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AI時代のSIerの営業はどうあるべきか

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SIerを取り巻くビジネス環境の変化の中で、営業は従来の「工数・モノ売り(製品やサービス)営業」や「ソリューション営業」から脱却し、新たな価値提供のあり方を模索する必要があります。

これからの営業が目指すべきは、「提言営業」への転換技術知識の獲得、そして顧客事業への貢献という3つです。この点について考えてみましょう。

ソリューション営業から提言営業へ

ソリューション営業の限界

長らくSIer営業の主流であった「ソリューション営業」は、お客様の課題を聞き出し、その解決策を提案するというアプローチです。しかし、このモデルは今、複数の要因によって限界を迎えています。

まず、「ソリューション」のコモディティ化が急速に進んでいることです。クラウド・サービスやオープンソースの普及により、かつてはSIerごとにユニークだった解決策(ソリューション)も、どこもが同様の製品やサービスを提案するようになり、差別化が難しくなっています。また、お客様自身がシステムの内製化を進め、自らソリューションを生み出す能力を高めています。

さらに根本的な問題として、不確実性が高まるビジネス環境においては、お客様自身が自分たちの課題を明確に特定できないケースが増えています。脱炭素や高齢化対応など、企業の枠を超えた社会課題への対応も求められる中、「何をすべきか」そのものが不明確な状況が生まれています。

このような状況では「課題を聞かせてください、それに対する解決策を提案します」という従来のソリューション営業のアプローチは機能せず、そのようなことしか言えないとすれば、営業の存在価値が問われることになります。

提言営業とは何か

こうした環境変化に対応するため、これからの営業には「提言営業」へのシフトが求められます。提言営業とは、お客様の「求める要求」に応えるのではなく、お客様の「求める要求」そのものを生み出す営業スタイルです。

具体的には、営業がお客様のビジネス環境や課題をお客様以上に深く考察し、「何を解決すべきか」という課題そのものを顕在化させ、お客様のあるべき姿を提言することから始めます。これは従来の「ソリューション営業」や「コンサルティング営業」とは一線を画し、課題解決の筋道を提供する以前の段階、つまり「何を解決すべきか」を教えることから始める営業スタイルです。

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具体的には、「御社の課題はここにあります」「この課題の解決はこうすべきです」とお客様に教えることをきっかけとする営業アプローチです。お客様の事業や経営について、「あるべき姿」を提言することから始める営業活動とも言えるでしょう。

的確な提言ができれば、お客様の心を掴むことができます。例え、お客様の抱える漠然とした不安と期待を完全に解消できなくても、一筋の光明を与えることができれば、議論や対話のきっかけが生まれます。その議論を深めていくことで、自ずと課題は明らかとなり、取り組むべきテーマも見えてきます。そこが明らかとなり、合意できれば、従来のソリューション営業に持ち込めることとなり、案件獲得につながるのです。

お客様にとって「デジタル」は、自分たちの既存の事業を破壊する脅威であるととらえているかもしれません。一方で、この脅威に立ち向かう手段であると認識しているでしょう。しかし、この変化にどう向き合い対処すればいいのか分からず困っている状況がしばしば見られます。漠然とした不安はあっても、何が課題かを明確にできず、テーマも見いだせないでいるのです。

そんなお客様に「課題やテーマを教えていただければ、最適なソリューションを提供します」と訴えても、お客様は困惑するでしょうし、そんな無神経なことを言う営業は信頼を失ってしまうリスクさえあります。

そうならないためには、お客様の先生あるいは教師になることです。営業は、そのための幅広い教養とコミュニケーション能力を磨く必要があります。不確実性の高い環境下で、お客様が明確にできない課題を顕在化し、お客様のあるべき姿を提言できる能力が、「提言営業」には求められています。

営業に求められる技術知識

工数販売から価値販売へ

従来のSIerビジネスでは、「工数」という商品を販売することが中心でした。しかし、クラウド・サービスの充実や生成AIの機能向上により、単純な工数需要は減少傾向にあります。また、慢性的な「エンジニア不足」も、工数の確保を難しくしています。

このような事業環境の変化に対応するために、SIerは「工数」ではなく「技術力」という商品を販売する方向へとシフトする必要があります。そして、この転換において重要なのが、営業自身が技術についての知識を磨くことです。

