情報サービス産業の構造変化と求められるスキルの転換
ガートナーは、情報システムを、その特性応じて「モード1」と「モード2」に分類している。
- モード1:変化が少なく、確実性、安定性を重視する領域のシステム
- モード2:開発・改善のスピードや「使いやすさ」などを重視するシステ
モード1は、効率化によるコスト削減を目指す場合が多く、人事や会計、生産管理などの基幹系業務が中心、一方、モード2は、差別化による競争力強化と収益の拡大を目指す場合が多く、ITと一体化したデジタル・ビジネスや顧客とのコミュニケーションが必要なサービスが中心だ。
この両者は併存し連携するから、どちらか一方だけに対応できればいいとはならない。しかし、モード1からモード2へのシフトは確実にすすんでいく。だから、モード1に関わるビジネスで収益を上げられるうちに、モード2への取り組みを進め、人材の再配置やスキルの転換を推し進めてゆく必要がある。
その際に注意すべきは、従来からのウオーターフォール型のモード1のやり方がモード2では通用しないこと。不確実性の高まるビジネス環境において、事前に要件を完全に固めることはできず、現場のニーズに臨機応変に対応し、俊敏・迅速に開発や変更の要求に応えなくてはならない。そのためにはアジャイル開発やDevOpsを取り入れるしかない。
変化を許容するモード2は、ITとビジネスの一体化がすすんでいるから、ビジネスの現場とシステムの開発は緊密になる。ゆえに、ITの立場からビジネスへの提案が求められる。つまり、ビジネスの成功にどう貢献すればいいのかをITの立場で考え、そのゴールを業務の現場と共有して開発や保守、運用をすすめなくてはならない。
「仕様書通りのシステムを納期と品質を守り開発する」ことではない。「現場のビジネスを成功させることにコミットし貢献する」ことなのだ。
こんなモード2に対応できる人材は、ビジネス・プロセス全体を見渡し、ビジネスの成功に貢献できる仕組みが設計できなくてはならない。お客様とビジネスの言葉で対話できなくてはならない。
一方で、これまでのような特定領域での経験の蓄積に依存した仕事しかできない人は、やがてクラウド・サービスや人工知能に置き換えられてゆく。さらには、簡便にシステムを開発、運用できるツールやサービスを使いこなす現場ユーザーが増えてゆくことも想定し、スキル・チェンジをすすめてゆく必要がある。
情報サービス産業協会(JISA)情報サービス産業の30年より
情報サービス産業の規模は、リーマンショックでの落ち込みはあるものの過去10年を振り返れば、売上規模20兆円、従業員数100万人前後を維持している。しかし、一方で急激な成長も見られない。また、この数字にはモード1とモード2が混在していることも見逃してはいけない。つまり、産業規模全体は維持されているものの、その構造が大きく変わりつつあると考えるべきだろう。
クラウドやハイパー・コンバージド・システムの台頭でインフラ構築需要は工数を生みだしにくくなっている。システム開発においても、PaaSやフレームワーク、ツール類の充実は工数需要を減らす方向にある。それにもかかわらず、この産業規模が維持されている背景には、IT需要が拡大していることを意味している。しかし、モード1型の企業は「売上は維持できても利益が出ない」という課題を抱えている。一方で、モード2型の企業は売上も利益も伸ばしている。さらに、先般のブログ「SI業界の民族大移動がすすんでいる」でも考察したが、できる人材がモード1型企業からモード2企業への移動が始まっている。
これを裏付ける統計がないので、状況証拠ではあるが、それほど大きな間違えはないだろう。
特需に支えられ売上を維持しているモード1型企業の中には、「まだ何とかなる」と考えているところもある。しかし、特需の崩壊は目の前にあることを、改めて考えてみるべきだろう。
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【新規】「セキュリティが不安でパブリック・クラウドは使えない」は本当か? p.79
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