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「理解できないから質問できない」は本当か?

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「質問をしない人たち」について、2回にわたって投稿しているが、多くのご意見を頂いている。それだけ、関心の高い話題なのだろう。

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では、どうすれば「質問が出る」ようになるのだろうか。これについても、次のようなご提案を頂いている。

  • 質問をする練習をする研修を実施する。
  • 最後にまとめて質問の時間を持つのではなく、研修や講演の途中で、その話題ごとに質問を求める。
  • オンラインで匿名でのコメントを求める。ZoomのコメントやSlidoなどを使う。
  • 講師がまくしたてる(よく言えば流暢)な話しをせずに、隙が多いとか、双方向な雰囲気の話し方をする。
  • さくらを仕込んでおいて、きっかけを作る。

「質問をする研修」と「さくら」については、まだやったことがない。これは、いいかもしれない。また、「講師がまくしたてる(よく言えば流暢)」は、耳が痛い。大いに反省の余地がある。

さて、私も何も工夫をしていないわけではない。結果として、他の講師の研修に比べれば、質問が多い方だと言われるし、新人研修などでは、「こんなに質問の多い研修ははじめてだ」と研修担当者に言われることもある。どんなことをしているのかについて、いくつか紹介しよう。

事前課題をやってもらう

講義の内容に関連して、受講者に事前課題をやってもらうようにしている。例えば、新入社員研修では、次のような設問だ。

皆さんは、これまで、「IT消費者」つまり、企業が提供するITを使う立場にいました。しかし、これからは、「IT生産者」つまりITサービスを提供する、あるいは、これを支援する立場になります。「IT生産者」は、何ができなければならないのでしょうか。そのために必要なスキルも合わせて、説明して下さい。

回答を「羅列や箇条書きではなく文章にする」ことを求めている。これは、検索とコピペでは答えられない。いろいろ調べ、自分で論理を組み立てなくては答えられない。このような設問をいくつか用意し、講義にその回答を持参してもらう。そして、講義の冒頭に34人ほどのグループで紹介し合い、意見交換してもらう。

さらに、その議論の中で、今日の講義で何を聴きたいのか、知りたいのかを話し合ってもらうようにしている。

Slidoに書き込む

議論して、気がついたことや知りたいことなどを、Slidoに書き込んでもらう。匿名でも構わない。もちろん、議論に出てこなかったことでも、聞きたいことがあれば、どんどんと書き込んでもらう。

書き込んでくれたことについては、必ず感謝を伝え、「いい質問だ」と言うようにしている。ただ、「いい質問じゃない」場合もあるので、こちらで質問の意図を再解釈し、「このような質問として捉えていいだろうか」と確認するようにしている。

また、書き込んでもらった質問について、可能な限り丁寧に、そして、くどいくらいに回答するように心がけている。質問を大切にしていること、誠実に答えてくれることを感じてもらえるようにしている。

質問することの意味を問う

ここ数日のブログで書いているような「質問の大切さ」を語るようにしている。くどいというか、しつこいというか、そんな感覚をいだく人もいるとは思うが、「質問は成長の加速度を高める」と力説するようにしている。

質問を考えるディスカッション

講義の最中に「質問を考えるディスカッション」を挟むことがある。10分ほどの時間で、34人ほどで議論をしてもらう。面白いのは、ディスカッショングループの中でなら、どんどんと質問が出てくることだ。そして、理解できている別の人が、その質問に答えている。気心知れた身内同士なら、こうやって質問が簡単にできるわけだ。こっそり聞いていると実に稚拙な質問でも、恥ずかしいと感じていない。そして、答える側は、答えられる自分を気持ちよく感じているようだ。

そんな時間を作って、それでも分からないこと、知りたいことに気付いてもらうようにしている。そして、いろいろと聞きたいことについての意見が出てくる。

しかし、ディスカッションの後で、「では、質問してください」というと質問が出てこないことが多い。これはかなり不思議なのだが、やはり、身内と講師では、信頼感が違うのだろう。外の人間から、低く評価され、自分の同期や身内にそのことが分かってしまうことが心配なのかもしれない。ただ、誰かが勇気を出して質問をすると、それにつられて質問する人も出てくる。

これについてどうですかと質問する

講義の途中で、「これ、どう思いますか?」、「これについては、どう考えますか?」といった問いかけをするように心がけている。必ずしも質問を求めているわけではない。疑問を持ち、自分の考えや思いを巡らしてもらうためだ。このようなことを繰り返すことで、質問したいというモチベーションが生まれてくるかも知れないと思っている。

まあ、ザッとこんなことをしているのだが、それでも質問する人は限られる。それはなぜなのだろうか。

日本語が理解できない?

