AIとSI
「ゴールドマンサックス証券は年収数千万円のトレーダー600名のうち、2名を除く全員をお払い箱にして、人工知能と200名のコンピューター技術者に置き換えた。他の証券会社も証券トレードをAIに置き換える方向である。AIによる証券取引は今後どんどん増加する。」
このような記事を目にすると「AI vs人間」といった対立軸を思い浮かべてしまう。しかし、600名のトレーダーを200名のAIエンジニアに置き換える決定をしたのは人間であって、AI自身がその判断を下したわけではない。また、600名のトレーダーの代わりに200名のAIエンジニアを採用しているのだから、新たな雇用を生みだしていることになる。600名から400名も減っているのは、AIでこれまで以上の成果を出せるからであり、生産性の向上を使命とする企業にとっては合理的な判断と言える。これは、工場業務や事務作業の自動化と本質的に同じことだ。
「東京大学医科学研究所が導入した2000万件もの医学論文を学習した人工知能が、専門の医師でも診断が難しい特殊な白血病を僅か10分ほどで見抜き、治療法を変えるよう提案した結果、60代の女性患者の命が救われたことが分かりました。」
ならば、がんの専門医はいらなくなるのか。医師は治療に際して様々な論文や治療の事例を探し患者の検査データと照らし合わせて、ふさわしい治療法を探ってゆく。それに何日もかかることがあるそうだが、その作業を10分で終えることができれば、数少ない専門医はより多くの患者に向きあうことができるし、新しい治療法の検討や患者のQOL(Quality of Life)への取り組みに時間を割くことができる。見方を変えれば、AIは医師の能力を拡張する手助けをしてくれている。
トレーディングでもがん治療でも、AIをどのように使うかを考え、決定するのは人間であり、AIにはできない。なぜなら、AIには「意志」が無いからだ。
例えば、トレーディングでは企業価値を高めたいという意志があり、がん治療では患者の命を救いたいという意志がある。そのために、効率よく利益を得られるような仕組みを作りたい、あるいは、短時間で的確にがんの診断をおこないたいという「あるべき姿」を描くことができる。そんな「意志」を持ち、「あるべき姿」を描く能力はAIにはない。
GoogleのAlpha Goが囲碁の世界チャンピオンであるイ・セドルに勝利を収めた。Alpha Goは自らの「意志」で囲碁にチャレンジしたわけではない。また、勝利の経験を活かして他の分野でも活躍したいと考えることもない。それを考えるのは、人間であるGoogleのエンジニアたちだ。
人工知能が様々な分野で目を見張るような成果をあげてはいるが、それは「スコップで穴を掘る」と「パワーショベルで穴を掘る」の違いと本質的には変わらない。スコップではパワーショベルには太刀打ちできないが、だからといって人間の存在価値が貶められることはない。お客様の喜ぶ姿を見たいという意志、それを実現するための建設物である「あるべき姿」を思い描き、その実現を目指して何処で、どれだけの穴を掘るかは人間が決めることであり、パワーショベルが自分の意志で決めることはない。
スコップよりもパワーショベルのほうが、より短時間に、あるいは低コストに穴掘りができるので、スコップだけではできない規模や形状の建設物を実現できる。人間は、そんなパワーショベルの価値を正しく理解しているからこそ、それを前提とした建設物の「あるべき姿」を描くことができる。
このように考えてゆくと、人間は自らが意志を持ち、その意志に基づいて「あるべき姿」を描き、その実現に向けて手段を選択する。
意志を持ち、「あるべき姿」を描くことは人間にしかできないとすると、「AI vs人間」といった対立軸はAIについての正しい見方ではないことがわかる。むしろ、AIというパワーショベルを手に入れた人間は、それを活かすための機会を自らの意志で創り出し、AIがなければできないことを実現しようと「あるべき姿」を描くのだ。
これは、AIに限ったことではない。道具を手にした人間が、道具を自ら進化させ、それによって人間と道具の役割分担を変えながら、自らを進化させてきた歴史は、昔も今もこれからも変わることはない。
これをSIビジネスに置き換えて考えてみてはどうか。例えば、お客様の意志は、「ビジネスの成果に貢献するシステムを短期間に低コストで実現したい」だ。それを実現する情報システムの「あるべき姿」を実現したいと考えるのは当然だ。そして、それを実現する手段として、クラウドや自動化ツール、アジャイル開発やDevOpsが新たに登場し普及しつつあるとすれば、それを駆使して「あるべき姿」を実現したいと考えるのは当然のことだろう。ならば、そんなお客様の意志を実現できる「あるべき姿」を自ら描き、その実現に向けて取り組むことこそSIerの役割であり、存在意義といえる。
