目的のない研修が招く残念な結果
デジタルやIT、DXを冠に据えた「研修」が、盛んに行われています。おかげさまで、ご相談やご依頼も多いのですが、「こんな項目を入れて欲しい」と、内容をきめ細かく、ご指定頂く場合があります。
最近は、ChatGPTについての説明を入れて欲しい、ローコード開発ツールなど、流行り言葉を入れて欲しいとのご相談が増えています。また、事例をできるだけ沢山というご依頼も後を絶ちません。中には、流行りの製品の動向やその売り方まで求められることもあります。
このようなご依頼の多くは、「何のために」あるいは、「受講者にこの研修をうけさせて、行動をどのように変えさせたいのか」と言った、目的や理由、あるべき姿が示されていることは、ありません。いきなりこんな内容を盛り込んで欲しいという話しです。
そこで、ご相談頂いた理由を尋ねると、次のような話しをされます。
- 「社長から、DXに取り組みなさいという話しが下りてきて、ご相談させて頂きました。」
- 「我が社の中期経営計画で、デジタル化の推進が上がっていて、人材開発としても何かやらなくてはならない状況にあります。」
- 「うちの社員はITとかデジタルとか、まったく分からなくて、これではまずいだろうと言うことになりました。」
社長からDXに取り組めと言われたからは分かりますが、皆さんにとってのDXとは、何を目指し、何をすることなのでしょうか?
デジタル化の推進といっても、いままでも取り組んでこられたはずですが、何をいまさら推進する必要があるのでしょうか?
ITとかデジタルが分からないと言いますが、皆さん、ExcelやWord、電子メールは使いこなしているし、SAPも導入されていますが、それで何が分からないのでしょうか?
少々、意地悪な質問かも知れませんが、これにお答え頂けることは、まずありません。私としては、こんな問いかけをきっかけに、目的についての議論を促したいわけです。
研修とは、ツールであり手段です。これをなんのために使うのかといった目的を定めないままに、手段についてのご要望ばかりが膨らんでいるわけです。つまり、手段として、「最新鋭の自動運転機能を備えたSUVで、できればEVでお願いします」とご相談を受けているのですが、目的が、「畑でとれた野菜を農協に出荷するため」ならば、「軽トラ」が、いちばん使い勝手がいいわけです。
手段が目的に先行することは、よくあります。ならばこのようなご依頼の前提となる目的を議論しましょうとお願いをすると、あまりいい顔をされないことがあります。その理由は、「研修をすることが目的」であることと、「研修をすることが自分の仕事であり、その理由は、後付けで十分です」ということのようです。もちろん、皆さんが、このような反応をされるわけではありませんが、「よけいなことは気にしないで欲しい」という空気は、少なからず感じます。
内容についても、ChatGPTを採り上げるのはいいのですが、もうこの言葉の旬も終わり、新しい動きもあります。そもそも、その前提となっている大規模言語モデルや生成AI、さらには、深層学習やAIについても基本的なことをお伝えしておけば、今後出てくるサービスや技術の見通しを知り、いちはやく仕事に取り入れ、使いこなすための手掛かりを得ることができます。
ローコード開発ツールもいいのですが、生成AIが広くプログラム・コーディングに利用されるようになれば、もっと簡便に、そして、よりきめ細かなプロセスを実装できるようになりますから、そんな動向と合わせて学ぶべきでしょう。
事例は、「わかりやすく受講者がとっつきやすく、喜んでもらえる」から沢山入れと欲しいと言うことなのですが、他社の事例なんて、そのままでは、自分たちに適応できるわけがありません。安易な事例紹介は、「凄いですねぇ、もうここまでやっているところもあるのですね。でも、うちは遅れているからなぁ、あの会社だからできることで、うちには無理ですよ」となり、むしろモチベーションを下げることになります。なぜこの取り組みが始まったのかの背景や理由、どのような苦労があったのか、それでも実践して、何を失い、何を手に入れたのかといったことまでほりさげ、自分たちのことと結びつけて考えられる教訓を説明できなければ、参考にはなりません。
また、ある大手SI事業者の人材開発からのご依頼で、「最新の製品やサービス」を紹介して欲しいというのがあり、本当にそんなことをしてもいいのかと質問しました。当然、自分たちの事業部門やマーケティングが、何を「推し」にしていて、何を「敵」と捉えているのかを明確にしておかなければ、受講者は混乱をするはずです。そこを無視して、「最新の製品やサービス」の話を盛り込んでいいはずはありません。
研修という手段に何を含めるかは、何のための研修なのかといった目的によって変わります。そこを無視して、手段だけをてんこ盛りに提供しても、事業の成果に貢献することはありません。
もちろん、このような話しを超越して、「世の中のいまの常識、これから起こること、自分たちのビジネスへの影響や何をすべきかを知りたい」というのであれば、これもひとつの目的です。この目的の先には、これからの事業のあり方や自分のキャリアを考える参考になるからです。これが目的なら、弊社が主催する「ITソリューション塾」のような内容が役に立つはずです。
いずれにしても、目的のない手段は、残念な結果にしかなりません。まずは、何のためかを議論することです。例え完璧な結論に至らなくても、議論がなされていれば、まともな講師であれば、この議論を補足し、目的にふさわしい手段を提案できるはずです。
