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うまくやろうとしないで自分の使命を果たす

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ある製造業のDX推進部門長から、DXについてわかりやすく話をして欲しいというご依頼を頂きました。私は、いつものように、なぜこのような講演を企画されたのか、その目的と、講演の結果として、受講者をどのような状態にしたいのかの「あるべき姿」を尋ねました。

すると、次のようなご意向を教えて頂けました。

  • せっかくいろいろいとデジタル・ツールを提供しているのに、現場は使ってくれない
  • デジタル・ツールをうまく使えば業務効率化ができるので仕事が楽になることを分からせたい
  • デジタル・ツールを身近なものとして、積極的に使うようになってほしい

おわかりの通り、これはDXの話しではありません。IT活用、デジタル活用の話しであり、その先にあるビジネスの変革、業務プロセスの変革、企業の風土や文化の変革といったDXの目指すあるべき姿の話しではありません。

何もそれが悪いとか、ダメだとか言いたいわけではありません。このような取り組みは「デジタルは怖い、苦手」と染み付いている一部の人たちに啓蒙するためには大切なことです。しかし、これはDXではありません。

いつもの余計なお世話で、私は心配になりました。DX推進部門長が、デジタル・ツールを誰もが使うようになることをDXだと考えていらっしゃるようだったのです。もちろん本来の意味でのDXに至るには、このような段階を経る必要があります。しかし、これがゴールではありません。この辺りの認識に齟齬がありました。

同様の話しは、これまでも何度もご依頼を頂いているので、過去に使った教材を紹介しながら、DXとは何か、IT化やデジタル化と何が違うのか、何をすればDXの実践になるのかなどを紹介し、この内容ではどうかと尋ねました。

すると、「このような話しではなくて、もっと分かりやすい話をして欲しい」とのことで、次のようなコメントを頂きました。

  • デジタル・ツールを使えば、業務効率化ができる
  • 他社の事例を示して、こんなに使い込んでいる企業があることを示して欲しい
  • デジタルに関心のない人たちに、その価値を伝え身近なものとして使わせたい

なるほど、そういうことなのか納得しました。正直なところ、これは私にとっては、「未知の領域」でした。もちろん、デジタルの基礎や基本を説明することこれまでもやって来たことです。ただ、既にデジタルに関心を持ち、「デジタルが分からないではまずいなぁ」とか、「DXという言葉を盛んに目にするけれど、デジタル化やIT化と何が違うんだろう」といった人たちを対象にするものでした。つまり、山登りのために登山口に到着した人に、山頂を目指す方法を伝える話です。

一方、今回のご依頼は、そもそもデジタルに関心のない人たちにデジタルへの関心を持ってもらおうということです。今日はお天気が良いので、まずは自宅を出ましょう、そして登山口に行ってみましょうと呼びかける話しです。

さてどうしたものかと考えました。自分の得意ではないからお断りするという選択もありました。しかし、せっかくご相談頂いたことでもありますし、私にとっては大きなチャレンジにもなると思い、引き受けることにしました。

後日、つぎのようなタイトルにして欲しいとの連絡がありました。

ゼロから学べる!デジタル入門

〜 デジタルを身近にして業務効率化を図ろう 〜

私の説明でDXとは何かをご理解頂けたのかも知れません。だからこのような分かりやすいタイトルにされたのでしょう。私が小難しいDXについて話をしないようにと(笑)。

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私も覚悟を決めて、講義内容のドラフティングを始めました。これまでなら、既存の資料を組合せ、これを土台にその会社の業務に即した内容を付け加えることで、短時間で講義資料を作ることができました。今回はそれができません。久しぶりに、講義の構想を最初から作りました。もちろん既存の素材も活かしつつではありますが、訴求点がこれまでとは違います。だから、新しい資料も作りました。また、「業務効率化」という言葉を打ち合わせでも何度も使われましたので、その点に力点を置いた内容にしようと知恵を絞りました。その時の資料がこちらです。

「業務効率化」ならば生成AIの活用事例を示せば分かりやすいはずだ。そう考えて、前半は、次のような実演を行いました。

  • 生成AI検索サービスであるParplexcityで文章を作成し、NapkinMapifyを使ってわかりやすい資料に仕上げる。
  • Deeplで海外の競合会社の英語ホームページや資料を瞬時に翻訳し、その要点を整理させる。
  • Chat GPT 4o1を使って、完璧な稟議書やこれに対する承認権限者の反論を書かせ、どう答えれば良いかの模範解答を作らせる。

受講者の多くはホワイトカラーで、上記のような作業は、彼らの仕事時間の多くを占めています。そんな作業に、これまで何時間、あるいは何日もかけていたわけですが、それが数分で終わってしまうわけで、「業務効率化」の事例としては、とても分かりやすく、身近に感じてもらえると考えたわけです。

一方で、DX推進部門長やその配下の人たちにして見れば、斜め上過ぎであり、もしかしたら、そんな話は期待していなかったかもしれません。RPAやローコード・ツールなどの話しを期待されていたのかも知れません。その意味で期待を裏切ってしまったかも知れませんね。

しかし、もはやこういう時代であることは伝えるべきだと思いました。また、こういうものがすぐに使えない会社のルールや暗黙の了解があるのなら、それに気兼ねなく声を上げ、真剣に受け止めて対応できる企業の風土が作ることも大切であり、DXとはそういう取り組みなのだという話しもしました。

また、「会社がやってくれないから何もしない」ではなく、「自分もまた会社の一員であることを忘れないで欲しい。自分から動き出すこと。会社の変革とは、そんな自分から始まる取り組みです」ということも話しました。

もしかしたら、主催者の期待を裏切るかも知れないなぁとは考えました。しかし、それよりも、私が信じる正しいことを伝えることを優先することにしました。

もちろん、彼らの取り組みに敬意を表し、このような機会を感謝することは言葉の端々に伝えました。一方で、「業務効率化」のために、デジタル前提で会社を作り変えましょうと、本来の意味でのDXの大切さも訴えたわけです。

「うまくやろうとしない」で「大切なこと、重要なことを伝え、自分の使命を果たそう」と考えたわけです。

さて、この結果はどう評価されたでしょうか。まあ、そんな評価はどうでも良いことで、果たすべき使命は果たせたのではないかと、自負しています。きっと主催者としては「めんどくさいオッサン」というご評価だったかも知れませんね。

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これからは、「ITリテラシーが必要だ!」と言われても、どうやって身につければいいのでしょうか。
「DXに取り組め!」と言われても、これまでだってデジタル化やIT化に取り組んできたのに、何が違うのかわからなければ、取り組みようがありません。
「生成AIで業務の効率化を進めよう!」と言われても、"生成AI"で何ですか、なにができるのかもよく分かりません。
こんな自分の憂いを何とかしなければと、焦っている方も多いはずです。

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