XAI(説明可能なAI)とAI駆動開発における品質保証について
昨日、東京工科大学のコンピュータサイエンス学部教授の中西崇文さんに、教授就任のお祝いということで、久しぶりのご挨拶も兼ねて八王子キャンパスに伺いました。研究室のドアを書けるとまだ何も置かれていない本棚とピアノが置いてありました。「なんでピアノ?」と伺うと、「これも研究の一環なんです(;゚д゚)」と、アワアワしながら説明されていたのが、なかなか可愛かったです(笑)。
そんな中西先生に、いま取り組まれている研究について伺いましたところ、XAI(説明可能なAI)に取り組まれているとのこと。私も言葉程度は知ってはいましたが、いろいろと話を伺うと、これはなかなか凄い話しだと感じました。そこで、これを機会に、AIの助けも借りつつ以下のように整理してみましたので、よろしければ参考にしてください。
XAI(説明可能なAI)とは
XAI(Explainable AI:説明可能なAI)とは、AI(人工知能)、特に機械学習モデルが、なぜそのような予測や判断、推奨を行ったのか、その根拠やプロセスを人間が理解できる形で提示する技術や手法のことです。
多くの高度なAI、特にディープラーニングなどのモデルは、その内部構造が非常に複雑であるため、入力データから最終的な出力(予測結果など)に至るまでのプロセスが人間には理解できず、「ブラックボックス」と形容されることがあります。XAIは、このブラックボックスの内部を可視化・解釈可能にすることを目指します。
具体的には、以下のような問いに答えようとします。
- なぜこのAIは、特定の予測結果を出したのか?
- AIの判断に最も影響を与えた入力データの特徴は何か?
- もし入力データが少し違っていたら、AIの判断はどう変わっていたか?
- AIの判断は信頼できるか? どのような場合に間違いやすいか?
XAIが必要とされる理由
XAIが重要視される背景には、AIの社会実装が進むにつれて顕在化してきた、いくつかの重要な課題があります。
1. 信頼性と透明性の確保
AIの判断根拠が不明瞭なままでは、その結果を盲目的に信頼することは困難です。特に、医療診断、自動運転、金融の与信審査など、人命や財産、社会インフラに関わる重要な意思決定にAIを用いる場合、判断プロセスが透明でなければ、万が一問題が発生した際に原因究明や責任の所在特定が難しくなります。XAIによって判断根拠を示すことで、AIシステムの信頼性を高めることができます。
2.公平性と倫理性の担保
AIは、学習データに含まれるバイアス(偏り)を学習してしまう可能性があります。その結果、特定の属性(性別、人種、年齢など)に対して不公平な判断を下してしまうリスクがあります。XAIを用いることで、AIがどのような特徴量に基づいて判断しているかを分析し、差別的なバイアスが含まれていないかを確認し、是正することが可能になります。
3.システムのデバッグと改善
AIが予期せぬ誤った判断をした場合、その原因を特定する必要があります。XAIによって判断プロセスを可視化できれば、モデルのどの部分に問題があるのか、あるいは学習データに問題があるのかを突き止め、モデルの精度や頑健性を改善するための手がかりを得やすくなります。
4.法規制への対応と説明責任
EUのGDPR(一般データ保護規則)のように、個人の権利に大きな影響を与える可能性のある自動化された意思決定について、そのロジックに関する有意義な情報を要求する権利(説明要求権)を認める動きが国際的に広がっています。企業や組織は、AIによる決定プロセスを説明する責任を負う場面が増えており、XAIはそのための技術的な基盤となります。
5.ユーザー受容性の向上
エンドユーザーがAIシステムを利用する際、なぜそのような提案や判断がなされたのかを理解できれば、AIに対する納得感や安心感が高まり、より積極的にAIを活用しようという動機につながります。
6.新たな知識の発見
AIがデータから学習したパターンや判断根拠を人間が理解することで、これまで人間が見過ごしていた新たな知見やインサイトを得られる可能性があります。
このように、XAIはAIを社会で安全かつ有効に活用していく上で、技術的な側面だけでなく、倫理的、法的、社会的な側面からも不可欠な技術として、その重要性が高まっています。