何をしたいのか、何を解決したのかの問いは、人間にしか作れません。これこそが、人間とAIの知性の根源的違いです。こういう内容の研修にして欲しいだけなら、そのうちAIが完璧なコンテンツを作ってくれるようになるでしょう。また、それらを使いこなしていくためにも、問を生み出せる知性が人間は必要です。
少し大袈裟かも知れませんが、研修とは、そんな人間の役割を遺憾なく発揮してこそ、いいものができるように思います。
【募集開始】次期・ITソリューション塾・第44期
次期・ITソリューション塾・第44期(2023年10月4日[水]開講)の募集を始めました。
ChatGPTをはじめとした生成AIの登場により、1年も経たずにで、IT界隈の常識が一気に塗り替えられました。インターネットやスマートフォンの登場により、私たちの日常が大きく変わってしまったことに匹敵する、大きな変化の波が押し寄せています。ブロックチェーンやWeb3、メタバースといったテクノロジーと相まって、いま社会は大きな転換点を迎えています。
ITに関わる仕事をしているならば、このような変化の本質を正しく理解し、自分たちのビジネスに、あるいは、お客様の事業活動に、どのように使っていけばいいのかを語れなくてはなりません。
ITソリューション塾は、そんなITの最新トレンドを体系的に分かりやすくお伝えすることに留まらず、その背景や本質、ビジネスとの関係をわかりやすく解説し、どのように実践につなげればいいのかを考えます。
- SI事業者/ITベンダー企業にお勤めの皆さん
- ユーザー企業でIT活用やデジタル戦略に関わる皆さん
- デジタルを武器に事業の改革や新規開発に取り組もうとされている皆さん
- IT業界以外から、SI事業者/ITベンダー企業に転職された皆さん
- デジタル人材/DX人材の育成に関わられる皆さん
以上のような皆さんには、きっとお役に立つはずです。
詳しくはこちらをご覧下さい。
- 期間:2023年10月4日(水)〜最終回12月13日(水) 全10回+特別補講
- 時間:毎週(水曜日)18:30-20:30 の2時間
- 方法:オンライン(Zoom)
- 費用:90,000円(税込み99,000円)
- 内容:
- デジタルがもたらす社会の変化とDXの本質
- IT利用のあり方を変えるクラウド・コンピューティング
- これからのビジネス基盤となるIoTと5G
- 人間との新たな役割分担を模索するAI
- おさえておきたい注目のテクノロジー
- 変化に俊敏に対処するための開発と運用
- アジャイルの実践とアジャイルワーク
- クラウド/DevOps戦略の実践
- 経営のためのセキュリティの基礎と本質
- 総括・これからのITビジネス戦略
- 特別補講 *講師選任中*
詳しくはこちらをご覧下さい。
書籍案内 【図解】コレ一枚でわかる最新ITトレンド 改装新訂4版
ITのいまの常識がこの1冊で手に入る,ロングセラーの最新版
「クラウドとかAIとかだって説明できないのに,メタバースだとかWeb3.0だとか,もう意味がわからない」
「ITの常識力が必要だ! と言われても,どうやって身につければいいの?」
「DXに取り組めと言われても,これまでだってデジタル化やIT化に取り組んできたのに,何が違うのかわからない」
こんな自分を憂い,何とかしなければと,焦っている方も多いはず。
そんなあなたの不安を解消するために,ITの「時流」と「本質」を1冊にまとめました! 「そもそもデジタル化,DXってどういう意味?」といった基礎の基礎からはじめ,「クラウド」「5G」などもはや知らないでは済まされないトピック,さらには「NFT」「Web3.0」といった最先端の話題までをしっかり解説。また改訂4版では,サイバー攻撃の猛威やリモートワークの拡大に伴い関心が高まる「セキュリティ」について,新たな章を設けわかりやすく解説しています。技術の背景や価値,そのつながりまで,コレ1冊で総づかみ!
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【特典2】本書で扱うには少々専門的な,ITインフラやシステム開発に関わるキーワードについての解説も,PDFでダウンロードできます!
2022年10月3日紙版発売
2022年9月30日電子版発売
斎藤昌義 著
A5判/384ページ
定価2,200円(本体2,000円+税10%)
ISBN 978-4-297-13054-1
目次
- 第1章 コロナ禍が加速した社会の変化とITトレンド
- 第2章 最新のITトレンドを理解するためのデジタルとITの基本
- 第3章 ビジネスに変革を迫るデジタル・トランスフォーメーション
- 第4章 DXを支えるITインフラストラクチャー
- 第5章 コンピューターの使い方の新しい常識となったクラウド・コンピューティング
- 第6章 デジタル前提の社会に適応するためのサイバー・セキュリティ
- 第7章 あらゆるものごとやできごとをデータでつなぐIoTと5G
- 第8章 複雑化する社会を理解し適応するためのAIとデータ・サイエンス
- 第9章 圧倒的なスピードが求められる開発と運用
- 第10章 いま注目しておきたいテクノロジー
神社の杜のワーキング・プレイス 8MATO
8MATOのご紹介は、こちらをご覧下さい。