物品の販売や構築はクラウドへ、開発や運用は自動化ツールやAIへ置き換わってゆく。ならば、そんな「あるべき姿」を実現するための取り組みに自らの役割をシフトし、お客様の意志に寄り添うことがSIerとして役割となる。
「意志」を持ち「あるべき姿」を描くためには、その背景にある「全体」を体系的に知っておかなくてはならない。例えば、AIやIoTでいままでできなかった何ができるようになるのか、クラウドや自動化はいまどの段階に達しているのかを、システムの構築や運用の現実と結びつけて理解しておかなければならない。なぜいまサーバーレスであり、コンテナやマイクロサービスが注目されているかも同じ文脈で捉えておく必要があるだろう。そのようなことに興味を持ち知りたいと思う原動力が「好奇心」だ。
「好奇心」がなければ、どうしたいかの「意志」を持つことはできない。当然、理想の未来である「あるべき姿」を描くことはできない。それ以前に、そのための情報が、自分の「知覚」のフィルターに引っかかることはないので、情報も入ってこない。そうなれば、お客様への魅力的な提案も、生き残りを賭けた新規事業開発も、成果に結びつけることなどできるわけがない。
例えば、AIはまだまだうちには「関係ない」と考えている企業があるとする。しかし、それはAIと自分たちのビジネスを関連付けて考えることができない、つまり「関係が見えない」からだ。当然、AIに関わる情報はすり抜けてゆき、蓄積されることもないし、そこにチャンスを見出す機会さえ奪われる。
インターネットやデータベースが分からないでシステムの開発や構築ができないと同じように、AIが分からなければ仕事にならない時代を迎えようとしている。しかし、AIを知らなければ、そのような情報はすり抜けてしまうので、「AIはうちには関係はない」となってしまう。
過去の常識をそのままに、世の中の常識がどうなっているのか、どうなろうとしているのかを知らなければ、いま必要とされる「意志」が生じることもなく、「あるべき姿」も描けない。そこにビジネスの未来を描くこともできない。
「AI vs 人間」や「SI vs クラウド×自動化×AI」などという対立軸は、これまでの仕事のやり方を変えたくないという防御本能から生みだされる妄想だ。歴史は今も昔も変化し続けており、これは未来永劫変わることはない。そんな現実に立ち返れば、時代のトレンドを広く体系的に捉え、自分たちの文脈で解釈してみることが、いつの時代にも大切なことなのだ。
最新のトレンドに寄り添い、自らの役割を変えてゆくことこそ、世のため人のためであり、自分たちのためでもあるという真理に目を背けるべきではない。そのためにこそ、人間の本分である「意志」と「好奇心」を発揮しなくてはならない。
ITビジネス・プレゼンテーション・ライブラリー/LiBRA
LiBRA 9月度版リリース====================
RPAのプレゼンテーションを作りました。(ITソリューション塾の最後にむに掲載)
他にもいくつかのプレゼンテーション・パッケージを新規追加・更新致しました。
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プレゼンテーション・パッケージ
【新規】RPAについてのプレゼンテーション(25ページ)
【更新】新入社員のための最新ITトレンドとこれからのビジネス(187ページ)
【更新】ビジネスリーダーのためのデジタル戦略塾・最新のITトレンド(203ページ)
【更新】フィン・テックとブロックチェーン (40ページ) *テクノロジー・トピックスより分離
ビジネス戦略編
【更新】デジタル・トランスフォーメーションの実際 p.16
【新規】デジタル・ディスラプターの創出する新しい価値 p.17
【更新】もし、変わることができなければ p.18
*人材開発・育成編をビジネス戦略編より分離し、新しくパッケージし直しました。
ITの歴史と最新のトレンド編
【新規】人類の進化と知識 p.12
【新規】自然科学発展の歴史 p.13
サービス&アプリケーション・先進技術編/IoT
【新規】インターネットに接続されるデバイス数の推移 p.10
【新規】新規事業の選択肢とモノのサービス化 p.44
【新規】IoTのビジネス戦略 p.47
【更新】LPWAネットワークの位置付け p.72
サービス&アプリケーション・先進技術編/AI
【新規】AI導入/データの戦略的活用における3つの課題
開発と運用編
【更新】DevOpsとコンテナ管理ソフトウエア p.57
【新規】開発と運用の方向性 p.58
テクノロジー・トピックス編
*変更はありません。ただし、FinTechとブロックチェーについては、別資料としてまとめました。
ITインフラとプラットフォーム編
【更新】仮想化の役割 p.70
【新規】仮想化の役割/解説 p.71
サービス&アプリケーション・基本編
*変更はありません
クラウド・コンピューティング編
*変更はありません