生成AIだけでシステム開発の生産性は向上しない理由
先日、プログラマーであり、システム開発のコンサルをしている友人とChatGPTなどの生成AIについて、大いに盛り上がりました。そんな彼の話を要約すれば、次のようになります。
- 何をどのように作るかを上流でしっかりと絞り込めば、開発すべきコードは減る。従って、システム開発全般のプロセスでの生産性を考えれば、生成AIの貢献は部分的。
- システム開発の生産性の問題は、システム開発全般に関わるエンジニアリングできる人材が少ないこと。生成AIを使わなくても、これができる人さえいれば、開発の生産性は大幅に向上する。
- 確かに、生成AIを使うことで、コードの記述やドキュメンテーションの生産性は向上する。特に、生成AIで生産性が上がるところは、「ベテランや専門家に相談すれば、直ぐに正しい答えを教えてもらえるように、生成AIは良き先輩、ベテランの相談相手となってくれること」と「実際の開発では、使える機能の一部しか使っていないが、生成AIは全ての機能や様々なデザイン・パターンを知っているので、その中から一番良いものを教えてもらえること」ではないか。
なるほどなぁと思いました。特に、「実際の開発では、一部の機能しか使っていない」というのはよく分かります。例えば、Excelを使うにしても便利な関数があるのに、知っている知識で何とかしている自分を考えれば、とても納得感がありました。
Microsoft Office365 Copilotが登場しましたが、これもまた何でも知っている先輩みたいなもので、オフィース業務での生産性向上に、大いに期待できそうです。
ただ、改めて、この議論をふり返れば、システム開発全般にわたるエンジニアリングの知見やノウハウの大切さです。ここに十分の人材がいれば、生成AIを使うまでもなく、生産性は上げられるということです。つまり、ツールの問題以前に、人間の能力が重要だと言うことです。
もちろん、ひとつひとつの作業工程/タスクの生産性は、生成AIによって上がるのですが、その前提となるシステム・エンジニアリングのスキルがなければ、「無駄な作業の生産性をあげること」になるわけで、その価値を十分に引き出せません。結局のところ、昔から言われていたことなのですが、エンジニアとしての基本的なスキルを磨く努力が、生成AIを使いこなすにも重要だと言うことになります。
「AIは人間の仕事を奪う」という議論は、未だ尽きませんが、これをもう少し、厳密に表現すれば、「AIはAIにもできる人間の仕事を奪う」と言うことになるのでしょう。一方で、昔から言われていた数学やコンピューター・サイエンス、業務や経営などの広範な知見、対話や読解などの言語力を求められる「人間にしかできない」仕事へのシフトを人間に求めているとも言えます。
人間にしかできない仕事ができる人は、生成AIでさらに生産性を高め、これができない人に仕事を頼まなくても、自分でできてしまうので、そういう人の仕事を奪う、ということになるのでしょう。
つまり、人間にしかできない仕事のための能力を磨けば、AIに仕事を奪われることはないという、まあ、ごくごく当たり前の結論に落ち着くことになるわけです。
しかし、少し斜めから考えれば、これができる人が少ない、つまり「AIにもできる仕事」の需要がまだまだあり、そこでの仕事が忙しいので、「人間にしかできない仕事」の能力を磨こうというモチベーションが生まれてこないのということなのかもしれません。
これを個人の問題と捉えるべきではありません。現実の問題として、SIやSESの営業利益率が低い企業も多く、生成AIなどのツールを駆使して生産性を上げれば稼働率が下がり利益がでない、あるいは、新しいスキルを身につけさせるために時間を割けば、稼働率が下がり、やはり利益が出ない。だから、このような「生産性を高める」ことに、積極的になれないということもあるのでしょう。
こういう悪循環を裁ち切るのは、なかなか大変なことだと思います。ただ、この状況を放置していると、「優秀な人材=仕事とは別に自助努力で勉強する人」が、出て行ってしまいます。いま、ユーザー企業は、システム内製化に拍車を掛けていますから、そういうところ人材需要は旺盛で、行き場所には困りません。
こう考えると、生成AIの登場は、IT業界における構造変革を促すいい機会なのかも知れません。
【参考】システム開発と運用で生成AIにできること・人間にしかできないこと
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A5判/384ページ
定価2,200円(本体2,000円+税10%)
ISBN 978-4-297-13054-1
目次
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- 第8章 複雑化する社会を理解し適応するためのAIとデータ・サイエンス
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神社の杜のワーキング・プレイス 8MATO
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