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「誰かが教えてくれることを信じるのではなく、自分で考えて行動する」ためには、矛盾だらけの「現実」をありのままに把握することから始めるリアリスト思考が欠かせません。「考える・書く力」の研修を手がける開米瑞浩が、現実の社会問題を相手にリアリスト思考を実践してゆくブログです。

原子力論考(30)適切な意思決定を妨げる「認知的不協和」問題について(3)

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 「認知的不協和」問題の続きです。

 当初はAだと思って、それを前提にさまざまな対策をした。
 ところが、だんだんとAは間違いでBが正しいらしい、という情報が目についてくる。
 しかし、Aだと思って既に投じてしまった多大な労力を考えると、それが間違いだった、とは認めたくない。

 と、こういう問題が今起きつつあります。「認知的不協和」という、誰にでも起きる心理現象の1つです。

 こういうときは、「いやAは間違いでBのほうが正しいんだよ!」ということをいくら懇切丁寧に説明してもほとんど効果ありません。あってもまあ10人に1人程度でしょうね。

 じゃあどうすればいいのか、を考えるときに参考になるのが、「原子力論考(16)」で紹介した、ストレスへの対処のしかたです。

原子力論考(16)原子力論考(16)無限・無期型ストレスとの付き合い方(中編)

 ストレスが心身に与える健康影響を少なくするには、「家族、友達、職場でソーシャル・サポートをどんどん作り、活用する」ことが重要、とあります。

 ここで、「Aは間違いでBのほうが正しかったんじゃないか・・・・」という情報を受け取った人が感じるストレスの種類を考えると、↓この2つが重要です。

(1)A(この場合は放射能)に対する恐怖感
(2)「転向」したときに予想できる、社会的な非難の目

 (1)のほうは本来単なる科学的事実の説明で済みますが、すぐには信じられるはずもないので、100あったものが一気にゼロになることはありません。

 問題は(2)のほうで、こっちがやっかいです。
 早い話が、たとえば「子供を放射能から守るためにさまざまな情報を集めて対策をしているママさんグループ」があったとして、その中で一人だけ「実は放射能なんて大したことないみたいだから、私抜けますね」・・・・と、態度を変えたときのことを想像してみてください。

 そのグループ全員と断絶してしまいかねないほど、人間関係が悪化してもおかしくないです。「裏切り者」とか「子供のことを考えていない、血も涙もない母親」とか言われることもありえます。これが最大の問題なんです。

 人間は社会的関係の中で生きているので、これが断ち切られることは大変なストレスを産みます。だから、(2)の心配がない状態を作らないと、(1)を否定する情報をいくら説明しても効きません。

 問題は科学的知識の次元ではなく、社会的関係の次元にあるわけです。だから、この問題は社会的関係によってしか解決しないでしょう。身近な人間同士の間で地道にサポートしていくしかない、と私は思っています。

 そのためにこの「原子力論考」も少しは役に立つことを願っておりますが。。。

(追伸)
認知的不協和の話はこれで完結です。

(追伸2)
実際に「裏切り者」と呼ばれたのが北里柴三郎でした、という話を以前書きましたね。
原子力論考(25)人はメンツで理屈を語るもの(後編)


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