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【図解】コレ1枚で分かるデジタルの渦に巻き込まれるビジネス

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ビジネスの価値はUXと圧倒的なスピードで生みだされる

前章で述べたとおり、ビジネスの主役は、モノからサービスへとシフトしつつあります。モノが主役の時代には、モノの魅力、すなわち、機能や性能、品質や意匠などが、収益を左右していました。しかし、サービスが主役の時代になると、顧客の体験や共感の価値、すなわちUXの魅力が、収益を左右します。

サービスは、いつでも使い始めることができ、辞めることもできます。モノのように「買ってしまったから」や「既に持っているから」と、簡単に買い換えることができないという制約がありません。

また、サービスは、モノに比べて参入障壁は低く、魅力的なアイデアさえあれば、容易に参入できることから、様々な企業が、業界の枠や常識にとらわれずに、予期せぬ競争を仕掛けてきます。そんな彼らのスピードは、圧倒的です。

この競争に勝たなければなりません。そのためには、サービスの内容や機能は当然ですが、UXも合わせて改善し続け、顧客の状況の変化にきめ細かく対応し、常に魅力的であり続けることが求められます。

他社が、魅力的なサービスをはじめたら、その評判はあっという間に拡がり、しがらみなく乗り換えられてしまうでしょう。これに対抗するには、顧客の状況やニーズの変化をいち早く掴み、競合他社を超えるスピードで高速にUXの改善を繰り返すことができなくてはなりません。

FacebookGoogle、ヤフオクやメルカリなどの私たちになじみのサービスを、使い続けるのは、高速に現場や顧客の状況をデータとして掴み、高速にUXの改善を繰り返すことができる圧倒的なスピードが、企業や組織の文化や風土として根付いているからです。

デジタル・ボルテックス

「デジタル・ボルテックス」は市場に起きる破壊現象であり、「デジタル化できるものはすべてデジタル化される」という一点に向かって、企業を否応なしに引き寄せる性質を持っている。

DX実行戦略・マイケル・ウェイド著(日本経済新聞出版社)』に、こんな一節があります。スイス・ローザンヌに本拠があるビジネススクール"IMD"のマイケル・ウェイド(Michael Wade)は、「ボルテックス(Vortex)」すなわち、何もかもを吸い込んでしまう「渦巻き」として、デジタル化のトレンドを説明しています。まさに言い得て妙であり、いま私たちが直面している、デジタル化の強引さを見事に表現しています。

一方で、デジタル・ボルテックスの勢いが強まるほどに、デジタルだけではできない、「体験/共感価値=UX」の重要性が高まります。

ジェレミー・リフキン(Jeremy Rifkin)は、彼の著書『限界費用ゼロ社会』の中で、デジタル化の進展、具体的には、IoTによって、コミュニケーション、エネルギー、輸送の"インテリジェント・インフラ"が形成され、効率性や生産性が極限まで高まり、それによりモノやサービスを1つ追加することで生じるコスト(限界費用)は限りなくゼロに近づくこと。そして、将来モノやサービスは無料になり、企業の利益は消失して資本主義は衰退を免れないと述べています。

デジタル化とは、そういう社会や経済の大規模なパラダイム転換であり、もはやそれは、ボルテックスのごとき強引さで、世界を引きずり込んでしまいます。

私たちは、この現実から逃れようがありません。ならば、そこにどのようなビジネスの機会があるのかを考えておく必要があります。

「デジタル・ボルテックス」を前提に、これからのビジネスを考えるならば、そこには「デジタル化領域の拡大」と「体験/共感価値の提供」の2つの可能性が考えられます。

デジタル化領域の拡大

自動化は、あらゆる業種や業務に及ぶでしょうし、オンライン化も広範な業務や日常生活に拡がっています。故障の予測や診断、意志決定も、機械学習を駆使することで人間を介在させることなくできることも増えてきました。オンライン会議やペーパーレスのトレンドは、コロナ禍によって、一気に動き始めています。生成AIの登場と発展は、この流れに拍車を掛けるでしょう。

体験/共感価値の提供

一方で、「デジタル化できないもの」の価値が高まってゆくでしょう。アートやクリエイティブの領域は、その代表と言えます。音楽や絵画、文学、デザイン、アニメーション、ゲームなどは、それを表現する手段がデジタルであっても、その源泉は人間同士の体験や共感から生みだされます。

生成AIは、この領域で、可能性を広げることに貢献するでしょう。それは、いままでにはない新しい組合せや表現を創り出すことができるからです。ただ、その成果を美しいとか、素晴らしいと感じるのは人間の感性であり価値観です。そんな完成や価値観で、さらに魅力を高めていくのは人間にしかできません。そんなコラボレーションが、求められる時代となりました。

また、介護や看護、キャバクラやガールズバー、寄席やライブ・パフォーマンス、競馬やパチンコなど、ホスピタリティやエンターテインメント、ギャンブルもまた体験や共感がもたらす価値であり、これらがなくなることはありません。むしろ、その存在がこれまでにも増して、際立ってくるはずです。

さらに、Spotifyで音楽を聞いても、好きなアーティストの音楽は、ライブで楽しみたいと思う人は多いはずです。Google Arts & Cultureで世界中の美術館のアートを鑑賞できるようになれば、ルーブル美術館に行って、本物をこの目で見たいと思う人もいるでしょう。デジタル化は、結果として、体験や共感の価値を際立たせ、その特別な行為や存在に新たな価値を付与することになります。

結局のところ、人との直接的なふれあいや本物を志向する完成や価値観は、デジタルの進化によって奪われるものではなく、むしろ、その重要性や価値を高めていくことになるのでしょう。

「デジタル・ボルテックス」は、「デジタル化領域の拡大」と「体験/共感価値の提供」を同時に強いることになります。「DX=デジタル前提の社会に適応するために会社を作り変えること」もまた、この2つの領域に対処することとなります。

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