営業に必要な技術知識

クラウドについて、SaaSPaaSIaaSといった基本的な用語を理解し、これが何かを説明できる程度の知識を持っている営業は多いでしょう。しかし、クラウドネイティブ、コンテナ、マイクロサービスアーキテクチャなど、より深いレベルの技術知識を持つ営業は少数です。

これからの営業は、クラウドだけではなく、AIの最新技術についても知っておかなければなりません。それを実装できる知識はなくても、これらの技術で何ができるのか、どのような価値を産み出せるのかといった知識がなければ、顧客のニーズを的確に捉え、最適なビジネスソリューションを提案することはできません。

また、アジャイル開発やDevOpsなどの開発手法についての理解も不可欠です。「高品質で、無駄なく変更要求に即応できるソフトウェアの実現」を目指すアジャイル開発や「開発したら即本番、それでも安定稼働を保証する開発や運用の仕組み作り」であるDevOpsの考え方を理解し、これらを活用した新しいビジネスモデルの提言やビジネス変革を、お客様に促すことができなければなりません。AI駆動開発やAIOpsも、もはや前提の時代です。

このような知識を獲得するには、会社が学習機会を継続的に提供し、「デジタルの常識力」を向上させることが重要です。技術を理解することで初めて、お客様の新しいビジネスモデルの開発や業務変革をどのように実践すべきかITの視点から示すことができるようになります。

なによりも、「心理的安全性」は自発的な学習を促す前提です。例え会社が学びの機会を提供しても、学ぶことへの内発的動機がなくては、知識は定着せず、「組織学習」にも結びつくことはありません。実践に結びつくこともありません。学びの機会を作ることと合わせて、「心理的安全性」を担保するための施策もまた、営業が知識を身につけるために、極めて重要です。

顧客事業への貢献

手段と目的の逆転

これまでの営業は、既存の商材(工数や製品など)を販売することが目的化してしまう傾向がありました。しかし、営業には、これらの商材をあくまで「手段」と捉え、お客様の事業や経営に貢献することを最終目的として、そのためにどうするかを、お客様と一緒に考え、議論する能力が求められます。

このような思考や行動の様式を営業に根付かせるには、業績評価の取り組みと連動させなくてはなりません。このような行動を取ることが、自分の評価を高めることにつながることを明確にしてこそこのような行動が促され、知識やスキルもまた自発的に磨かれていくことになるでしょう。

オファリング・ビジネスと評価基準の変革

「オファリング・ビジネス」という言葉が近年SIer業界で注目されています。これは、お客様個別の要望に応える「受託開発」ではなく、自社のサービスをお客様に提案(オファリング)することでビジネスを生み出すアプローチです。

ここでもまた、営業や事業部門の業績評価方法も見直す必要があります。従来の「売上」や「売上と利益」を中心とした評価基準では、継続的な収益(リカレント)を重視するオファリング・ビジネスのモチベーションは上がりません。例えば次のようなやり方が考えられます。

  • 自社サービス売上に金銭的インセンティブを与える
  • リカレントビジネスの売上と利益を複数年分一括して受注時に業績計上する
  • サービス構築にかかった初期投資分を本社勘定として計上し原価をゼロにして「売上=利益」として業績評価する など

他にも様々なやり方が考えられるでしょう。企業文化に合わせた新たな評価基準を作っていく必要があります。

AIが前提の世の中になり、SIerのビジネス環境は劇的な変化を強いられます。当然、「売れるもの」が変わるわけで、営業も売り方を変えなくてはなりません。上記に示した3つの視点を意識して、知識やスキルを磨く必要があります。

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今年も開催!新入社員のための1日研修・1万円

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AI前提の社会となり、DXは再定義を余儀なくされています。アジャイル開発やクラウドネイティブなどのモダンITはもはや前提です。しかし、AIが何かも知らず、DXとデジタル化を区別できず、なぜモダンITなのかがわからないままに、現場に放り出されてしまえば、お客様からの信頼は得られず、自信を無くしてしまいます。

営業のスタイルも、求められるスキルも変わります。AIを武器にできれば、経験が浅くてもお客様に刺さる提案もできるようになります。

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【第2回】 2025年7月10日(木)
【第3回】 2025年8月20日(水)

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