切なさを感じさせる「DX研修」と言う仕事
DX研修と称して、ローコード開発ツールやクラウド・サービスの使い方、データ活用の方法、IT企業へのシステム発注のスキルを身につけさせようとの取り組みが、多くの企業で行われています。このようなスキルが必要ないとは思いません。ただ、そういう研修を実施しても、現場が自然と「DX=デジタル前提に会社を作り変えること」の実践に動き出すことはありません。
確かに、このような道具の使い方を学ぶことで、その利便性を実感できれば、デジタルを身近に感じ、「DX=これまでとは違う仕事のやり方に変える」ことへの現場の抵抗感も少なくなるでしょう。だからと言って、「DX=変革/いまの当たり前のぶち壊し」が、自然発生的に生まれてくることはありません。
結局のところ、働く人たちの思考や行動の形式、つまり人間を作り変えなければ、効率化はできても、変革はできないと言うことになります。
研修に限って話しではありませんが、どのような施策であっても、誰を対象にして、いかなる目的を達成すのかを決めてから実施するのが基本です。当然、「DX研修」もおなじです。
ならばどう考えればいいかです。例えば、次のように考えてみてはどうでしょうか。
全社員を対象とした研修:
DXの本質やデジタル・テクノロジー全般に関わる知識とビジネスとの関係を学ぶ機会を提供することです。それは、個々のスキルとDXの実践を結びつけてゆく思考回路を作るためです。そんな研修の企画案が以下の通りです。
目的:
- 変革に前向きな社内世論を形成し実践のスピードを加速すること
- 変革への疑念や抵抗を払拭する
- 変革のベクトルを共有する
- 変革リーダーを見出す
狙い:
- DXの本質と事業環境の変化の背景について理解を深めること
- DXを支えるデジタルの基本とその最新動向を知ること
- デジタル・テクノロジーの発展が、自分たちの事業にどのような変化を強いるのかを考え、新たな気付きを得ること
変革リーダーを対象とした研修:
変革を自ら実践する、あるいは、事業の現場の伴走者として、変革を支援できる人材です。ITについて詳しいから、プログラムが書けるから、事業や企業文化の変革を自ら実践、主導できるかといえば、それは難しいでしょう。彼らには、期待するのは、次のような人物像です。
デジタルを前提にビジネスを発想、企画でき、実現に向けてみずから実践するとともに、それに取り組もうという人たちに助言でき、伴走できる人。
そんな人材を育成するための研修の企画案が以下の通りです。
目的:
- 変革をリードできる人材を育て変革の実効性を高めること
- 全社的な変革を先導する
- 各事業部門の取り組みを伴走する
- 次の経営幹部を見出す
狙い:
- デジタル技術の全体像について、体系的かつ網羅的に把握し、デジタル技術に関わるキーワードが、抵抗感なく正しく使えるようになること。
- デジタル技術と自分たちの仕事の関係、あるいは、自分たちの仕事にデジタル技術をどのように活かせばいいのかを、自分たちで考え、議論できるようになること。
- 人にも指導できるレベルで、改革実践のノウハウを持つこと。
- 研修の過程で学んだ知識や実践スキルを使って、自分の事業プランを策定できるようになること。
本来、「DX人材」とは、このような変革リーダーであり、以下のことができる人材です。
- 経営や事業の現状を俯瞰、整理して、課題と原因を定義できる。
- 経営者や事業部門が示した事業課題を考察し、課題の精緻化や明確化を支援できる。
- デジタル技術やデジダル・ビジネス・モデルについての広範な知見を有している。
- デジタルについての知見を生かして、事業課題を解決する戦略を描ける。
- 描いた戦略の実践を主導、または事業責任者の伴走者として支援できる。
冒頭に述べた「道具の使い方研修」は、全社員対象に、算盤が電卓に、さらに便利なEXCELに置き換わったように、ローコード開発ツールやAIツールを使いこなせるようになることを目的とするものです。つまり、デジタル・リテラシー(仕事をこなすための基本的な活用能力)を身につけるための研修ということになります。これを「DX研修」と銘打つことは自由ですが、「DX人材=変革リーダー」を育てる研修ではありません。この辺りを曖昧なままに、あるいは、対象と目的を明確に分けずに研修をデザインしても、DXの実践には結びつきません。
