【図解】コレ1枚でわかるクラウドの不得意
今やITインフラの標準となったクラウドコンピューティングですが、決して万能な魔法の杖ではありません。クラウドの持つ大きな強みの一方で、物理的な仕組みやネットワークの性質に起因する「不得意」な領域が存在します。システムを構築・運用する上で、この「クラウドの限界」を正しく理解し、適材適所で技術を使い分けることが不可欠です。
クラウドが不得意とする主な要因は、大きく「遅延時間(レイテンシ)」と「大量データ転送の帯域・コスト」の2つに集約されます。
第1の不得意は、「遅延時間(レイテンシ)」の壁です。
クラウド上のサーバーは、利用者の手元から遠く離れたデータセンターで稼働しています。データがネットワークを経由して往復する際、物理的な距離に比例してどうしても通信の遅れが生じます。例えば、日本を起点とした場合、同一施設内(LAN)なら1ミリ秒以下で済む通信も、国内のデータセンターまでで10〜30ミリ秒、アメリカ本土のクラウドを経由すると約200ミリ秒もの遅延が発生します。
「たかが数百ミリ秒」と思うかもしれませんが、このわずかな遅延が致命傷になる業務があります。証券市場において1秒間に数千回の売買注文を行う高頻度取引(HFT)や、工場の製造ラインにおける不良品の瞬時な排除、さらには自動運転車における障害物の回避判断などがその典型です。このように「超低遅延」が求められるシステムにおいては、処理を遠くのクラウドに任せることは現実的ではありません。
第2の不得意は、「大量のデータ」をクラウドへ送り続ける際に発生する課題です。
工場に設置された無数のセンサーからのデータや、多数の監視カメラの高精細映像など、現場(ローカル)で膨大なデータが継続的に発生するケースを想像してみてください。これらを全てクラウドに転送して処理・保管しようとすると、莫大なネットワーク通信帯域を占有してしまいます。結果として、通信回線が逼迫して他の業務に支障をきたしたり、クラウドへデータを送るための回線料金や通信コストが予算を大幅に超過したりする恐れがあります。
こうした課題に対して、全く解決策がないわけではありません。現在、物理的な制約によるクラウドの不得意を補うための様々な取り組みが進められています。
代表的なアプローチが、データを発生源に近い場所(現場)で処理する「エッジコンピューティング」です。すべてをクラウドに送るのではなく、現場の端末やサーバーで即座に処理・選別を行い、必要な結果だけをクラウドに送ることで、遅延とデータ転送量の両方を劇的に削減できます。
また、インフラやハードウェアの進化による根本的な改善へのアプローチも進んでいます。その中でも特に大きなブレイクスルーとして期待されているのが「光電融合技術」(別途解説)です。これまで電子(電気信号)で行ってきた情報処理の基盤を、より高速でエネルギー効率の良い「光」に置き換える技術であり、これにより通信の圧倒的な大容量化と超低遅延化、さらには大幅な省電力化が見込まれています。
物理法則(光の速度)が存在する以上、ネットワーク越しの遅延を「完全にゼロ」にすることはできません。しかし、テクノロジーの進化により、その限界値は押し上げられつつあります。これからのITシステムは「何でもクラウド」という思考を脱し、クラウドとエッジ、そして最新のネットワーク技術を組み合わせた、全体最適のアーキテクチャを描くことが求められているのです。
【新著】『AI実践ドリル30日チャレンジ』
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