主観的判断を混ぜ込んで読者の印象操作をするのも良くある手なんですよね。
■ポイント6:権威を持ち出す
「一方、米国当局は○○に対してきわめて厳しい」・・・のように、権威を持ち出してハクを付けるのもよくある手法です。こういう場合、実際にその詳細を精査してみるとまったく実態が違っていたりします。そんなことをする利用者はめったにいませんので、言っちゃったもん勝ちなのが現実です。権威に記者の判断を付け加えてミスリードを誘う、という5と6のコンビもまた常套手段。
とまあ、そんなわけです。「政策報道の読み方」について、特に学生さん、新社会人の役に立つことを願っています。以上、おしまい。
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