営業力は対話力
あなたはお客様に反論できるだろうか。別に喧嘩腰に感情を露わにして言い負かせるかどうかという話しではない。お客様の依頼に対して、こちらのほうがいいと論拠を示して相手の意見を変えさせることができるかという話しだ。
「お客様は神様です」というのは、言い換えれば「自分は無能です」ということだ。もし本当にそう思っているのなら、営業などという仕事はさっさと辞めた方がいい。それは当然だろう。自分できないこと、自分より優れたものを与えてくれない相手に敬意や信頼を持つことなどできるはずはないし、そんな相手にお金を払おうなどとは思わない。
御用聞きだって馬鹿にしちゃいけない。頃合いを見計らって、「そろそろビール切らしている頃じゃありませんか」とか、「お客様の好みを考えると、この新しいブランド、気に入ってもらえると思いますよ」と相手が面倒でやりたくないこと、気の回らないことを代わりにやってくれるのは本当にありがたい話しだ。「何か御用はありませんか?」などと考えもせず、準備もせずに同じ言葉を繰り返している輩は御用聞きの風上にも置けない。そんな連中は、自分の名前を連呼するだけの選挙カーの騒音と大差は無い。
相手に反論するとは、こちらが「自分の正解」を持っていなければできないことだ。「知識の引き出し」と言ってもいいだろう、あるいは、「あるべき姿」かもしれない。つまり、相手の要求や期待していることについて、それと比較対象となる基準とも言うべきパターンを持っていなければ反論はできない。
反論とはこちらの考えを押しつけることではない。「私はあなたの意見に対してこのように考えるがどう思うか」ということだ。つまり、相手の意見に対して違う視点を提供し、一番いい答えは何かを共に考える行為といってもいいだろう。
こちらから「こういうことに困ってはいませんか?」あるいは、「こんなことをやりたいと思っていませんか?」と仮説を提示し、それを相手に検証することも、本質は「反論」と同じだ。反論は相手がきっかけを与えてくれる仮説検証であり、こちらは自分の想像力できっかけを生みだす仮説検証だ。
いずれにしろ、こちらが前提となる答えやあるべき姿をまずは持っていなければ成り立たない。そして、相手に新たな視点を示して「気付き」を与えて相手の意見を引き出す。そして、それに対してまた自分の意見を繰り出して、合意点を見つけてゆく。そういう行為が「対話」なのだ。
ところで、営業コーチングをしていると「インタビュー」ということばを若い営業連中がよく使っていることが最近気になっている。
「この案件について、詳しく状況を確認した方がいいね。」
そんなアドバイスをすると、
「はい、来週インタビューのお時間を頂く予定ですので、そこでいろいろと訊いてみようと思います。」
そして翌週、その結果を訊いてみると、いろいろと説明をしてくれたのだが、こちらがいくつか質問をするとたちどころに回答に窮してしまう。いったい何をインタビューしてきたのだろうと思うことがしばしばだ。
こちらが、「それはこういうことではないの」、「きっとその状況を考えれば、こんなことになっているのではないのかなぁ」と質問をすると、「確かにその可能性はあります」などと言い出す始末だ。
「インタビュー」もまた仮説検証のアプローチだ。こちらがきっとこうではないかと仮説を組み立て、それを検証する行為だ。「状況を教えて頂けませんか」、「何かお困りはありませんか」などと聞いているようでは、本当のところは分からない。
「こうなっているのではありませんか」、「このことでお困りではありませんか」と「自分の正解」を示し「インタビュー」に臨まなければ、核心に迫ることはできない。そのためには相応の下調べや考察の時間が必要だ。
対話とは仮説検証である。相手の目を見据えて自分の意見主張することである。そして、謙虚に相手の話を聞き、冷静に自分の考えとの違いを理解しようという行為だ。
営業力はこのような対話力がなければ、お客様を理解できないし信頼されることもない。違う意見や新しい視点を与えてくれない相手など、自分にとっては価値のない存在であり、付き合っても時間の無駄だと考えるからだ。だから引き出しを増やさなければいけない、自分の意見を持たなければいけない。そして、何よりも相手の成功を願い、どうすればいいかを考え抜き、そのための「自分の正解」を用意しておかなければいけない。それが対話の礎となる。
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