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「デジタル化需要」で業績は伸びているが真の「DX需要」はこれから

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IT人材の人手不足が叫ばれ、SIerの業績は好調のように見えます。その一方で、ソフトウエア業の倒産が過去10年で最多となっているとの記事もあります。

「東京商工リサーチ(TSR)が20251月に発表した調査では、2024年におけるソフトウエア業の倒産数が223件と2015年以降、過去10年間の調査で最多となった。帝国データバンク(TDB)の調査でも倒産数が189件と、こちらも過去10年間の調査で最多だった。倒産企業の大半は中小規模の事業者という特徴があり、最も大きい倒産規模でも負債額は10億円未満だった。

倒産したソフトウエア業の中でも最も大きな割合を占めるのが、受託開発ソフトウエア業だ。TSRの調査で223件のうち209件、TDBの調査で189件のうち160件を占める。(2025227日・日経クロステックの記事より)」

一見すれば矛盾するこの状況をどのように受け止めるべきなのでしょうか。

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「デジタル化需要」で業績は伸びているが真の「DX需要」はこれから

ここ数年、大手・中堅のSI事業者を見ると、10%前後の売上増を維持している企業が珍しくありません。彼らの決算説明資料やプレスリリースには、「DX需要の拡大が業績を支える要因である」と書かれています。しかし、厳密に言えば、その多くは「デジタル化需要」と呼ぶべき内容であり、真のDXとは言い難いケースが多いのが現実です。

DXの定義:「デジタル前提の社会に適応するために、会社や社会を新しく作り変える取り組み」。つまり、アナログ時代に形成された業務プロセスや価値観を根底から見直し、デジタル前提で最適化して、これからの時代にふさわしい競争優位を生み出し、維持することを指す。

デジタル化の定義:アナログな業務をデジタルに置き換えること。ペーパーレス化やリモートワーク体制の整備、オンライン会議導入など、業務効率を上げること(デジタイゼーション)とオンラインでの新規事業の立ち上げやこれまでにないデジタル技術を駆使した新規事業を実現するためのIT投資を指す。

コロナ禍が引き金となり、デジタル化が加速した

コロナ禍により、オンラインコミュニケーションやリモートワークの需要が急速に高まった結果、企業はそれまで先送りしていたデジタル化に投資せざるを得ない状況に追い込まれました。オンプレのファイルサーバーやハンコ文化から脱却し、クラウド上で契約書や図面をやり取りする仕組みを構築するなどの取り組みは、「既存のアナログ業務をデジタルで代替する」段階にとどまっています。

売上を押し上げているのは、このような「デジタル化需要」が大半です。「変化に俊敏に対処するためのビジネスモデルや業務プロセスの再設計」がまだ十分には行われておらず、本来の意味でのDXとは言えない部分もかなりを占めています。

デジタル化需要がユーザー企業の内製化を促す理由

アナログ業務を置き換える過程で、ユーザー企業はITやクラウドの可能性を認識し、「ただ業務効率を高めるだけではなく、デジタルを"競争力を高める武器"として活用し、事業変革を実現したい」と意欲を高めるようになり、こうして「デジタル化需要」が発展して、本来の意味でのDX需要へ移行する流れが生まれます。

そんなデジタル化を推進するうちに、「変化に俊敏に対処したい」「さらなる競争優位を築きたい」「新しいビジネスを創出したい」といったDX的発想が膨らみます。この背景には、VUCA時代に突入し、不確実性が増している現実があります。従来のアナログ業務をデジタル化するだけでは、環境変化に追いつけず、さらに大きな改造、すなわちDXが不可欠と理解したユーザー企業が増えているからです。

ITを競争力の源泉と捉え、自前でやろうとする動き

デジタル時代にITは単なる道具を超えて、「企業の強みを生み出すコア部分」あるいは「競争力の源泉」へと変貌しました。自社の競争力や将来性を左右するなら、外注に頼るのではなく、自分たちで扱いこなせるようにする(内製化)意欲が強まります。そんな意欲を後押しするのが、クラウドや生成AIです。

クラウドサービスはインフラの構築や運用管理をクラウド事業者に任せることができます。そのため、ユーザー企業はアプリケーション開発や活用、データの分析など、事業の成果に直結するところにヒト・モノ・カネといった経営資源を集中できるようになります。また、生成AIは、コード補完やAIエージェントなどに組み入れられ、開発や運用の難しさや人手による手間を減らしてくれます。結果として、ITエンジニア不足を補い、内製化を加速させる追い風となっています。

"内製化×クラウド×生成AI"が工数需要を呑み込む

SI事業者が工数ベースの受託開発を続けるためには、「ユーザー企業が外注する必然性」が不可欠でした。しかし、内製化が進み、クラウドの利便性と生成AIツールが組み合わさると、開発・運用の生産性が飛躍的に上がり、多数のエンジニアを外部に依頼する必要性がなくなります。

ユーザー企業のIT部門がローコード・ノーコードでアプリ開発

生成AIを組み込んだローコードツールを使えば、専門的なコーディングスキルなしに一定レベルのアプリが作れるようになります。AIエージェントの登場で、ユーザー部門にできることが拡大し、システム開発の考え方や方法論が変わります。要件の変化やプロトタイプ作成も高速化し、IT外注のコストを抑えることができます。

高度なエンジニアは少数精鋭で十分

クラウド前提のアーキテクチャ設計やAIモデルの運用を理解する"精鋭"が社内に数名いれば、開発全体の品質とスピードを高めることができます。かつてのように、大量のプログラマを雇ってウォーターフォール開発する必要がないため、工数需要が大幅に縮小されます。

DX需要」という言葉が飛び交う一方で、実際のSI事業者の業績を支えているのは、大半が「デジタル化需要」であり、これが今の実情と言えるでしょう。しかし、これをただ享受しているだけでは、やがてユーザー企業がデジタルの本質的価値に気づき、内製化やクラウド・生成AIツールの導入を加速する段階で、工数ビジネスは急速に減少します。

この状況に対処するには、工数依存の事業モデルから脱却し、新たな事業のあり方に舵を切る必要があります。短期的には既存案件で稼ぐ人材を現場から引き抜いて教育・転換しなくてはならず、痛みとリスクを伴う覚悟が求められます。しかし、この一歩を踏み出さなければ、ユーザー企業が変革を進める中で、SIerの位置づけがますます希薄化し、自分たちの存在意義を見失ってしまいます。

SI事業者自身が、DXを実践することです。自らがモダンITAI駆動開発を当たり前にこなし、アジャイル開発やDevOpsなどのモダンITをベースにしたサービスを提供でき模範を示せるようになることです。ユーザー企業の「DXの実践を支援する」ためには、このような取り組みが不可避であると心得るべきです。

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