以上が、Gemini 2.5の説明(少し手を加えました)です。
さらに、生成AIがコード生成に使われるようになりましたが、生成されたコードの品質(正確性、効率性、安全性、保守性など)をいかに保証するかが重要な課題となっています。この課題の解決に、XAI(説明可能なAI)が使えるのではないかと、Geminiに再び尋ねてみました。
AI生成コードの品質保証におけるXAIの有効性
XAIをAIによるコード生成プロセスに適用することで、以下の点で品質保証に貢献できます。
1.開発者の意図との整合性検証
説明: AIがなぜ特定のアルゴリズム、データ構造、ライブラリを選択したのか、あるいは特定のロジックを生成したのか、その推論プロセスや解釈の根拠をXAIが提示します。
有効性:開発者は、AIの説明を通じて、自身の要求や設計意図がAIに正しく伝わり、コードに反映されているかを確認できます。もしAIの解釈に誤りがあれば、早期に発見し修正することが可能になります。
2.潜在的なリスクと脆弱性の特定
説明: AIが特定のコーディングパターンを採用した理由、あるいはエラーハンドリングやセキュリティ対策をどの程度考慮したか(あるいは省略したか)などをXAIが説明します。例えば、「パフォーマンスを優先し、特定のエッジケースのチェックを省略した」などの説明が得られる可能性があります。
有効性:開発者やレビュアーは、AIの説明を手がかりに、コードに潜む可能性のあるバグ、セキュリティホール、パフォーマンス上のボトルネック、コーナーケースの見落としなどを特定しやすくなります。これにより、より網羅的な品質チェックが可能になります。
3.コードレビューの効率化と高度化
説明: XAIは、生成されたコードの特に注意すべき点(例:複雑なロジック、標準的でない実装、代替案と比較して選択された理由など)をハイライトし、その理由を提示します。
有効性:レビュアーは、AIの説明を参考にすることで、コードの表面的な動作だけでなく、その背景にある設計判断やトレードオフを理解し、より本質的で効率的なレビューを行うことができます。確認すべきポイントが明確になり、レビューの質が向上します。
4.保守性とドキュメント作成の支援
説明: AIが生成時に考慮した設計判断や前提条件に関する説明は、将来コードを修正・拡張する際の重要な情報となります。
有効性: XAIによる説明は、コードコメントや設計ドキュメントを補完、あるいは自動生成するのに役立ちます。これにより、コードの保守性が向上し、将来の開発者がコードの意図を理解しやすくなります。
5. AIモデルとプロンプトの改善
説明:生成されたコードに品質上の問題が見つかった場合、XAIの説明はその原因がAIモデルの知識不足なのか、プロンプト(指示)の曖昧さに起因するのかなどを分析するのに役立ちます。
有効性:問題の原因を特定することで、コード生成AIモデル自体の再学習やファインチューニング、あるいは開発者がAIに与えるプロンプトの改善に繋げ、将来生成されるコードの品質を継続的に向上させることができます。
AI生成コード品質保証へのXAI適用方法の提案
XAIをAIコード生成の品質保証プロセスに具体的に適用する方法として、以下が考えられます。
1.説明付きコード生成
コード生成AIに、生成したコードブロックや関数ごとに、その生成根拠(参照したドキュメント、適用したデザインパターン、考慮した制約条件など)をコメントや付随情報として自動的に付与させる。
例: `# Generated based on requirement 'X'. Chose algorithm 'Y' for efficiency. See [link] for details.`
2.インタラクティブな質疑応答
開発者がIDE(統合開発環境)上で生成されたコードの一部を選択し、「なぜこの実装なのか?」「他の選択肢は?」「セキュリティは考慮されているか?」といった質問を投げかけると、AIがXAI技術を用いて回答するインターフェースを設ける。
3.リスクハイライト機能
AIが自信のない箇所、複数の有力な実装候補があった箇所、あるいは既知のアンチパターンに近い実装になってしまった箇所などを自己申告し、その理由とともにハイライト表示する。レビュアーはこれらの箇所を重点的に確認できる。