誰を対象に、何のための研修を実施するのか。あるいは、誰に受講してもらって、研修をうけた後は、その受講者には、どのような行動をして欲しいのか。これをまずは十分に議論し、何をするかを決めなければ、「やったという実績を作るための研修」に留まってしまいます。まあ、それも仕事だと割り切ることもできるでしょうが、何だか切ないですね。
【募集開始】次期・ITソリューション塾・第44期
次期・ITソリューション塾・第44期(2023年10月4日[水]開講)の募集を始めました。
ChatGPTをはじめとした生成AIの登場により、1年も経たずにで、IT界隈の常識が一気に塗り替えられました。インターネットやスマートフォンの登場により、私たちの日常が大きく変わってしまったことに匹敵する、大きな変化の波が押し寄せています。ブロックチェーンやWeb3、メタバースといったテクノロジーと相まって、いま社会は大きな転換点を迎えています。
ITに関わる仕事をしているならば、このような変化の本質を正しく理解し、自分たちのビジネスに、あるいは、お客様の事業活動に、どのように使っていけばいいのかを語れなくてはなりません。
ITソリューション塾は、そんなITの最新トレンドを体系的に分かりやすくお伝えすることに留まらず、その背景や本質、ビジネスとの関係をわかりやすく解説し、どのように実践につなげればいいのかを考えます。
- SI事業者/ITベンダー企業にお勤めの皆さん
- ユーザー企業でIT活用やデジタル戦略に関わる皆さん
- デジタルを武器に事業の改革や新規開発に取り組もうとされている皆さん
- IT業界以外から、SI事業者/ITベンダー企業に転職された皆さん
- デジタル人材/DX人材の育成に関わられる皆さん
以上のような皆さんには、きっとお役に立つはずです。
詳しくはこちらをご覧下さい。
- 期間:2023年10月4日(水)〜最終回12月13日(水) 全10回+特別補講
- 時間:毎週(水曜日)18:30-20:30 の2時間
- 方法:オンライン(Zoom)
- 費用:90,000円(税込み99,000円)
- 内容:
- デジタルがもたらす社会の変化とDXの本質
- IT利用のあり方を変えるクラウド・コンピューティング
- これからのビジネス基盤となるIoTと5G
- 人間との新たな役割分担を模索するAI
- おさえておきたい注目のテクノロジー
- 変化に俊敏に対処するための開発と運用
- アジャイルの実践とアジャイルワーク
- クラウド/DevOps戦略の実践
- 経営のためのセキュリティの基礎と本質
- 総括・これからのITビジネス戦略
- 特別補講 *講師選任中*
詳しくはこちらをご覧下さい。
書籍案内 【図解】コレ一枚でわかる最新ITトレンド 改装新訂4版
ITのいまの常識がこの1冊で手に入る,ロングセラーの最新版
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「ITの常識力が必要だ! と言われても,どうやって身につければいいの?」
「DXに取り組めと言われても,これまでだってデジタル化やIT化に取り組んできたのに,何が違うのかわからない」
こんな自分を憂い,何とかしなければと,焦っている方も多いはず。
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【特典2】本書で扱うには少々専門的な,ITインフラやシステム開発に関わるキーワードについての解説も,PDFでダウンロードできます!
2022年10月3日紙版発売
2022年9月30日電子版発売
斎藤昌義 著
A5判/384ページ
定価2,200円(本体2,000円+税10%)
ISBN 978-4-297-13054-1
目次
- 第1章 コロナ禍が加速した社会の変化とITトレンド
- 第2章 最新のITトレンドを理解するためのデジタルとITの基本
- 第3章 ビジネスに変革を迫るデジタル・トランスフォーメーション
- 第4章 DXを支えるITインフラストラクチャー
- 第5章 コンピューターの使い方の新しい常識となったクラウド・コンピューティング
- 第6章 デジタル前提の社会に適応するためのサイバー・セキュリティ
- 第7章 あらゆるものごとやできごとをデータでつなぐIoTと5G
- 第8章 複雑化する社会を理解し適応するためのAIとデータ・サイエンス
- 第9章 圧倒的なスピードが求められる開発と運用
- 第10章 いま注目しておきたいテクノロジー
神社の杜のワーキング・プレイス 8MATO
8MATOのご紹介は、こちらをご覧下さい。