前回の記事で紹介したシュンペーターは、「イノベーションは創造的破壊をもたらす」とも語り、その典型として、産業革命期の「鉄道」を例に、次のようなことを語っています。
「馬車を何台つなげても汽車にはならない」
つまり、「鉄道」がもたらしたイノベーションとは、馬車の馬力をより強力な蒸気機関に置き換え多数の貨車や客車をつなぐという「新結合」がもたらしたものだというのです。これによって、古い駅馬車による交通網は破壊され新しい鉄道網に置き換わってゆきました。
使われた技術要素のひとつひとつは新しいものではありませんでした。例えば、貨車や客車は馬車から受け継がれたもので、蒸気機関も鉄道が生まれる40年前には発明されていました。つまり、イノベーションとは発明することではなく、これまでになかった新しい「新結合」であるというのです。
しかし、全ての「新結合」が、新しい価値を生みだすわけではありません。試行錯誤を高速に繰り返し現場のフィトーバックを得て、直ちに改善を繰り返すことで、イノベーションに巡り会えるのです。
デジタル化による「レイヤー構造化と抽象化」は、そんな組合せやその変更を容易にします。つまりイノベーションを加速することに役立つのです。
これは、ソフトウエアとして実装されるネットのサービスだけではありません。モノづくりにおいても、デジタルはイノベーションを加速します。
製造業における製品開発の手法に、「モデルベース開発:Model-Based Design/MBD」があります。これは、これから作るモノを数値モデル化し、実際にモノを作る前にコンピューター上で実現し、そこで試行錯誤を繰り返して、最適なモノの形状や機能を見つけようというものです。
例えば、自動車の開発であれば、コンピューター上でエンジンを動かすことも、ハンドルを切ることもできます。機構の干渉や性能試験もできます。
実際にモノを作りませんから、コストは安く手間も時間もかかりません。その結果、高速に試行錯誤を繰り返すことができるようになります。そして、これでうまくいきそうだとなれば、試作車を実際に作って検証します。
このサイクルを回すことで、機能や品質を高め、設計開発のスピードを加速し、コストを削減できます。また、イノベーションを加速することにも役立ちます。
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2022年10月3日紙版発売
2022年9月30日電子版発売
斎藤昌義 著
A5判/384ページ
定価2,200円(本体2,000円+税10%)
ISBN 978-4-297-13054-1
目次
- 第1章 コロナ禍が加速した社会の変化とITトレンド
- 第2章 最新のITトレンドを理解するためのデジタルとITの基本
- 第3章 ビジネスに変革を迫るデジタル・トランスフォーメーション
- 第4章 DXを支えるITインフラストラクチャー
- 第5章 コンピューターの使い方の新しい常識となったクラウド・コンピューティング
- 第6章 デジタル前提の社会に適応するためのサイバー・セキュリティ
- 第7章 あらゆるものごとやできごとをデータでつなぐIoTと5G
- 第8章 複雑化する社会を理解し適応するためのAIとデータ・サイエンス
- 第9章 圧倒的なスピードが求められる開発と運用
- 第10章 いま注目しておきたいテクノロジー