4.静的解析との連携
静的コード解析ツール(Linter, SASTなど)が検出した警告や問題点について、AIにその箇所の実装意図や背景をXAIで説明させる。単なる警告だけでなく、その文脈を理解した上で修正要否を判断できる。
5.代替実装の提示と比較説明
単一のコード案だけでなく、複数の実装候補を生成させ、それぞれのメリット・デメリット、想定されるパフォーマンスや保守性の違いなどをXAIで比較説明させる。開発者は説明を基に最適なものを選択したり、組み合わせたりできる。
6.レビュー支援ダッシュボード
生成されたコード全体に対して、XAIによる要約説明、注意すべき点、設計上の判断ポイントなどをまとめたダッシュボードを生成し、コードレビュープロセスを支援する。
これらの適用方法を通じて、XAIはAIによって生成されたコードの「ブラックボックス」性を低減し、開発者がコードの品質をより深く理解し、効果的に保証するための強力なツールとなり得ます。ただし、XAIによる説明自体の正確性や有用性も評価する必要がある点には留意が必要です。
最後の「適用方法」については、私は完全な門外漢であり、なんとも評価しがたいのですが、エンジニアの方なら参考になるかも知れません。
中西先生の話を伺い、とても印象深かったのは、次のことです。
「いま自分がやっている研究はAIを純粋科学に近づける研究です。」
いまのAIモデルはパラメーターが多すぎて、なぜこのような答えを出したのかを説明することは困難です。そこで中西先生は、生成された「答え」を起点に「問い」へと遡り、この答えを出した上で、どのパラメーターが最も影響を及ぼしているかを見つける方法を見つけ出しました。言わば、AIのリバースエンジニアリングです。これによって、複雑なパラメーターをシンプルなパラメーターに変換することができ、解釈を容易にしようというアプローチです。これは、計算資源の劇的な節約にもつながる可能性があるとのことでした。
「世界は突き詰めれば、E=mc2のようなシンプルな数式に還元されるという純粋科学と同様に、この研究もいまのAIの複雑さをどうすれば単純にできるかということを研究しています」
AIの機能や性能が向上しても「説明可能(Explainable)」でなければ、用途にも限界があります。何よりも、人間と対等な知性を持ち人間の相談相手であり補佐役となってくれる"信頼できる"AIエージェントは実現しません。私たちは、いま「(なぜこの答えになるのか分からないけど)結果として正しい(と受け止めている)」ことに満足し、生成AIを使っているわけです。しかし、人間の知性は、意味や理由を伴うものであり、それなくして、結果に責任を負うことができません。そう考えると、これは、人間の知性に近づこうという研究なのかも知れません。
話しを聞きつつ、私は絶対に「研究者にはなれないな」と実感しつつ、とても面白いお話を伺え、とても刺激になりました。
今年も開催!新入社員のための1日研修・1万円
AI前提の社会となり、DXは再定義を余儀なくされています。アジャイル開発やクラウドネイティブなどのモダンITはもはや前提です。しかし、AIが何かも知らず、DXとデジタル化を区別できず、なぜモダンITなのかがわからないままに、現場に放り出されてしまえば、お客様からの信頼は得られず、自信を無くしてしまいます。
営業のスタイルも、求められるスキルも変わります。AIを武器にできれば、経験が浅くてもお客様に刺さる提案もできるようになります。
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参加費:
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- 2万円(税込)/上記以外
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いずれも同じ内容です。
【第1回】 2025年6月10日(火)
【第2回】 2025年7月10日(木)
【第3回】 2025年8月20日(水)
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