YouTubeチャンネル譲渡の前に知っておくべき常識と交渉のセオリー
YouTubeチャンネルをゼロから育てるには時間がかかる。すでに登録者や動画、収益実績のあるチャンネルを購入できれば、その時間を短縮できる。一方で、登録者数や月間収益だけを見て買うと、「運営を引き継げない」「収益が急減した」「収益化が停止された」といった失敗につながる。
日本のYouTubeチャンネル売買は、売り手も買い手も経験の浅いケースが多い。だからこそ、購入前の確認と契約条件の詰め方が重要になる。
買うのはGoogleアカウントではない
最初に理解しておきたいのは、メールアドレスとパスワードを受け取ることが、正しいチャンネル譲渡ではないという点だ。
譲渡には、Googleが提供するブランドアカウントの所有者変更機能を使う。買い手を「オーナー」に追加し、所定の待機期間を経て「メインのオーナー」に変更する。Googleの案内では、メインのオーナーに変更するには、オーナーになってから7日以上経過している必要がある。パスワードを共有せず、買い手自身のGoogleアカウントへ権限を移すのが基本である。YouTube公式ヘルプ
したがって、代金の全額支払いと売り手への送金は、メインオーナー権限の移行を確認した後に行うのが安全だ。第三者が代金を一時的に預かるエスクローを利用すれば、「払ったのにチャンネルが渡らない」というリスクも抑えられる。
なお、チャンネルの登録者、公開済み動画、再生履歴などは引き継げるが、広告収益を受け取るAdSenseは買い手側で再設定が必要になる。チャンネルの取得と、収益の受取口座の取得は別の手続きと考えるべきだ。
登録者数より「利益の再現性」を見る
チャンネルの価値は、登録者数だけでは判断できない。100万人の登録者がいても、現在の動画がほとんど再生されていなければ収益力は低い。反対に、登録者が少なくても、検索から長期間視聴される動画を持つチャンネルには価値がある。
買い手が最低限確認したいのは、直近12カ月程度の月別売上、再生回数、登録者の増減、視聴時間、流入経路、上位動画への依存度、視聴者の国・年齢層である。スクリーンショットだけでなく、YouTube Studioの画面共有や公式APIから取得したデータで確認したい。
特に注意したいのは、一つのヒット動画で売上の大半を稼いでいるケースだ。その動画の人気が終われば、チャンネル全体の収益も落ちる。季節要因、広告単価の変動、ショート動画への偏り、外部サイトからの一時的な流入も調べる必要がある。
見るべき数字は売上ではなく利益である。台本、ナレーション、編集、サムネイル、素材、ツールなどの費用に加え、買い手自身の作業時間も運営コストに含める。売り手が自分で行っていた作業を外注すれば、利益がほとんど残らないこともある。
「自分が継続運営できるか」が最大の審査項目
購入後の失敗で多いのは、売り手の出演、声、知識、人脈に依存していたチャンネルを買ってしまうことだ。出演者が交代した途端に再生回数が落ちるなら、買ったのは事業ではなく、その人の人気だったことになる。
購入前に、企画の作り方、台本の作成手順、撮影・編集工程、投稿頻度、必要な専門知識を確認する。外注スタッフがいる場合も、譲渡後に継続してくれるとは限らない。報酬や業務範囲を確認し、本人の同意を得る必要がある。
売り手には、実際の制作工程を一度見せてもらうとよい。買い手側でも試作動画を一本作り、同じ品質とコストで運営できるかを確かめる。この試運転ができない案件は、慎重に評価した方がよい。
「収益化済み」を安全保証と考えない
過去に収益化されていても、将来の収益化が保証されるわけではない。著作権侵害、コミュニティガイドライン違反、登録者や再生数の不正購入、再利用コンテンツなどの問題があれば、収益停止やチャンネル停止の可能性がある。
YouTubeは、他者のコンテンツに十分な解説や独自の価値を加えていない「再利用されたコンテンツ」や、反復的・大量生産的なコンテンツを収益化の対象外とする場合がある。権利者の許可があっても、収益化ポリシー上は問題になることがある点に注意が必要だ。YouTubeチャンネル収益化ポリシー
交渉時には、警告・収益停止・著作権申し立ての履歴、使用素材のライセンス、動画や台本の権利者を確認する。説明が曖昧な場合は、「問題なし」という口頭説明だけで判断してはいけない。
値下げより先に条件を交渉する
価格交渉では、いきなり「いくら下がるか」を尋ねるのではなく、価格の根拠を分解する。過去の最高月収ではなく、継続が見込める平均利益を基準にし、売上減少や追加外注費を織り込んだ保守的な回収計画を作る。
交渉すべきなのは価格だけではない。譲渡対象となる動画、台本、サムネイル、編集データ、素材、ドメイン、SNS、外注先情報を一覧にする。さらに、売り手のサポート期間、競合チャンネルを始めない義務、申告内容が虚偽だった場合の補償、重大な違反が判明した場合の解除・返金条件を契約書に記載する。
優良案件とは、数字が大きい案件ではない。買い手がデータを検証でき、制作方法を再現でき、問題発生時の責任範囲まで合意できる案件である。YouTubeチャンネルの購入は「登録者を買う行為」ではなく、運営可能な小規模事業を引き継ぐM&Aだと考えるべきだ。
参考:はじめてのYouTubeチャンネル購入Q&A|買う前に知っておきたい25の疑問
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