日本人の3分の1は日本語が読めない!?」ことは、以前より指摘されている。流石に、大学を出て、しかも入社試験にも合格するくらいなので、「3分の1」はないにしても、一定数いるのではないかと感じでいる。質問の意図や質問の意味が理解できないのかも知れない。

特に、前提となる知識がなく、言葉だけでイメージを持たせなくてはならない場合、質問以前の問題が大きいように思う。

私は、新しいこと、広く世間で認知されていないような話題について、心がけて、チャートや動画、たとえ話を駆使し、それに言葉でかぶせるように説明して、言葉に具体性を持たせるようにしている。

もちろん限界はあるのだが、少しでも表面的な「言葉」だけではない説明を心がけているが、これもやはり限界があるようだ。

自分事という意識がない

仕事は生活のため、できるだけ早く仕事を終わらせて、自分ための自由な時間を手に入れたい。

そんな人も多いように思う。それが悪いわけではない。これも1つの価値観だと思う。ただ、このような考えが前提にあると、与えられた仕事をこなす以上のことに関心が持てず、講義や講演の内容を教養番組程度にしか捉えられず、深く理解しようという気にはならないだろう。

起きている時間の半分以上は、職場にいるのだから、仕事を自分の人生の糧とし、成長の機会としようという考え方ができればいいのだが、なかなかそうはならない。新入社員の場合は、「仕事ができない自分」が自覚できているので、何とかしなければと言う焦りもあり、あまりこのことは問題にならないのだが、ある程度のキャリアを積み、それなりの年齢になった人の中には、もう、自分の人生を達観し、悟っているかのごとく新しいことに興味を持たなくなってしまう人もいる。

ITの世界では、システムの老朽化や技術的負債という話題が、よく取り上げられる。そんなITに関わる仕事をしていて、世の中がどんどんと新しいテクノロジーやメソドロジーに入れ替わっているのに、それに追従しようとしない。

「新しいことに追いつけなくて」と新しいことへの興味を放棄し、自分を見限っている人もいる。人間の老朽化や人間的負債とでも言うべき事態であろう。

このようになってしまうと、質問など期待すべくもない。まあ、どれほど質問の大切さを伝えても、それを実践しようというモチベーションは生まれないだろう。それもまた生き方であり価値観なので、その善し悪しを論ずるわけではない。ただ、そういう人たちを相手にした講義や講演は、講師の側もかなり辛い。そんなことは、演壇に立てば、直ぐに分かる。そういうときは、そうでない人も一定数いるので、その人達に向けて話すようにしている。

理解できないから質問できない、ではなく、質問しようとしないから理解できない

「理解できないから質問できない」という意見も多い。しかし、これは逆じゃないかと思っている。「質問しようと思って話しを聞き、質問しなくてもおおよそは理解できるが、それでも分からないので質問する」というのが、健全な講義や講演との向き合い方ではないかと思っている。

結果として、質問しなくても、質問しようと質問を考え続けることで、ものごとがつながり、理解が深まることになる。極めて効果的な講義や講演の使い方だ。

この思考の逆転こそが、講義や講演の自分的価値を高める最善の方法であるように感じている。

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2022年9月30日電子版発売
斎藤昌義 著
A5判/384ページ
定価2,200円(本体2,000円+税10%)
ISBN 978-4-297-13054-1

目次

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  • 第2章 最新のITトレンドを理解するためのデジタルとITの基本
  • 第3章 ビジネスに変革を迫るデジタル・トランスフォーメーション
  • 第4章 DXを支えるITインフラストラクチャー
  • 第5章 コンピューターの使い方の新しい常識となったクラウド・コンピューティング
  • 第6章 デジタル前提の社会に適応するためのサイバー・セキュリティ
  • 第7章 あらゆるものごとやできごとをデータでつなぐIoTと5G
  • 第8章 複雑化する社会を理解し適応するためのAIとデータ・サイエンス
  • 第9章 圧倒的なスピードが求められる開発と運用
  • 第10章 いま注目しておきたいテクノロジー

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八ヶ岳南麓・山梨県北杜市大泉町、標高1000mの広葉樹の森の中にコワーキングプレイスがオープンしました。WiFiや電源、文房具類など、働くための機材や備品、お茶やコーヒー、お茶菓子などを用意してお待ちしています。

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