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魔法の呪文で生き残るのは難しい/「中期経営計画」に意味があるのだろうか?

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仕事の現場に於いては、「効率性」と「創造性」は、共に重要であることは、言うまでもありません。しかし、効率性ばかりを追いかけてきたのに、「これからはイノベーションだ!」と突如(?)創造性に目覚め、新規事業や事業変革、DXだと躍起になっている企業もあるようです。

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大昔の話しですが、どんな仕事でもこなせる柔軟で標準的な従業員を集め、組織の規律を大切に、一致団結して行動することこそ、企業価値の向上にとって大切だった時代がありました。事業が成長し、売上や利益が伸びれば、給与は上がり、いろいろな問題も解消されるという常識が支配していた時代です。突飛なことを極力避け、既存の延長線上で改善を重ねる努力を怠らなければ事業は成長するという「安定性」こそ、時代を支える価値観でした。高度経済成長という時代は、それでうまくいきました。

しかし、とうの昔にそんな時代は終わっています。多様で個性豊かな従業員が、それぞれに知恵を絞り、急速で予測できない社会の変化に臨機応変に対応できることが、企業価値の源泉となりました。「多様性」こそが、知識を創造し、VUCA(予測不可能な社会)時代に生き抜くためのイノベーションを生み出します。それが、特別なことではなく、日常の思考や行動の様式として意識もされないほどに浸透してこそ、変化に俊敏に対応できる企業といえるでしょう。そんな「俊敏性」がいま求められています。

それにもかかわらず、経営層や管理者が、自分の生きてきた「安定性」の時代の栄光と成功の方程式にとらわれたままで、乗り切ろうとしているように見えるのは私だけでしょうか。その最たる証拠が、「中期経営計画」というカタチで生き残っています。3年後の未来を予測して、そこに掲げた数字の達成にむけて、組織一丸となって取り組もうというやり方です。つまり、3年後の未来の数字で、いまを縛り付けるということです。

私たちはコロナ禍を経て、そのことがいかに無意味かを実感したはずです。未来など正確に予測できないことは、もはや誰もが知っています。それにもかかわらず、「中期経営計画」に定められた数字に固執することがどれほど無意味なことなのかに気がついていないはずはありません。いや、気付いているからこそ、「達成できなくても仕方がない」から、取りあえずつじつま合わせの数字を作ることで、なんとかカタチを保っているというのが本当のところでしょう。効率性にも創造性にも寄与しない「生産性の低い」取り組みに、多くの時間を費やしていることに、気付いているはずなのに、それを変えようとしないのは、なんとも残念な話しです。

そんな過去の価値観を引きずりながらも、このままではまずいと感じ、イノベーションやDXなどと大騒ぎをしているように見えます。変化に俊敏に対処するためにそれらが必要なのに、絶対化された数字で思考や行動を縛り付ける中期経営計画を未だに続けているというのは、滑稽としか言い様がありません。

つじつま合わせのように、イノベーションや変革、新規事業といった創造的な取り組みはに目覚め、デザイン思考やアジャイル開発に取り組む企業もあるようですが、前提となる企業の文化や風土が、未だ「安定性」に縛られていては、うまく機能するはずもありません。

「新規事業開発室」や「DX推進本部」を作り、「新しいことを始める」のもいいのですが、その前に、「中期経営計画」などの古き良き時代の因習を捨てなければ、そんな取り組みも成果には結びつきません。

1930年代、現象学を提唱したフッサールは、彼の著書「ヨーロッパ諸学の危機と超越的現象学」のなかで、経済活動が数字に支配されるになることで効率化が優先され、人々が生きることや働くことの意味を見失ってしまうことを「生活世界の数学化の危機」と呼び、警鈴をならしています。

中期経営計画などは、まさに「数学化」の所産の最たるものです。私たちは、いま改めて、この100年前の警鈴に耳を傾けるべきです。多様で予測不可能な社会であるからこそ、私たちは、時代遅れの因習を捨てて、いまの時代に即した働き方や業績評価の仕組みに作り変えるべきです。創造性は、そんな取り組みの結果として、もたらされるものです。

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「生産性=効率性+創造性」において、効率性に偏重の経営のあり方を創造性にシフトすることは、ドラッカーの言う知識経営の前提です。そのためには、野中氏の言う暗黙知を活かすSECI理論は有効な手段となるはずです。

拙速にイノベーションやDXを叫び、デザイン思考やアジャイル開発、あるいは、AIやクラウドと言った手法やツールを使うことに走るのではなく、もっと本質に根ざした文化や風土の変革に重点を置くべきです。

イノベーションやDXという魔法の呪文を唱え、AIやクラウドをぐつぐつと煮えたぎった鍋の中にイモリの尻尾のように落としても、企業変革はすすみません。もっと本質的に、根本的にいまの時代の価値観に向きあって、企業の文化や風土、さらにはパーパスにも踏み込んで、自分たちを作り変えていくことが、求められているように思います。

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